人種差別、がん、離婚などのトピックを扱う子ども向け書籍のスタートアップ、創業から現在に至るまでの歩み

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企業家であり父親でもあるJelani Memory(ジェラニ・メモリー)氏は、長い間、子ども向けの本を書きたいと思っていた。同氏は、自分が経営するスタートアップであるCircle MediaのシリーズB投資ラウンド中に、燃え尽きたように感じ、もっとクリエイティブで充実した何かを始めたいと思い始めた。これが、A Kids Book Aboutを創業するきっかけとなった。A Kids Book Aboutは、親が子どもといっしょに難しいトピックや会話に挑むのを支援する書籍出版プラットフォームだ。最初に出版された本のタイトルは『A Kids Book About Racism』だった。

メモリー氏は次のように述べている。「私自身、父親として子どもたちと人種差別に関する会話をしようとしていた。子どもたちもこの本を気に入っていた。この本を読んだ後、子どもたちは新しい質問をいろいろとしてきた。人種差別という話題についてそんな質問を子どもたちから受けたことはそれまでなかった」。

メモリー氏がこの本を友人や同僚にも読んでもらったところ、他のトピックについても本を書いたらどうかと勧められた。

同氏は次のように語っている。「それがすべての始まりだった。朝起きたときも、夜寝る前も、日中仕事をしなければならない時間もそのことで頭がいっぱいだった。このような本が必要だ、少なくとも自分の子どもたちには絶対に必要だと直感的に感じていた。一部のトピックは、子どもたちとの会話で取り上げることがあまりに難しいと感じていたからだ。私は自分がオープンな父親で、子どもたちとさまざまなことを話していると思うが、中には取り上げにくいトピックもある。取り上げるつもりでいても、何と言ってよいかわからないこともある」。

これには多くの人たちが共感するのではないか。George Floyd(ジョージ・フロイド)氏が警官に殺された翌日、『A Kids Book About』シリーズは、その前の月全体と同じ冊数が1日で売れた。そして、その勢いは止まることがなかったそうだ。その翌日の売り上げは2倍、さらにその翌日も2倍になり、その後も安定した売り上げを記録した。10日という短い期間で、A Kids Book Aboutは100万ドル(約1億600万円)を超える収益を達成した。

メモリー氏はこう述べている。「正直なところ、あの時点の在庫で年末まで十分に持つだろうと思っていた。だが、2つのタイトルを除き、すべて売り切れてしまったのだ」。

6月のある時点で、入荷待ちは5万冊ほどになっていた。

メモリー氏は次のように語っている。「大人たちもやり方がわかってきて、子どもたちとこうした有意義な会話ができるようになっていった。人種差別に関する本が本当によく売れたが、読者の意欲は素晴らしく、がん、フェミニズム、共感、マインドフルネスといったテーマの本が瞬く間に売れていった。見ていて快感だったよ」。

A Kids Book Aboutは2019年に正式に創業し、同年10月には12タイトルが発売された。現在は25タイトルが販売されており、今後さらに増えていく予定だ。A Kids Book Aboutは直販ビジネスを主体とした「かなりユニークで新しい出版モデル」だとメモリー氏は説明する。

同社では、少人数の集中的なワークショップによって本をあっという間に書き上げてしまう。まず作家に声をかけ、会社のビジョンとミッションについて説明し、その作家と本を共同で執筆する。本を出した経験がない人を意図的に探しているが、以前に本を出した経験がある作家もいる。

メモリー氏は次のように説明している。「本を出した経験がある人となると、大抵は、同性愛者ではない白人の男性になってしまう。我々としては、個人的にさまざまな経験をしており、実体験を通してそのトピックの裏も表も知り尽くしている人を求めている」。

Image Credits: A Kids Book About

出版業務に話を移すと、A Kids Book Aboutでは、本の収益の10%以上を印税として作家に渡すという。従来の出版社の印税は6%程度だ。また、書店に並ぶまでの平均日数は45日と大変短い。従来の出版業界では18か月もかかるところだ。

新型コロナウィルス感染症のパンデミックが発生したとき、A Kids Book Aboutでは、このトピックを取り上げる必要があると考えた。そこですぐにゴーサインを出し、ある社会疫学者と協力して4日間で無償の電子ブックを作成した。書籍版は来月、先行予約を開始する。

フロイド氏の死によって火がついた大きな社会運動の最中、同社では、人種をテーマにした本を追加する必要があると考えた。

メモリー氏は次のように述べている。「私の書いた『A Kids Book About Racism』は人種差別についての会話を始める良いきっかけにはなると思うが、このテーマであと数冊は出す必要があると考えた。今、白人の特権に関する本を急いで執筆しており、今年の秋に出版する予定だ。また、人種差別シリーズの最後の分野として使えるよう、組織的人種差別についての本も執筆中だ」。

A Kids Book Aboutのビジネスのやり方で従来と異なる点がもう一つある。資金調達の方法だ。資金調達プロセスでは、投資家が自分を選ぶだけでなく、自分も投資家を選ぶ、とメモリー氏は言う。

メモリー氏はこう説明している。「これによって、多くの無益なやり取りを回避できる。もちろん、投資の申し出の一部を断る必要もあった。しかし、何よりも、視野を広げて、非白人の投資家を増やすことができるのだ」。

メモリー氏は、スタートアップに今まで投資したことがない投資家も探した。

「適格投資家からだけでなく、適格投資家以外の人からも資金を調達する余地を残しておくことがとても重要だった。富の連鎖がこのまま続くと、富める者だけがますます富むという結果になることがわかっていたからだ」と同氏は述べている。

A Kids Book Aboutは、Cascade Seed Fund、Color Capital、Black Founders Matterなどの一握りのシードファンドから100万ドル(約1億600万円)を調達した。

メモリー氏は次のように述べている。「がんや人種差別などのトピックを扱う子ども向け書籍の直販スタートアップなど、ベンチャーキャピタルにはあまり受けない。私が非白人の創業者であること、またこれが2度目の創業であることもあり、投資家に感銘を与える話をすべきだと何度も勧められた。そのたびに私は、『わかっていない。これは慈善事業じゃないんだ』と答えた。そうした人の投資はすぐに断った」。

メモリー氏によると、eコマースや消費者向けファンドを除けば、全体として、投資家たちの反応はとても良かったという。だが、出版業界について、また同氏のビジネスが今までにないものだということについて、よく分かっていない投資家だけになってしまうこともあったという。

メモリー氏は次のように語っている。「大半の投資家は自分のことを、恐れずにリスクを負う人間だと思っているようだが、私に言わせれば、彼らは地球上で最もリスクを嫌う人たちだ。資金調達とはつまり、自分のしていることを本当に理解してくれる真の支援者を見つけることだ。このビジネスのために100万ドル(約1億600万円)を調達できたことに今でも少し驚いている。しかも、その半分はパンデミックによるロックダウンの真っ只中に調達できたのだ。でも、素晴らしい結果を出していることを書いても、もう問題ないだろう。あの当時、すでに多くの人たちと話をしていたことも。数日で50万ドル(約5300万円)を売り上げるようになった頃には、自分たちとは考えが合わないか、単純に資金の割り当て先を確保できなかったという理由で、かなりの数の投資家たちの申し出を断るようになっていたことも」。

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カテゴリー:EdTech

タグ:A Kids Book About アントレプレナーシップ 差別

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(翻訳:Dragonfly)