自社株を売れない創業者たちへ、分散化のすすめ

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編集部注:本稿を執筆したPeyton Carr(ペイトン・カー)氏は、創業者や起業家およびその家族の財務アドバイザーとして、財務計画や投資に関するアドバイスを行っている。Keystone Global Partners(キーストーン・グローバル・パートナーズ)の代表取締役社長。

シリーズ前回の記事では、自社株集中型の投資を自分の投資計画全体の中でどのように位置づけるべきかを熟考する方法について考えた。今回は、自社株をなかなか売れない人がいるのはなぜなのか、その理由について詳しく見ていきたい。

初めて自社株集中型の投資をする人の多くが、「自社株に集中的に投資すれば、いずれ莫大な利益を手にできる」という神話のような思い込みをしている。本記事では、集中型投資の実情を紐解くとともに、ポートフォリオの分散化が堅実な選択肢である理由を説明する。

ポートフォリオ分散化にはどのようなメリットがあるのか、自社株をどの程度保有すると過剰集中になる得るのか、さらに、ポートフォリオを戦略的に分散させるためにどのような選択肢を検討できるのか、といった点について学べる記事になっているので、ぜひ最後までお読みいただきたい。

自社株集中型の危険性

自社株集中型のポジションを継続するか否かを検討する際に、いくつかの厳然たる事実を心に留めておく必要がある。

  1. 言うまでもなく、すべての株をアップルやアマゾンの株と同じように考えてはならない。Hendrik Bessembinder(ヘンドリック・ベッセンビンダー)氏が発表した研究によると、1926年以降の米株式市場全体の上昇のほとんどを、上場銘柄のうちパフォーマンス上位4%の企業が担っていたことが判明したという。残りの96%の銘柄の合計収益率は、米国短期国債の収益率とほぼ同じだ。1926年以降、上場全期間の利益率が米国1か月短期国債の利益率より低い銘柄は、米国株式市場の58%を占める。また、ラッセル3000指数(米国企業株のうち時価総額上位3000銘柄からなる株価指数)に登録されている全企業のうち40%の企業の時価総額が、1980年以降、各々の最高値から少なくとも70%は下落している。
  2. それでも、ブロードベースの銘柄では他の大半の資産クラスを上回る年間9%強のリターンを生み出しているのは、前述の上位4%企業の利益率が高いためだ。将来上位4%に入る企業を確実に言い当てることは誰にもできないが、分散化すれば上位4%の企業の株を必ず所有できる。
  3. 仮に、現在集中的に保有している特定の銘柄がアップルやアマゾンに匹敵する銘柄になるとしよう。しかし、どちらの株価もこれまでに90%を超える下落を経験しているという事実を忘れてはならない。それでも、大半の投資家はそのような下落が起こるという確信が持てず、同じ銘柄を保有し続ける。その銘柄がポートフォリオの運用益と純資産の大部分を占めている場合はなおさらだ。大暴落は、その企業自体とは関係のない業界または既存の脅威によって引き起こされることもあれば、その企業固有の事情によって引き起こされ、外部要因は一切無関係という場合もある。

新規IPOを達成した企業が上位4%に入る確率はルーレットで自分のラッキーナンバーに玉が入る確率よりもわずかに高い程度だ。あなたは、成功する投資ポートフォリオと、長期的な財政目標を達成する確率を、ルーレットを回すような方法で決めたいと思うだろうか。

分散化の利点

ボラティリティ(株価の変動率)が極度に高いと、運用益が低下することがある。以下の例は、ボラティリティの低い分散型ポートフォリオとボラティリティの高い集中型ポートフォリオを比較したものだ。単純平均利益率は同じであるにもかかわらず、低ボラティリティのポートフォリオの方が高ボラティリティのポートフォリオよりも実質的に高いリターンを生み出している。

Image Credits: Peyton Carr

単純に計算することはできないが、予期せぬ時にボラティリティが急上昇すると大幅な価格低下が起こることがある。価格が乱高下すると、投資家が感情的に反応して、賢明でない投資判断を下す可能性が高くなるためだ。このような「行動ファイナンス」の側面については記事の後半で説明する。ポートフォリオのボラティリティを低下させるのは簡単だ。ポートフォリオの分散化を進めるだけでよい。

米国の大手上場企業3000社で構成される株価指標であるラッセル3000指数は、95%強に属するどの単一銘柄よりもボラティリティが低い。では、ボラティリティを低く抑える代償としてあきらめるべき利益はどの程度のものなのだろうか。

Northern Trust Research(ノーザン・トラスト・リサーチ)によると、ラッセル3000株の利益率は年間平均5.96%で、中央値の利益率5.23%よりも0.73%高い。つまり、単一銘柄ではなくラッセル3000株を保有することで、壊滅的損失を被る可能性を排除できるということだ。ちなみに米国株式市場では、20%以上の銘柄が、20年間で年間平均10%を超える損失を出している。

この事実が過度の集中型ポートフォリオを避けることの重要性を証明しているとしたら、「過度の集中型」とは、特定銘柄をどの程度保有することを意味するのだろうか。また、そのような株はどの程度の価格で売るべきなのだろうか。

「自社株集中型」の定義とは

この記事では、保有している特定銘柄のポジションがポートフォリオの10%を超える場合に「集中型」のポジションとみなすことにする。厳密に定義する具体的な数字はない。集中度が適切なレベルかどうかは、必要な流動性の程度、全体的なポートフォリオ価値、リスク選好度、長期の資金管理計画など、いくつかの要因に左右される。ただし、10%を超えて、その単一ポジションのリターンとボラティリティがポートフォリオのパフォーマンスを左右し始めたら、ポートフォリオのボラティリティが高い状態と言ってよいだろう。

ポートフォリオを構成する自社株は、会社全体の財務リスクのわずかな部分にすぎない場合が多い。自社株以外のリスク源としては、制限付き株式、RSU(譲渡制限株式ユニット)、株式オプション、従業員株式購入制度、401k、その他の株式報奨制度、および会社の成功に応じた現在および将来の給与動向などが考えられる。大抵の場合、財務目標を達成するための賢明な方法は、ポートフォリオを適度に分散させることだ。

売りたくないと感じる理由

事実はどうあれ、より計画的なアプローチをとるよりも、自社株を集中的に持つことに魅力を感じるのは自然なことだ。現実を示す退屈な論拠よりも、ザッカーバーグやベゾスなどの数少ない成功例の方が輝かしく思えるし、実際、自分自身に賭けて莫大な利益を得る可能性がないわけではない。つまり、感情に負けてしまうわけだ。

しかし、ここで株に関する投資戦略と意思決定の根拠とすべきなのは、感情ではなく、自分の投資目標である。投資ポートフォリオとそれに含まれる自社株は、その目標を達成するためのツールとして使用するべきである。

そこでまず、意思決定に影響を与える行動心理学について詳しく見てみよう。

あらゆる証拠が「売り」を示しているにも関わらず、こんな心の声が聞こえることがある。

「この株は売りたくない」

こうした気持ちに抗いがたいのはなぜだろうか。これは人の自然な性である。筆者も同じ気持ちになることがある。人は、偏った見方を正当化し、そうした見方に影響を受けやすいことを信じまいとする、強い衝動を感じることがある。

自分が立ち上げた会社に執着するのは当然だ。何といっても、その株こそが今の自分に富を授けてくれたものであり、今後もそうしてくれる可能性があるのだ。確かに、集中的に保有している自社株を売って分散化するのはなかなか難しいものだが、大抵はその方が合理的な判断である場合が多い。

多くの研究によって、投資行動と心理学の間の相互関係について深い考察が行われてきた。データは自社株を集中的に保有すべきでないことを示しているのに、無意識のうちに発生している心理的障害と行動的バイアスに影響されて、集中的な保有を続けてしまうことがある。

このようなバイアスについて理解しておくと、株を売るかどうかを判断する際に役立つ。こうした行動的バイアスは気づくことさえ難しく、克服するのはなおさら困難だが、まずはその存在を認識することが克服への第一歩である。以下に、一般的な行動的バイアスをいくつか挙げてみる。自分に当てはまるかどうか、確認してみよう。

親密性バイアス:非常に多くの創業者たちが自社株を集中的に保有し続ける理由はおそらくこれだ。自分の知っているものは危険性が低いと考えるこのバイアスのゆえに、自社株は安全だと勘違いしてしまいがちだが、両者は別の問題だ。株式市場では、親密性と安全性は必ずしも連動しない。優良な(安全な)会社であっても株価が危険なレベルまで過大評価されることはあるし、ひどい会社でも株価が不当に過小評価されることもある。会社の質だけを見て、その会社の株が将来高い利益率を達成するかどうかを判断することはできない。重要なのは、その会社の質と株価との関係性である。

もう1つ、このバイアスが顕著に表れるのは、創業者が株式投資に疎く、所有している株は自社株のみ、というケースだ。このような創業者は、市場で取引するより自社株を自分で持っていた方が安全と考えるかもしれないが、実際は、自社株のみを保有するより市場で取引した方が安全であることが多い。

自信過剰:特定の個別銘柄を過度に集中的に保有する投資家は例外なく自信過剰になっていると言える。創業者たちは自分の会社を信じやすい。何といっても、IPOを達成するまでに成長してきた会社なのだから、自信を持つのも当然だ。しかし、この自信が株に関しては見当違いを生む。創業者は多くの場合、値が上がっている自社株を売るのを嫌がる。さらに上がると信じているからだ。自社株が売られている時でもやはり同じで、値が戻ると信じて疑わない。会社に対する強い愛着感が先に立って、客観的になるのが難しい創業者は多い。大抵の創業者は、自分は一般には知られていない独自の情報を持っており、自社株の「本当の」価値を知っている、と信じている。

アンカリング効果:一部の投資家は、過去に体験したことを固く信じ込む。集中的に保有している銘柄の株価が下がっても、その株には直近の高値が付くだけの価値があると信じて、売ろうとしない。しかし、この直近の高値というのは、本当の価値を示すものではない。本当の価値を示しているのは現在値である。買い手と売り手が現在入手可能なすべての情報を考慮した上で取引した結果として付いた値だからだ。

授かり効果:多くの投資家は、自分が所有している資産に対して、その資産を所有していない場合に付ける値よりも高い価値があると考える傾向がある。これが、売るのをさらに難しくする。授かり効果が発生しているかどうかをチェックするいい方法がある。「この株を今持っていなかったら、今日この価格で買うだろうか」と自問してみることだ。今日この価格では買わないとしたら、授かり効果が発生しているためにその株を保有し続けているだけ、という可能性が高い。

これを別の視点から見るには、IKEA効果の研究について調べてみると面白い。この研究では、自分が作ったものに対して、その価値を潜在的価値よりも高く評価することが証明されている。

このような背景を合わせて考えてみると、投資家は集中的に保有している銘柄を売るかどうかを判断する際に、かなり恣意的になる可能性があるということがわかる。こうしたバイアスはなかなか気づきにくいものだ。相談できる人、共同経営者、アドバイザーなどがいると有効なのはそのためだ。

大切なのは「流されない」こと

特定の銘柄を集中的に保有できている皆さんにはおめでとうと言いたい。簡単にできることではないし、将来大きな富につながる可能性があるからだ。ただ、集中型のポートフォリオを管理する方法にいわゆる「正解」はないと心得てほしい。人によって状況は異なるため、自分の状況に合った選択肢について専門家に相談することが絶対に必要だ。

まずは、達成したい具体的な投資目標を盛り込んだ財務計画を立てよう。何を達成したいのかを明確に理解できると、事実を新しい観点から見ることができるようになる。さらに、合理的な意思決定と投資行動がもたらすあらゆる影響と機会について考慮することにより、自社株を集中的に保有することの危険性とポートフォリオ分散化の利点に対する理解が深まるだろう。

戦略的に分散化するには

自分の株を普通の方法で単に売るだけなら誰にでもできる。しかし、分散化には他にもさまざまな戦略がある。最大限の節税に効果を発揮する戦略もあれば、望み通りのリスク・報酬バランスを達成するのに適した戦略もある。いつ売るのがベストかを知りたい人もいるだろう。シリーズ最終回となる次回の記事では、こうした点について説明する。

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タグ:投資 コラム

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(翻訳:Dragonfly)