ビズリーチと立教大がAIの社会実装に向けてタッグ、「求職者の価値観」の発見目指す

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Visionalグループのビズリーチ立教大学大学院人工知能科学研究科は4月27日、AIの社会実装を目的とした共同研究協定を締結することを明らかにした。第1弾として転職プラットフォーム「ビズリーチ」のデータを活用し、AIで「人のキャリアにおける価値観」を発見する取り組みを行う方針。共同研究は4月30日からスタートする。

本人が自覚していないような価値観をAIで可視化

ビズリーチが力を入れている採用領域は直近の新型コロナウイルスの影響もあって急速にデジタル化が進みつつある。言わば「採用のDX」が加速する中で、同社としても「テックカンパニーとしてどのような形で新しいテクノロジーを取り入れ、サービスを提供していけるのかが1つの重要テーマになっている」(ビズリーチ執行役員CSOの枝廣憲氏)という。

ビズリーチでは2016年から社内にAIグループ(旧AI室)を設け、自社サービス内でAIテクノロジーを活用していくための研究開発を続けてきた。今回は2020年4月に日本初のAIに特化した大学院「人工知能科学研究科」を開設した立教大学と連携することで、高度なAIの社会実装を加速させるのが狙いだ。

両者が第1弾の研究テーマに選んだのは、AIによって「本人が自覚していないようなキャリアにおける価値観」を発見すること。AIで人間の感情を推定するような試みだと解釈してもいいだろう。

キャリアを選択する際の重要指標としては定量的に判断できる項目(年収、業種・職種、勤務条件など)だけでなく、仕事のやりがいや価値観など個人ごとに持つ定性的な項目もある。共同研究ではこれまで定量的に分析するのが難しかった個人の価値観を、立教大が注力する深層学習の先端研究を活用してAIで解析することを目指すという。

「本人がこの条件を気にしないと思っていても、実は隠れた行動の中でちょっとしたサインが出ていたりすることがある。他のユーザーや企業のデータなどを複合的に分析していくことで、『もしかしたらあなたはこんなことが好きなのでは?』といった新たな気づきを発見できるかもしれない」(枝廣氏)

立教大学大学院 人工知能科学研究科委員長の内山泰伸氏によると、具体的にはGAN(敵対的生成ネットワーク)を使った新しいレコメンドの仕組みを作る計画だ。僕自身はGANと言えば架空の人物画像の生成などディープフェイク分野に使われているイメージが強かったけれど、内山氏の話ではやり方次第でレコメンドエンジンにも使えるそう。「世界的に見ても成果と呼ばれるものは片手で数えられるほどで、まだまだ研究が進んでいない領域」であり、そこに本気でチャレンジするという。

両者としては研究成果をビズリーチ内で活用していくのはもちろん、論文として発表することも視野に入れている。論文については「当然やるべきだと思っているし、やるからには世界レベルで注目される質のものを目指していく」(内山氏)。

研究機関の先端AI技術をビジネスの現場で有効活用へ

今回の共同研究では、AIの早期社会実装を実現する上で「大量かつ高品質なデータの収集と蓄積の基盤を保有していること」と「最先端のAI研究人材および、HR領域の知見を持つAIエンジニアがいること」が大きなポイントになる。

ビズリーチでは10年以上にわたって運営を続ける転職プラットフォーム・ビズリーチのデータを安全かつ円滑に利用できるように、個人情報の仮名化やノイズ除去を行い、高品質なデータ基盤を構築してきた。この膨大なデータがあるからこそ「ビッグデータ時代に対応したAIを作れる」という。

共同研究では最初に仮説の立案やデータセットの作成を両者で行うが、その際には公開情報やサービスデータから統計的に生成されるダミーデータを用いる。それを基に理論の骨子(アルゴリズム)を作成する部分を立教大側が担当し、そこで生まれたアルゴリズムを実際のサービスに統合する部分はビズリーチのAIグループが担う(まずは匿名化されたユーザーの行動履歴を使いながら実験、検証する)。

この仕組みによって立教大とビズリーチ間においては、ユーザーから取得した個人情報を含むデータの受け渡しを一切せずに研究開発が進められるわけだ。そこで重要なのは両者に高度なAI人材がいることだという。

「ビズリーチ側にAIの研究者がいることで、アルゴリズムを開発した後のリアルデータに適合する工程を立教大抜きで実現できる。これが企業側に研究者がいない場合だと、革新的なアルゴリズムを開発できたとしても、活用するまでのハードルが高く実現に至らない場合もある」(内山氏)

ビズリーチは従業員の約3割が自社サービスのプロダクト開発を担うエンジニアであり、AIグループの中にはコンピュータサイエンスや理学分野の博士号取得者も複数名在籍している。一方の立教大学大学院人工知能科学研究科も今年4月に開設されたばかりではあるものの、AIに関するさまざまな分野で強みを持つ研究者が集まる。

「(立教大は)技術力の観点で日本トップクラスであることに加え、スピード感やベンチャースピリットを持つ『学術界におけるベンチャー企業のような組織』であることが魅力だった。自分たち自身もAIグループを通じて研究開発を進めてきたからこそ、コラボレーションすることで新たな社会価値を生み出せるのではないか。それを期待した産学連携のプロジェクトだ」(枝廣氏)

「ビズリーチの中にはHR分野のドメイン知識とAIの知識をどちらも兼ね備えているエンジニアがいることが大きい。ビジネスにAIを社会実装するには現場の知見が必要で、自分たちだけではどうしようもない部分もある。今回の取り組みは研究費をもらうための共同研究などではなく、研究者同士の対等なコラボレーション。こういう形だからこそ有意義な価値を生み出せると思っているので、(研究機関と企業による)共同研究の良い事例を作っていきたい」(内山氏)