学校を辞めていく教師たちの次の行き先はスタートアップなのか

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ニューヨークの公立学校の教師、Christine Huang(クリスティン・ファン)氏が教職を後にしたのは、疲労がたまったからではない。賃金が安いからでもない。仕事が多くて放課後に自分の子供と過ごす時間がほとんどないからでもない。

ファン氏が7年間続けた教職を後にしたのは、そういう理由からではなく、新型コロナウイルス感染症の際に学校に対してニューヨーク市が取った対応のためである。

「正直言って、市に対する信頼を失った」と同氏は言う。ここ数週間、教師とニューヨーク市当局との間の緊張が高まっている。授業の開始時期が2回も遅れ人員不足が続いている。9月下旬、ニューヨーク市の校長を代表する組合が州政府を訪ねて事態を監督するよう要請し、指導が行き届いていないとしてde Blasio(デブラシオ)市長を非難した。

現在は授業が再開されていて、新型コロナウイルス感染症の新たな陽性患者の数は驚くほど少ない。それでも、現状に鑑みると、当局には教師に対する配慮が欠けている、とファン氏は言う。

同氏が望んだのは、託児所に預けることができなくなった子供たちの世話をするために、在宅勤務ができる融通性だった。しかし学校側は、生徒は授業に参加するかどうか選べるが、教師は選べない、と言った。数日後、同氏は辞表を提出した。

米国の公立学校の教師は300万人以上いる。賃金が安く、時間の融通もきかないため、これまで何千人もの教師が学校を辞めていった。しかし、新型コロナウイルス感染症はそれとは別の種類のストレスを教師に与えている。再開と休校が繰り返される中、何の指示もないまま放置されている教師もおり、彼らは、軽く見られているとか、力を発揮する機会が限られていると感じている。このような状況の中で困惑して学校を辞める教師の数が増え、教師の経済行動がこれまでとは大きく変わっていく可能性がある。

教師がいなくなることは公立学校にとっては損失だが、学校を辞める教師を取り込もうと競っているスタートアップにとっては好機である。企業は学区全体が直面している圧力と同じ圧力に面しているわけではないので、教える時間に融通性を持たせる方法を教師に提供できる。給料に関して言えば、エドテックの場合、消費者と直接やりとりするメリットを活用して収入を得ることができる。予算が問題になることは少なくなり、どちらかといえば、エドテックのサービスを親に売り込めるかどうか、という問題になる。

Outschool(アウトスクール)という企業では、教師は代数学、読み方入門、さらには子供向けのマインドフルネスなどの科目で少人数のクラスを教えることができる。Varsity Tutor(バーシティチューター)は、教師と、補習が必要な幼稚園から高校3年の生徒をつないでいる。Swing(スイング)Prisma(プリズマ)などの企業は、教師が教えるポッドベースの学習に重点を置いている。

これらのスタートアップはどれも、「今より高い賃金と融通性を提供する」という内容の誘い文句をさまざまな形で表現しながら教師を勧誘している。

賃金は安く仕事はきつい職業

教師の賃金は、地域差が大きい。給料の額は州ごと、また地域ごとに決められる。米国教育統計センターによれば、ミシシッピ州で働く教師の平均年収は4万5574ドル(約471万8000円)、ニューヨーク州の教師の平均年収は8万2282ドル(約851万8000円)である。

他の専門職と同様、生活費が教師の給料にも影響を及ぼしているが、教師の賃金は他の専門職と比較すると低いことを示すデータがある。Economic Policy Institute(経済政策研究所)の研究によれば、教師の賃金は、スキルと教育が同程度の専門職より19%低い。米国教育省の2018年の研究によると、公立学校の常勤教師の平均賃金は、インフレ調整済みの金額で見ても1990年より低い。

教師の間で給料に違いがあるということは、バランスを取り直す余地があり、その必要があることを意味している。これはつまり、教師の経済行動の恩恵にあずかろうと狙うスタートアップに、そのような差を利用して完璧な誘い文句で教師を勧誘するチャンスが突然訪れた、ということだ。ミシシッピ州の教師に「ニューヨーク州の教師と同水準の収入を得られるようサポートできる」と言えるようになったのである。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

Reach Capital(リーチキャピタル)はパートナーと共にエドテック企業に投資しているベンチャーキャピタルだ。同社の共同創設者、Jennifer Carolan(ジェニファー・キャロラン)氏は、シカゴの公立学校制度の中で何年も働いた経験がある。同氏は、新型コロナウイルス感染症は教師の離職を加速させたが、引き金になったのは別の要因だと考えている。

キャロラン氏は次のように語っている。「今の教育制度では、教師の賃金は安く、仕事はきつい。また、職業人にとって非常に重要になっている融通性に欠けている。教師が従来の学校制度の外で働く機会を探すようになっているのはそのせいだ」。

公立学校制度を辞めていく教師に関する論説を執筆したこともあるキャロラン氏は、教師のための新しい道がホームスクーリングテクノロジーの分野で開かれつつある、と指摘する。彼女の投資先の1つであるアウトスクールでは、教師たちの総収入額が今年だけで数千万ドル(数十億円)にのぼっている。いわゆる「ホームスクーリング」の潜在的な市場規模が突如として変わったのだ。

スタートアップがギグエコノミーを加速させている

エドテックのサービスによって、過去数年の間に教師のギグエコノミーが形成されてきた。学習系プラットフォームには空前の需要があるため、収入または時間の融通性のどちらかについて好条件を設定して、提供するサービスに教師を惹きつけなければならない。

アウトスクールは教師が教える少人数のクラスを販売するプラットフォームであり、Taylor Swift(テイラー・スウィフト)のスペイン語版クラスからレゴチャレンジを使ったエンジニアリングのレッスンまで、広範なトピックを扱っている。昨年、アウトスクールの教師の総収入額は、前年の400万ドル(約4億1300万円)から4000万ドル(約41億3000万円)以上へと増加した。

CEOのAmir Nathoo(アミール・ナスー)氏は、教師は時給40ドル(約4130円)から60ドル(約6200円)で働けると見積もっている。従来の公立学校での時給は30ドル(約3100円)だったことを考えると大幅にアップすると言える。アウトスクール自体は新規予約が2000%を超える勢いで急増しており、最近初めて利益を出し始めた。

教師がフルタイムでアウトスクールのプラットフォームに参加すれば、アウトスクールの収益はさらに増える。教師の取り分はクラスに設定する料金の70%で、アウトスクールの取り分は残り30%となる。しかしナスー氏は、自社のプラットフォームはどちらかというと従来の教育を補うものだと考えている。フルタイムで働くよう教師を説得して収益を増やす代わりに、プラットフォームに加えるパートタイムの教師を増やすことで成長している。

入念な審査を経てアウトスクールのプラットフォームに加えられた教師は、3月の1000人から、現在は1万人に増えている。

一方、アウトスクールと競合するバーシティチューターはまったく違うアプローチを取っており、教師を過度に増やすよりも、ゆっくりとした段階的な成長に重点を置いている。8月、バーシティチューターは、従来の学校の代わりとなることを意図したホームスクーリングの提供を開始した。120人の常勤教師を迎えたが、どの教師も、以前勤めていた公立学校やチャータースクールよりも好条件の給与を得ている。常勤教師をさらに雇う具体的な計画はない。

バーシティチューターの最高教育責任者、Brian Galvin(ブライアン・ガルビン)氏は、教師は時間の融通性を求めてやって来る、と述べた。バーシティチューターのプラットフォームでは、教師は自分が選ぶ枠で1日5時間から6時間教えることができ、家族の世話やその他の仕事を中心にして予定を組める。

バーシティチューターの戦略は、従来の学校教育に代わるものとして数か月前に勢いを増したボッドベース学習の一種だ。以前は臨時教師の雇用で学校を支援していたスタートアップ、Swing Education(スイングエジュケーション)は、その臨時教師と、プルタイムのポッドペース授業とのマッチングを支援する方向に転換した。プリズマも、学校に代わるサービスの提供を目指しており、公立学校や私立学校のかつての教師を学習指導者になるようトレーニングしている。

ポッドベースの学習は、場合によっては週に数千ドル(数十万円)もかかることがあるため裕福な家庭に人気があり、優秀な教師の獲得合戦にまで発展したこともある。また、大多数の生徒のことは考えていないのではないかという批判にもさらされた。

次の仕事で直面する現実

生徒はボタンにタッチしながら学習でき、教師は収入を増やせる、テクノロジーをフル活用するそのような未来を実現することがエドテックの目標である。しかし、だれもがそのような未来にたどり着けるわけではない。

個別指導のスタートアップの中には、ソフトウェアを買える生徒と買えない生徒の間にデジタルデバイドを生じさせかねないものもある。教師が公立学校を去れば、低所得の生徒は取り残されるが、高所得の生徒は費用を負担して追加の学習を受けることができる。

それでも、大部分が女性である公立学校の教師が壊れた制度の中で働くのは難しい、という意見もある。事実、公立学校を辞める教師を悪者扱いする考え方そのものに、女性の方が安い給料に甘んじなければならないという根強い性差別が反映されていると言う人もいる。このような構造において、スタートアップは、教師がより良い将来へと歩を進めるたの架け橋でもあり、公立の教育制度が破綻していることを示す兆候でもある。

エドテック企業は純粋に「教える」という仕事をしたい人のために機会を生み出している、という意見もあるが、それは違う、と求職中のファン氏は言う。彼女はこれまで、教育コンテンツのウェブサイトBrainPop(ブレインポップ)、デジタル学習プラットフォームのNewsela(ニュースエラ)、数学プログラムの会社Zearn(ザーン)、Q&Aコンテンツを運営するMystery.orgのカリキュラムを組む仕事に応募してきた。

ファン氏は次のように指摘する。「これらの企業に応募してみて、多くのエドテック企業は教師のスキルを評価しているとは思えない、と感じた。エドテック企業が探しているのは、教師ではなくプログラマーだ」。

エドテック企業は、比較的短い時間でサービスの需要に応えることを余儀なくされている。しかし、規模の拡大は、教師が専門職として行う業務と本質的に衝突する場合がある。教師の仕事が突然、教育全般ではなく、ベンチャー企業の尺度で見た利益のために最適化されるためだ。ファン氏は仕事の面接で居心地の悪さを感じるという。生徒と向き合っていくために必要な創造性、知識、対人能力を、採用担当者が重視していないように感じるためだ。彼女はこれまで、内容の異なる履歴書を30枚書いた。

自分に合う仕事を見つけられなかったファン氏は、教育制度を完全に後にするのではなく、従来の職場に戻る必要が生じた場合に備えて育児休暇を取ることにした。そのような必要が生じないことを望んでいるが、楽観視はできないと思っている。

「私の履歴書を見て、教師だと分かると機械的に除外されるため、それほど数多くの面接を受けることはできていない」と同氏は語った。

画像クレジット:Bryce Durbin

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カテゴリー:EdTech

タグ:教育

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(翻訳:Dragonfly)