農業流通のアナログな取引業務をスマホとLINEで効率化する「bando」が5000万円を調達

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アナログな業務が残るレガシー産業は、ITスタートアップにとって大きなビジネスチャンスだ。インターネットとスマートフォンの普及が様々な産業のデジタル化を急速に加速させているが、それでも世の中を見渡せばテクノロジーの恩恵を受けていない領域がまだまだ残されている。

2015年創業のkikitoriが挑む“農産物の流通業界”もまさにその1つと言えるだろう。この分野における各プレイヤー同士のコミュニケーションはいまだに電話、FAX、紙の書類が主流だ。現在同社ではスマホとLINEを使って生産者と流通事業者間の取引業務をラクにする農業流通特化型SaaS「bando」を展開しているが、この業界にはITを活用することで大幅に業務効率化を見込める余地がある。

そのkikitoriは5月1日、さらなる事業拡大に向けてCoral Capitalより5000万円の資金調達を実施したことを明らかにした。同社が手がけるbandoはすでに神奈川県を中心に7市場で活用されているが、今後は調達した資金でプロダクト開発体制やマーケティングを強化し、全国の流通事業者へと広げていく計画だ。

スマホとLINEで日々の取引業務を効率化

現在bandoが対象としているのは、農家などの生産者と流通事業者におけるコミュニケーションの効率化だ。

ここで言う流通事業者とは全国各地の卸売市場を取り仕切る卸売事業者のほか、農家と市場をつなぐ役割を担う農協や産地商社のこと。近年は生産者と消費者を直接つなぐ産地直送モデルも広がり関連するスタートアップもいくつか出てきてはいるものの、kikitori代表取締役の上村聖季氏によると国産青果流通の8割以上は市場流通が占める。

メインストリームである市場流通を最適化することで業界全体をアップデートしたいというのが同社のアプローチであり、その第一弾として取り組むのが流通事業者と農家間の課題解決だ。

冒頭でも触れた通り、これらの流通事業者と農家における取引業務はアナログな方法が使われてきた。日々の入出荷連絡、販売単価の通知、資材の受発注、納品書を始めとした各種帳票書類の作成などそのほとんどが電話やFAX、紙の書類でやりとりされている。流通事業者向けの基幹システムはあるものの、普段の取引がアナログなのでデータを手入力しなければならない。

「近年は量販店の台頭などによって従来の競売取引(セリ)から相対取引へ、当日販売から事前販売へと流通の方法が変わっている。流通事業者にとって事前の提案販売時に重要なのは入荷情報を正確に把握していること。そのために担当者が各農家へ個別で電話をして状況を確認しているが、この業務がとても大変。そもそも1人あたり100軒前後の農家を担当しているケースも珍しくないため、全ての農家をフォローすること自体が難しい」

「このフローは農家側にとっても課題がある。電話連絡の場合は相手が対応できるタイミングに合わせないといけないので融通が効かない。また納品書などの必要書類も毎回手書きで書いて送る必要があった」(上村氏)

bandoではこれらの取引業務をスマホとLINEで置き換える。同サービスではLIFE(LINE Front-end Framework)を活用することで、一連の取引を簡単にする機能をLINE上で使えるようにしている点がポイントだ。

たとえば今まで流通事業者側の担当者が農家ごとに1件ずつ電話をかけて確認していた入出荷情報については、農家側がLINE上から2ステップで担当者に通知できる仕組みを構築。これによって電話で確認する手間がゼロになり、双方の負担が大幅に削減される。農家が農作物を持ち込む際に毎回手書きで作成していた納品書も、LINEで送られる出荷情報から簡単に発行することが可能。その都度紙の用紙に記入する手間をなくした。

また流通事業者の基幹システムとAPI連携すれば、担当者が自社システムに入力した日々の販売単価を各農家へ自動で通知する仕組みも用意されている。これに関しても従来は電話やFAX経由だったので、農家によっては販売単価を知らされるのにかなりの時間を要することもあったという。

bandoのビジネスモデルは流通事業者向けのSaaSとして、登録している生産者の数(ID数)や基幹システムとの連携具合などに応じて月額利用料を得る構造。生産者は基本的な機能は無料で利用できる点も特徴だ。

今後は出荷データや販売データを活用した新機能も予定

kikitori創業者の上村氏は総合商社の双日出身。名古屋大学を経て同社に入社し、石炭のトレーディング業務などを担当していた。入社前からいずれ農業分野で起業することを考えていたそうで、双日退職後の2015年にkikitoriを立ち上げている。

最初は前職の経験も活かし、流通事業者から委託を受けて果物の海外輸出業を担ったり、農家のブランド野菜のマーケティングやブランディングをサポートしたりすることからスタート。大手卸売事業者の業務コンサルなども手がけるようになり、徐々に業界内の解像度が上がっていく中で、日々の取引業務における課題点を感じたことがbandoを開発するきっかけになったという。

kikitoriがユニークなのは自社で市場の買参権を取得して実際に仕入れをしていること。仕入れた青果物については都内で4店舗展開しているリアル店舗を通じて販売まで行なっている。自分たち自身も現場に入っていうことで「現場を見ないとわからないことに気付けたり、事業者や生産者の方から信頼してもらえたりといった効果もある」(上村氏)という。

現在のbandoはそういった現場の視点やユーザーの声が反映されたものだ。実は当初クローズドで一部の事業者や農家とテストをしていた際にはネイティブアプリを開発することを考えていたそう。ただ独自のアプリでは農家のハードルが高いことがわかり、LINE上で動くシステムに方向転換することを決めた。

「農家に話を聞いてみると、アプリをインストールする際のパスワードを家族が管理していたり、そもそもパスワードを頻繁に忘れてしまったりといった問題があることがわかった。ほとんどの人たちがLINEであれば日常的に使われていたので、(独自のアプリではなく)LINEを窓口にしてみたらどうかと試してみると反応が爆発的に変わった」(上村氏)

まずは全国の流通事業者へのサービス導入を進めていくのが当面の重要な目標とのこと。それと並行して今後はbandoのアップデートにも力を入れる。

たとえばサービス上でやりとりされる日々の出荷データや販売データを活用して農産物の最適なプライシングをサポートする仕組みや、中長期的には農家向けのスーパーアプリのような形でファイナンスなどさまざまな機能を取り入れていく考えもあるようだ。またサービスの対象を拡張することも考えていて、同じくアナログな要素が多く残る「流通事業者とバイヤー間の受発注業務の効率化」にも取り組んでいきたいという。