デジタルトークン

いまこそ暗号通貨活用のとき、投票用紙や小切手を4000年前と同じ方法で郵送する必要はない

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生活給付金の小切手や選挙の投票用紙が、受領者にタイムリーに届くようにすることの緊急性が高まっている。経済回復と私たちの民主主義の未来がそれにかかっているのだ。にもかかわらず、私たちは今だに、4000年以上前の古代エジプト人によって発明され、後に中国の周王朝とペルシャのキュロス大王によって完成された技術を使用している。現代的な郵便システムの整備は、1775年の第二次大陸会議によって下された重要な決定の1つだった。しかしながら、このデジタル時代に、小切手や投票用紙を、医薬品や靴のような有形商品であるかのように郵送することは理にかなっているだろうか?

郵便システムの主な利点は、人口全体をカバーできる可能性があるということだ。対照的に、誰もがスマートフォンや信頼できるWi-Fi接続を誰もが持っているわけではなく、ストレスなく使いこなせるわけでもない。そして、ここ数カ月の間に、米国の金融および選挙のインフラが現代化していないことが、はっきりと示されてきた。 米国議会によれば、CARES法が制定されてから2ヶ月以上経った今でも、3000万〜3500万枚の給付金小切手(全体の約20%)が、意図した受領者の手に届けられていない(米政府配布資料)。一方で、ニューヨーク、ニュージャージー、ケンタッキー、ジョージアなどの各州では、郵便投票による処理能力オーバーが発生し、いくつかの予備選挙の結果が数日または数週間遅れることになった。

これらの難問の多くに対する解決策が、暗号通貨の世界、またはより正確には、それらの基礎となるテクノロジーからもたらされる可能性がある。それらの採用を進める動きは、米国や各国の政府高官、金融当局、および銀行家たちによって妨害されてきた。彼らは迅速に法定通貨の救済に動き、もし暗号通貨が広く採用されたなら、不景気と経済的破綻が招かれることになるだろうと予言したのだ。ビットコインの試練や苦難、ならびにFacebookが主導するコンソーシアムであるLibra(リブラ)に対する反応を見ていると、暗号通貨は、単なる通貨の代用以上のものにならない限り、広く使用されるようにはならないだろう。

これまでのところ、暗号通貨は、各トランザクションが暗号化を利用して送信者の認証を受ける、電子キャッシュの形で利用されてきた。支払いと残高はブロックチェーンテクノロジーを使用して記録される。これにより、スムーズなトランザクション速度、透明性、セキュリティが実現する。ちなみにビットコインのキーを破ることは、ロトに9回連続で当選する確率に等しいと推定されている。それでも、政府高官や銀行家たちは、それらが必要であるとも有用であるとさえも考えていない。

しかし、暗号通貨を現金の形よりもはるかに大きな利用価値を持つ、多目的デジタルトークンに変えたらどうなるだろうか?伝統的なお金には交換価値はあるものの使用価値はない(問題点をはっきりさせるためにカール・マルクスの用語を用いたことをお許し願いたい)。支払いだけでなく選挙にも役立つように、私たちが完全にお金を再発明したらどうなるだろう?

毎日、数十億のトランザクションがグローバル市場経済の中で行われている。それぞれのトランザクションには、少なくとも2つの取引相手がいる。たとえば買い手と売り手、保険者と被保険者、または借り手と貸し手などだ。より広義には、人間は誰でも、結婚、離婚、誰かが亡くなった後に財産を分配する遺言などの法的合意を含む、当事者と相手方が存在するあらゆる種類のトランザクションに関係しているのだ。デジタルトークンを使用することで、こうしたプロセス全体を簡単かつ安価にできる可能性がある。

それだけでは終わらない。株式、商品、借金、不動産、芸術、出生、事実婚契約、卒業証書、投票など、実質上すべてをトークンに変えることができる。データでさえトークンになり、GoogleやFacebookのようなものを破壊する可能性がある。

ブロックチェーンの素晴らしさは、本来の意図された目的から、あらゆる方向への水平展開を行えることだ。1つの可能性は、デジタル通貨を、スマート契約、デジタル記録管理、および分散型自律組織と組み合わせることだ。これらすべてのアイデアは、5年前に提案された、いわゆるブロックチェーン2.0によって実現することができる(Wired記事)。また、ブロックチェーンに記録されたすべてのトランザクションから、政府の取りぶんを自動的に差し引くことにより、徴税をより簡単にすることができる。一般的に、企業のサプライチェーンの管理は、契約の履行、記録の保持、追跡、支払いの回収、補充などのメカニズムを組み合わせることによって簡素化され加速される。

デジタルトークンの別の水平展開アプリケーションは、政府と市民、政党と有権者、あるいは企業と株主の間の相互作用に関係するものだ。たとえば、世界中の選挙は、いまでも紙の投票用紙や非常に初歩的な投票機を使って行われている。ブロックチェーン対応の電子投票により、投票所が不要になり、投票がしやすくなる。投票を行う市民に対して、それぞれの候補者または課題ごとに、一意のデジタルトークンが与えられる。

市民は個人キーを使用して認証を行ったあと、投票する権利を行使することができる。関心と投票率は増加する可能性があるものの、各人のデジタルアクセシビリティ(デジタル手段へのアクセス可能性)が不平等を拡大する懸念事項として浮上する。実際、ブロックチェーンテクノロジーを使うことで、すでに高い参加率を持つ、より教育を受け、より洗練された個人のグループの間での投票率が、さらに高いものになるかもしれない。国政選挙ではそのリスクはさらに高い。欧州議会が発表した研究(欧州議会サイト)では「単に結果が公正かつ有効であるだけでは十分ではない」と主張されている。「有権者全体が、たとえ結果に失望したとしても、プロセスが合法的で信頼できるものであったということを受け入れなければならない。従って、実際のセキュリティと正確さを提供するだけでなく、電子投票は信頼と信頼を触発する必要がある」。

さらに別の方向の展開も考えたらどうなるだろうか?デジタルトークンとブロックチェーンテクノロジーを使用して、政府関係者に対して特定の事前合意された条件下で、選挙公約に自動的に対応するように強制した場合はどうなるだろう?納税者は説明責任と引き換えに暗号通貨を利用する。例えば、ある選挙の後に、特定の予算カテゴリーに割り当てられた拘束力のあるスマート契約またはお金を通じて、特定の政策を施行することができる。また、市民は政府がどれだけ支出しているか、そして政府が約束を果たしているかどうかを追跡することができる。

スマート契約は、政府の政策決定の局面だけでなく、経済全体で使用することができる。これらには、特定の条件が満たされた場合に自動的に実行される、トランザクションの当事者たちによって合意された、一連の指示が含まれる。すぐに考えられる簡単な例はローン契約だ、この場合市場金利が下がった場合に、住宅ローンの保険料が引き下げられる。 英国政府Chief Scientific Advisor(主任科学顧問)にでは、ブロックチェーンテクノロジーとデジタルトークンの利用を通して、コストを削減し、コンプライアンスを支援し、説明責任を向上させることで、政府サービスを改善することを提案し(英国政府の2016年のレポート)ている。また、税金の徴収、給付金の支払い、市民とのやり取りをよりスムーズにすることにも役立つ。

デジタルトークンの潜在的な可能性のいくつかを、すでに認識している国家も存在している。エストニアは、世界で最も先進的な電子政府の本拠地となっていて、e-エストニアとして世界に知られている。人口130万人のこの小さな国の市民は、オンラインで給付を申請し、処方箋を入手し、自身の事業を登録し、投票し、その他約3000の政府のデジタルサービスにアクセスすることができる。Wiredは2016年にエストニアを「世界で最も先進的なデジタル社会」と名付けている。

ガーナやケニアなどの一部のアフリカ諸国は、テクノロジーを通じて政府を国民に近づけるための、世界的な取り組みの最前線にいる。 世界銀行によれば、「eGhana(eガーナ)プロジェクトは、多くのアフリカ諸国で模倣されつつあるICTプロジェクトの先駆的デザインを代表している」(世界銀行データ)という。また、ある独立研究チームがケニアの取り組みを評価し、ケニアは「電子政府の実現に適した、政治的、法的、ビジネス的な環境を作り出している」と述べ、「公務員の削減、24時間体制のサービス、高速で便利なトランザクション、透明性と説明責任の向上、スタッフの生産性の向上、情報の容易な流通」といった利便性がもたされたと結論付けている。

多目的デジタルトークンの可能性は本当に無限だ。私たちの時代の重要な地政学的問題の1つは、著作権の侵害だ。体系的な知的財産の窃盗の結果、多くの貿易戦争が引き起こされてきた、これには現在米国と中国の間で進行中の騒動も含まれている。著作権所有者は、ロイヤルティの支払いに対してデジタルキャッシュを受け入れ、企業や個人にデジタルキャッシュを利用することによる割引を提供すれば、はるかに簡単に権利を行使することができる。テクノロジーに支えられた世界経済は、旧来の官僚的な規制や、知的財産使用の許認可を行う場所ではない。これは特に、自動車やコンピューターなどの複雑な製品、およびソフトウェア、音楽、動画などの無形のコンテンツによく当てはまる。

デジタルトークンは、人々や企業に対して、環境保護行動のインセンティブを与えることもできる。おそらく重要な提案としては、企業や個人がカーボンクレジットをデジタルトークンに変換できるようにして、取引所で取引したり暗号通貨に変換したりすることを可能にすることや、住宅所有者が地元の電力会社との間の煩わしい書類手続きなしに、過剰な太陽光電力を販売できるようにすることが挙げられる。

スタートアップのEnergiMine(エナジマイン)は、公共交通機関を利用したり、古い電気器具を効率の良い電気器具に交換したり、家の断熱を強化したりして二酸化炭素排出量を削減した人たちに対して、報奨としてトークンの形で「金の星」を提供するために、ブロックチェーンを使用している。得られたトークンは公共料金の支払いに使用したり、割引で暗号通貨と交換したりすることができる。同様のシステムは、食品、飲料、衣料品、パーソナルケア製品など、大きな二酸化炭素排出量がある特定のカテゴリの消費財にも設定することができる。こうすることで、消費者は購入による環境への影響を測定することができる。

だが地球を救うために情報技術を使用することには明らかなマイナス面がある。それは情報技術そのものが気候変動へ影響を与えている大きな要因であることが判明したことだ。 Nature(ネイチャー)のレポートによれば、2030年までには20%を超える電力が、情報ならびに通信インフラストラクチャを稼働させるために利用されると予測されている。

「データセンターは炭素排出量全体の約0.3%を占めているが、情報通信技術(ICT)エコシステム全体(個人のデジタルデバイス、携帯電話ネットワーク、テレビを包括したもの)では、全体排出量の2%以上を占めている。このことから、ICTのカーボンフットプリントは、航空業界の燃料からの排出量と同等のものになる」。これは、莫大なエネルギーを消費する暗号通貨取引の、この先予想される増加を考慮に入れていない。「私たちは非常にデータを大量に消費する社会であり、ますます大量のデータを使用し、それらすべてが、ますます多くのエネルギーを使用していくだろう」。デジタルトークンは、データセンターを運営する企業に、再生可能エネルギー源の使用を奨励するためにも使用することができる。

市民サービス、知的財産、気候変動への取り組みに加えて、使用価値と交換価値の両方を持つデジタルトークンは、他の多くのアプリケーションの中でも、銃の追跡、絶滅危惧種の保護、ダイヤモンドの起源の証明のためのシステムなどを提供できる。暗号通貨は、ユーザー(および規制当局)の想像力を引きつけ続ける、それは私たちがお金について考えたり使ったりする方法を変えてしまうのだろうか、またそれはビジネスや個人のファイナンスを管理するためだけでなく、私たちの生活を改善するための新しい視野と可能性を開くものなのだろうか。もしデジタル通貨が単に現金に取って代わるだけのものなら、私たちはがっかりするかもしれない。

しかし、個人に対して資源を保護したり、二酸化炭素排出量を減らしたりするインセンティブを提供すると同時に、現金を受け渡すという高いコストを排除できたなら、私たちは金融の世界に構造的な変化が起こることを目撃し、同時により良い未来を生み出すことになるだろう。

最終的には、デジタルトークンは、社会に役立つ個人やグループの行動を奨励することに対しては、強力なツールだ。デジタルトークンが広く使用されるようにするには、社会のすべての人にとっての長期的なメリット(たとえば二酸化炭素排出量の削減)だけでなく、即効性のメリット(使いやすさやトランザクションあたりのコストの削減など)も必要である。たとえば、デジタルプラットフォームで共有することによって、食料や衣服に関する無駄な行動を減らした場合には、保有する暗号通貨に対する利息を高く出来るはずだ。暗号通貨は、起業家たちがより多くの利用法を統合する方法を見つけた範囲の中でのみ成功する。

今回の給付金の給付や選挙投票用紙の配布に、デジタルトークンを利用しようとしても、明らかに手遅れだ。しかし、その次の選挙や、次の大きな危機に備えるために、より良く、より信頼性が高く、より公正なシステムを設計し始めるのには決して早すぎることはない。

【編集部注】著者のMauro Guillen(マウロ・ギレン)氏はウォートンスクールの国際経営学教授であり、「2030: How the Biggest Trends Today will Collide and Shape the Future of Everything」(2030:現在の最大のトレンドたちが、どのようにぶつかりあって、すべての未来を形作るのか)の著者である。今回のエッセイはこの著書からの引用である。

画像クレジット: Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(翻訳:sako)