スマホやEVなど電子機器の「熱問題」解決へ、名古屋大発素材ベンチャーのU-MAPが約3億円調達

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自社で研究開発した独自素材を用いて電子機器の熱問題の解決に取り組むU-MAPは6月19日、リアルテックファンド、京都大学イノベーションキャピタル、OKBキャピタル、新生銀行、東海東京インベストメントの5社より総額約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

普段スマホやPCを長時間使っていると、機器が熱くなってパフォーマンスが低下することがある。僕自身ビデオ会議が続いた時などにそういった状況によく陥るけれど、これも電子機器の熱問題の1つだ。他にもEVや通信システム(5G)、データセンターのサーバー、AI・IoT端末など個人向けのデバイスから産業機器まで熱問題が影響を及ぼす領域は幅広い。

機器の発熱はパフォーマンスの低下だけでなく、機器寿命の低下や安全性の低下にも繋がる。EVのバッテリーは適正温度より10度高くなるだけで性能や寿命が50%低下するケースもあると言われるほど。特に産業機器などでは発熱が大規模な障害や事故の原因になったりもする。

だからこそ電子機器を設計する際にはパソコンにおける冷却ファンのように、冷却設備を搭載することで機器の温度が上がりすぎないように工夫されるわけだ。

U-MAP代表取締役社長兼CEOの西谷健治の氏によると冷却設備は大きなエネルギーが必要になるだけでなく、デザインの自由度の低下やコストの増加などいくつか課題もあるそう。ただし今の所は「それでも冷却設備を入れざるを得ないのが現状」だという。

そこで「機器の内部に使われる材料を従来よりも高性能化(高熱伝導化)する」ことで現在課題となっている部分を解決するとともに、熱問題自体をなくしていこうというのがU-MAPのアプローチだ。

西谷氏の話では電子機器の多くは主要な材料としてセラミックスや樹脂が使われている。それらを高性能化するためのカギとなるのが「フィラー」と呼ばれる添加物であり、U-MAPでも独自のフィラーの研究開発に取り組んできた。

コアとなるのは名古屋大学の宇治原研究室の研究成果である繊維状窒化アルミニウム単結晶(Thermalnite : サーマルナイト)だ。U-MAPはThermalniteの社会実装を目指すべく2016年に設立された名古屋大学発のスタートアップで、西谷氏も同研究室の出身。一度別の企業で経験を積んだ後、U-MAPに入社して2018年に代表に就任した。

Thermalniteはセラミックスや樹脂に混ぜ込むことで、これまでにない「高熱伝導+α」の新機能材料を実現できるのが最大の特徴だ。

たとえばセラミックスにThermalniteを添加した「セラミックス複合材料」では、高い熱伝導性に加えて機械強度の向上が見込める。セラミックス複合材料は主に産業用のパワーモジュールや光モジュール、EVの基盤などに使用されるもので、尋常じゃない熱が発生するためそれをいかに逃していけるかが重要だ。

ここでポイントとなるのがセラミックスは特性上「強度が弱い」という弱点を持っていること。そのため基盤を分厚くしなければならないが、分厚くすればするほど熱の逃げ方は悪くなってしまう。要は「熱を逃がすために高い伝導性を持つセラミックスを使っているのに、分厚くするために熱が逃げづらくなっている状況」がこれまでの課題だった。

「Thermalniteを使えば高い熱伝導と同時に高い機械強度も両立できる。たとえばEVであれば放熱性能を高めつつモジュールサイズを小型化し、ボディのデザイン性を高めたり(冷却エネルギーを抑えることで)燃費を向上させたりする効果も見込める」(西谷氏)

樹脂にThermalniteを加えた「樹脂複合材料」の場合であれば、高熱伝導性を維持したまま樹脂の特性を十分に発揮できるようになる。樹脂複合材料はスマホやPC、EV、5G基地局など広い用途で使われるものだが、従来の高放熱樹脂材料は少しでも性能を高めるべく樹脂の中に放熱フィラーを70〜80%以上添加している。それによって生じる問題は樹脂の軽さや柔軟性といった特性が損なわれてしまうことだ。

「Thermalniteの強みは10〜20%の少ない添加量でも従来と同等以上の熱伝導性を実現できること。これまでは熱伝導性を担保するために樹脂の特性などは気にしていられなかったが、添加量を少なくできれば軽さや高い加工性など樹脂の特性も残せる」(西谷氏)

U-MAPの樹脂複合材料は従来とは異なる特性が要求される成形方法での部品製造や、機能性材料のニーズが強い5Gなどの次世代通信、EVなどへの展開が可能だ。

一例をあげると多様なメーカーが5G対応の材料開発に力を入れているが、そこでは電波の透過率(誘電率)が重要な指標になる。誘電率を低くするほど電波が通りやすくなるためメーカー側は誘電率の低い材料を望み、そのニーズに応えるにはフィラーの添加量を抑えることが効果的でU-MAPの素材の特性とマッチするのだという(フィラーを添加するほど誘電率が高くなるため)。

5Gは今後U-MAPがメインターゲットにしていく領域の1つになるが、同社ではそれ以外にも様々な産業での展開にチャレンジしていく方針。すでにThermalniteおよびThermalniteをセラミックスや樹脂に添加したマスターバッチのサンプル販売に取り組んでいて、延べ70社以上の企業に販売している。

今回の調達はThermalniteの量産化を見据えた研究開発体制の強化やアライアンスの強化などが主な目的だ。U-MAPでは今後も名古屋大学とも連携しながらThermalniteを社会に広げていくことで、熱問題の解決を目指すという。