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Facebook Photosの元プロダクトマネージャーが反トラスト訴訟について思うこと

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Facebook(フェイスブック)によるInstagram(インスタグラム)の買収まで、筆者はFacebook Photosを担当するプロダクトマネージャーだった。Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏はそれまでに、筆者の前の会社であるDivvyshot(ディビーショット)を買収していた。Divvyshotは最初のiOS向け写真共有アプリの1つだ。筆者はマーク氏と緊密に協力して働いていたので、ソーシャル共有アプリや台頭していたモバイルアプリの将来についてよく話し合った。Instagramは一度ならず競合相手として現れた。

48州の検事総長と連邦取引委員会(FTC)がInstagram買収の件でFacebookを訴えている現在、筆者はその件でひと言あるだろうと思われているかもしれない。Facebook Photosの元プロダクトマネージャーとして、またFacebookに会社を買収された者として、思うところは確かにある。いくつかの点で、筆者はその後のメインディッシュのアペタイザー(前菜)だった。筆者は、米国の消費者として、FTCの勝利はイノベーションにとって間違いなく災いになるということが分かる。

この反トラスト訴訟の主な問題点は、Facebookは競争上の脅威を排除するためにInstagramを買収したのかということだ。マークがInstagramを脅威と認識していたことを示唆する文書がすでにリークされている。マークと話したときにも、彼がInstagramに対してそのように感じていることははっきりと伝わってきた。

筆者はFacebookに長くいたわけではない。20代半ばで自信にあふれていた筆者は、当時の会社を離れて別の会社を始めることにした。今になってみれば、退社は唐突で、考えが足りなかった。モバイル版のフォトプロダクトを改良する構想を開始して間もない、難しい状況の中でチームを去った(モバイル改良版が発売されることはなかった)。数カ月後、マークはInstagramにアプローチし始めた。筆者の突然の退社からちょうど1年後、その取引が正式に成立した。

筆者は、競争を制限する意図を示唆するこうした事例だけでなく、最近の反トラスト訴訟が、競争を繰り広げるスタートアップのエコシステムや消費者全体のためになる、とはまったく考えていない。

スタートアップの世界には「第一原理から考える」という格言があるが、この場合それが役に立つ。米国政府が独占を規制する主な理由は、「競争を確保して消費者の利益を図る」ことである。政府は、Facebookに対する最近の反トラスト訴訟により、表面上は、スタートアップのエコシステムにおいてFacebookの競合相手を保護している。

Facebookが違反したとして告訴されている主な法律は2つある。1つはシャーマン法で、独占を維持または獲得することを違法としている。もう1つはクレイトン法であり、さらに一歩踏み込んで、競争を制限する独占的な合併や買収を禁止している。

反トラスト法による告訴(シャーマン法第2条に対する違反。Facebookはこの違反で告訴されている)の必須条件は、企業が独占力を使って「生産を低下させたり、価格を上げたり、革新を停滞させたりして、市場が競争的な場合に比べて社会に損害を与えた」ことを証明できることである。また、司法省は、独占が成立する主な要素は、企業が「3分の2を超える市場占有率を長い期間にわたり保持しているかどうか」である、としている。

Facebookについて考える前に、勝訴した反トラスト訴訟の例を見てみよう。Facebookに対する批判では、米国政府対Microsoft Corp(マイクロソフト・コーポレーション)の件がよく先例として指摘される。この訴訟でマイクロソフトは、WindowsとInternet Explorerの抱き合わせ販売に端を発する独占の理由で告訴された。誤解のないようにいっておくと、筆者はこの反トラスト訴訟に賛成である。マイクロソフトは独占力を持っていたからだ。1998年のオペレーティングシステムに関するマイクロソフトの市場占有率を調べればわかるが、提訴の時点で市場の86%を占めていた。Internet Explorerの市場占有率を人為的に上げるために不条理な抱き合わせ販売をしたことが容易にわかる。明らかに、社会の「生産を低下させ」、「革新を停滞させ」ている(Internet Explorerのことを好意的に懐かしむ人はいないだろう)。

Facebookがどんな点で独占力を持っているのか、正確に判断することははるかに難しい。たとえばFTCはInstagramを売却させようとしてFacebookを訴えている。Instagramの収益は主に、プラットフォーム上の広告主から得られる。独占に関するFTCの告訴では、Instagramのことが指摘されており、Facebookがデジタル広告市場で支配的なシェアを獲得したことが示唆されている。しかし、市場調査会社のEMarketer(イーマーケッター)によれば、この市場における2020年のFacebookのシェアは23%である。3分の2の支配からはほど遠い。Facebookを独占企業とする訴えは、決して単純明快な訴訟ではない。

ここで、実際のところ誰がこの反トラスト訴訟から利益を得るのか、という疑問について考えてみよう。

それは、Facebookに取って代わる次の企業の創業者ではない。FTCが買収を規制すれば、スタートアップ創業の見返りは減少し、リスクは高まる。

シリコンバレーの新しい創業者はすべて、創造的破壊者たることを切望している。しかし彼らも、彼らの出資者も「打ち負かせないなら、一緒になれ」という格言の価値を理解している。銀行口座の残高がゼロになって間もなく、2010年にDivvyshotをFacebookに売却したときに、筆者はそれが事実であることを理解した。

大手企業による高額買収の見込みがなければ、生活を賭ける創業者は減り、ベンチャーキャピタルの資金は縮小するだろう。大手テック企業は、新参のチームを買収するより、その製品をただコピーしようとするだろう。忘れてはいけない。買収されることは、ほとんどのスタートアップや起業家にとって「成功」なのだ(彼らにとって、それ以外に魅力的な成果はないことが多い)。

また、この反トラスト訴訟から利益を得るのは消費者でもない。消費者が利益を得るには、「InstagramはFacebookなしの方がもっと成功した」または「Facebookの行動はほかの競合スタートアップを落胆させた」という点のいずれかを確信している必要がある。

前者はよく議論されてきたが、少々主観的な議論だ。後者については、どのカテゴリーでも競争が少なくなれば資金や創業者も少なくなる。だが実際には、あらゆる使用事例において、ホーム画面をたくさんのアプリアイコンでいっぱいにしているのは、その競争なのだ。Instagramが10億ドル(約1030億円)で買収される結果になったことで、Vine(バイン)、Flipagram(フリッパグラム)、VSCOさらにはTikTok(ティックトック)のような模倣サービス、競合他社、イノベーターは奮起した。

マーク・ザッカーバーグ氏が自らの買収について述べたように、「この点を見る1つの方法は、我々が実際に買っているのは時間だ」ということだ。テクノロジーでトップであり続けるのは大変だ。ネット企業の歴史が何かを示しているとすればそれは、今日はリーダーでも明日はYahoo(ヤフー)になり得るということだ。的を外さないようVRのような新しいカテゴリーの革新的な製品に賭けるようにFacebookなどの企業を奮起させているのは、反トラストの脅威ではなく、今の時代の宿命であるそのプレッシャーなのである。

今こそ、新たなプランを立てるべきときが来た。はっきりいうと、我々はここ米国のテクノロジー業界内で競争を育んでいく必要がある。懲罰的な評価ではなく肯定的な成果に焦点を当てた、まったく新しい反トラスト法を探究すべきなのだ。

米国政府は、エコシステムの発展を通して企業による寛容な買収を考慮できるかもしれない。買収を停止するのではなく、買収者が大きな買収額の一定の割合を、恵まれない少数派の立場にいるほかの新しいスタートアップに投資するための要件を考慮するのだ。

これはドラマチックな考えだが、新しい動きが出てきて、イノベーションが圧倒的な勝者として生まれてくるかもしれない。巨大テック企業は、考えが凝り固まった競合相手に対抗しようとするスタートアップに資金を出すことができる。たとえばFacebookはこの冒険的な手段を使って、自分たちの領域外にあるFuture of Work(仕事の未来)のアイデアに資金を出して、マイクロソフトに対抗するライバルを生み出せるかもしれない。

既存企業からスタートアップへの資金の流れは競争を育むと同時に、既存企業がさらに規模を拡大することを可能にするだろう。忘れてはいけない。どの経済も手放したくない「低価格」「質の高い生活」「研究開発で促進されるイノベーション」を我々消費者が享受できるのは、この「規模の効果」のおかげなのだ。

もっと重要な独占が危うくなっている。シリコンバレーは、世界で最も競争力があって革新的な地域だ。世界中の地域や政府が我々の「秘密のソース」をコピーすることを切望したが、多くの場合、規制や汚職、反資本主義の法律によって阻まれてきた。我々は自分たちがそれらをコピーするときだと、本当に考えているのだろうか。

最近まで、その質問は仮想的なものにすぎなかった。イノベーションのリーダーというシリコンバレーの称号が危機に瀕したことはなかった。我々は地理的な集積、よく機能する資金市場、軽い規制、寛容な移民政策という堀に守られていた(何しろ、シリコンバレーのスタートアップの50%が移民の資金提供を受けているのだ)。我々は、その勝利の方程式を強化したくないと本当に考えているのだろうか。

その一方で、中国は経済を自由化してきた。中国のテクノロジーイノベーションの拠点である深センの国内総生産(GDP)は直近の40年間、年平均20.7%で成長し、最近香港を上回った。2020年に世界で最もダウンロードされたアプリケーションとして、TikTokが最近Facebookを王座から引きずり降ろしたことは、不吉なしるしだろう。

独裁政権によって支配される外国の企業に個人データを提供したいと思う人はいないだろうが、ほとんどのユーザーは、ソーシャルメディアで次のスクロールをすることの結果を考えていない。結局のところ、我々の中で、隔離期間中にティックトックの動画を楽しむ誘惑に負けない人が誰かいるだろうか。

我々が「独占」と呼ぶものについて、また、最も成功した自国企業をどのように抑制する(または罰する)かという点について、我々は因習に囚われず分別のある対応をしなければならない。Facebookに戦いを仕かけて勝つかもしれないが、もっと大きな戦いに負けるかもしれない。その戦いに負けたら、次のInstagramをシリコンバレーから追い出すことになるかもしれない。

そしてそのことは、いくぶん皮肉なことに、米国政府が反トラスト法で解体しようとしている2つとないテクノロジーの独占事業体は、実は米国自身だということを意味しているのかもしれない。

【Japan編集部】本稿の著者であるSamuel Odio(サミュエル・オディオ)氏はプロダクトリーダーで、2社を創業した経験を持つ。現在はFivestars(ファイブスターズ)のプロダクト担当副社長。後にFacebook(Facebook)に買収されたDivvyshot(Divvyshot)を創業し、TellApart(テルアパート)に買収されたFreshplum(フレッシュプラム)を共同創業した。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:反トラストコラムFacebook

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(翻訳:Dragonfly)