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東証マザーズ上場の「QDレーザ」がメディアラウンドテーブル開催、事業内容や今後の戦略を紹介

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QDレーザ」(キューディーレーザ)は2月5日、東証マザーズへの新規上場を果たした。調達した資金は、網膜走査型レーザーアイウェア「RETISSA Display II」(後述)事業拡大にともなう、量産のための製造費用にあてられる。

網膜走査型レーザアイウェア「RETISSA Display II」

網膜走査型レーザーアイウェア「RETISSA Display II」

同社は、2006年に富士通研究所のスピンオフベンチャーとしてスタートし、2009年に光通信用10Gbpsの光通信用量子ドットレーザー(QDL。Quantum Dot LASER)の量産化に世界で唯一成功(このQuantum Dot LASERが社名の由来)。光分野におけるイノベーションに贈られる国際的な賞「PRISM AWARDS Winner」を2017年、2019年と日本企業で初めて2回受賞した。現在では、独自のレーザー技術を用いて、通信・産業・医療・民生用の広い分野で新しい半導体レーザーソリューションを展開している。

同社は、先に触れた上場に合わせメディアラウンドテーブルを実施。QDレーザ代表取締役社長の菅原充氏が、同社「半導体レーザー事業」「レーザー網膜投影事業」の事業内容・今後の戦略などについて説明した。

QDレーザ代表取締役社長の菅原充氏

QDレーザ代表取締役社長の菅原充氏

菅原氏は、同社のビジネスモデル上の強みは、半導体レーザー業界唯一のファブレス体制にあるとした。半導体レーザーの要となるデバイス設計、結晶成長と完成品の評価のみ実施し、それ以外の工程は提携工場に委託している。加工向けやLiDAR向けなど任意のレーザー波長を提供できることから、新製品・新分野・新事業を興せる高い自由度を持つとした。

もう1点の強みは、量子ドットレーザーにあるという。原子レベルの精密結晶成長技術(秘匿技術)を持ち0.1秒刻みの精密制御が可能な上、20年を超える技術の蓄積により、量子ドットレーザーの量産に唯一成功している点を挙げた。100度以上の温度となる過酷な環境において高密度実装状態でも動作可能という。

原子レベルの精密結晶成長技術を支える、分子ビーム結晶成長装置。半導体レーザーおよび量子ドットレーザーに利用する結晶は、すべてこの装置による自社製造。宇宙空間同等の超高真空を実現しているそうだ

原子レベルの精密結晶成長技術を支える、分子ビーム結晶成長装置。半導体レーザーおよび量子ドットレーザーに利用する結晶は、すべてこの装置による自社製造。宇宙空間同等の超高真空を実現しているそうだ

半導体レーザー事業

半導体レーザーとは、レーザー光を発する小型素子のことで、5G基地局や、データセンター、スーパーコンピューター、自動運転LiDARなどに実装されている。半導体レーザーを導入することで、電力消費量削減率90%、処理速度100倍、実装面積100分の1の実現が可能になるという。半導体の最も進化した「半導体の最終形」と呼ばれ、これから社会実装されていく先進技術に対して必須となるとされる。

菅原氏は、同社の半導体レーザー事業のコアテクノロジーとして、材料・設計・制御にわたり、唯一領域を多数保有する最先端の半導体レーザー技術を挙げ、高い競合優位性を有するとした。

量子ドットの量産化を支える「半導体結晶成長技術」

半導体結晶を半導体基板上に1原子層ずつ成長させる技術で、QDレーザ製品の多彩な波長ラインナップを支えているという。世界で唯一量産化に成功した量子ドットや、超高歪量子井戸などの独自技術の基盤にもなっており、多数枚化、全自動化、独自ノウハウ蓄積により大量生産性にも優れるとしている。

世界最高温度の「量子ドット」レーザーの量産化成功

量子ドットレーザーは、レーザー光を発生させる活性層に、半導体のナノサイズの微結晶である「量子ドット」構造を採用した半導体レーザーのこと。従来の量子井戸を用いた半導体レーザーに比べ、省電力性・高温耐性・温度安定性などの優れた特徴を持つという。

QDレーザは、世界最高温度の量子ドットレーザーの量産化に成功。温度安定性に優れ、100度以上の温度でも特性劣化も少なく、専用設計により200度でもレーザー発振可能。また高歩留りで安定製造できる体制も確立・成功させた。CPUとメモリーなどを光通信で接続する際に利用可能な、世界最小のシリコン融合トランシーバーも実現している。

世界初の黄色・オレンジ半導体レーザーを商用化した「精密な波長制御技術」

同社は、レーザー内部に周期的な凹凸を形成するグレーティング(回折格子)形成技術を持つという。精密な任意波長制御を可能としており、後述のバイオセンシング機器(フローサイトメーター)に必要となる黄色・オレンジ半導体レーザーを世界で初めて商用化した。

網膜に直接投影する新技術「ビジリウム(VISIRIUM) テクノロジー」

ビジリウムは、RGB三原色の半導体レーザーと、高速で振動する微細な鏡(MEMSミラー。Micro Electro Mechanical Systemsミラー)とを組み合わせ、微弱な光を精密にコントロールするというレーザー網膜走査技術。これにより、超小型レーザープロジェクターとして、光で網膜に直接映像を投影可能とした。従来の小型ディスプレイ方式に比べて視力やピント調節の影響を受けにくく、違和感の少ないデザインを実現できる。

RGB三原色の半導体レーザーと、高速で振動する微細な鏡(MEMSミラー。Micro Electro Mechanical Systemsミラー)とを組み合わせ、網膜に直接映像を投影

RGB三原色の半導体レーザーと、高速で振動する微細な鏡(MEMSミラー)とを組み合わせ、網膜に直接映像を投影

また同社は、網膜走査型レーザーアイウェア「RETISSA Display」として、世界初の製品化に成功しており、TechCrunch Japanでも紹介している

モジュールの小型化

独自の光学・力学・熱解析技術と、YAG溶接、共晶・低融点半田、UV接着などの実装技術を駆使し、小型で高効率・高信頼性を有する光源モジュールを提供可能。同社は黄色・オレンジレーザーモジュールにより、Prism Awards 2014のファイナリストとなった。

レーザー設計

光通信技術を生かし、世界最速(10ps。10ピコ秒)の精密加工用半導体レーザーの設計が可能。ウェハー設計、半導体レーザー設計、モジュール設計を駆使した高付加価値な半導体レーザーを提供しており、半導体チップの光閉じ込め計算や光学シミュレーターを用い、また培ったノウハウをプラスして最適な設計を行っているという。

「シリコン回路」「センシング」「レーザー加工」の進化

また菅原氏は、これら同社コア技術を利用したレーザーデバイスにより進化する領域として、「シリコン回路」「センシング」「レーザー加工」を挙げた。

シリコン回路の進化という点では、100度以上で動作する量子ドットレーザーについて、デバイス回路内の情報のやり取りに光通信を利用する「シリコン電子・光集積回路」に必須の光源としており、シリコン電子・光集積回路が現実的になるという。用途としては、データセンター、LiDAR、5G基地局、スーパーコンピューターとしている。自動運転車用のLiDARなどへの展開も挙げていた。

すでに、量子ドットレーザーを基板上に搭載したシリコンフォトニクス(Slicon Photonics)用チップの累計販売台数は1万2000個(2018年3月~2020年11月)になっているそうだ。

センシングの進化では、組織培養した細胞の観察・解析の際に利用するフローサイトメーターなどのバイオセンシング機器をはじめ、マシンビジョンや顔認証領域などに関して、様々な波長の同社独自レーザーにより多彩な展開が可能とした。同社は、フローターサイトメーター市場82.7%を占める上位2社の認定サプライヤーのうちの1社となっているという。

レーザー加工では、超短パルス(10ps。10ピコ秒)による非加熱での高精細加工を実現。スマートフォン電子回路基板の加工に実際に利用され始めたという。超短パルスによる光を基板にあてると、金属・ガラスなど素材を問わず加工を行えるそうだ。

超短パルス(10ps。10ピコ秒)による非加熱での高精細加工が可能

超短パルス(10ps。10ピコ秒)による非加熱での高精細加工が可能

同社は、極短パルスレーザー世界市場(466億円)の22.4%を占める世界第2位レーザーメーカーに、認定サプライヤーのうちの1社として供給しているという。

レーザー網膜投影事業

QDレーザは、先に挙げたビジリウム(VISIRIUM) テクノロジーとして、独自のレーザー技術を用いた「レーザー網膜投影事業」を展開。

ビジリウムでは、瞳孔を通し網膜に直接映像を投影するため角膜と水晶体に頼らない視覚体験が可能で、近視・遠視・乱視・屈折異常でも鮮明な画像認識を行えるという。また網膜上で、肉眼で見ている風景と投影する画像両方に焦点を合わせて見ることができるという。これは、他ARグラスにはない特徴としていた。

さらにレーザー網膜投影では、網膜の広範囲部分でピントが合うため、網膜症の患者への適用が期待できるという(個人差あり)。大手航空会社と筑波技術大学において、網膜症の患者への適用可能性検証のための系統的実証実験を(機内や教室内などの環境下で)実施中としていた。

菅原氏は、これらの点を基にヘルスケアおよび医療領域にターゲットを定めたという。

現在、メガネやコンタクトレンズなどの外科的処置によっても「視力が0.05以上、0.3未満」の者は、世界保健機関(WHO)により「ロービジョン」と定義されている。ロービジョン人口は世界で2億5000万人、日本国内では145万人と推定されるそうだ。さらに2030年には、高齢化の影響などにより日本のロービジョン人口は200万人となり、視覚障害による経済損出は11兆円ともいわれているという。

同社は、すでに網膜走査型レーザーアイウェア「RETISSA」シリーズを展開しており、現在は民生福祉機器として「RETISSA Display II」(税抜希望価格24万8000円)、また視力障害向け医療機器(管理医療機器)として「RETISSA メディカル」(税抜80~90万円)を用意。2種類用意した理由としては、RETISSA メディカルは医療業界の認知を得て、社会的な安心感を得るためのもので、RETISSA Display IIは普及を狙ったものとしていた。

視力障害向け医療機器(管理医療機器)として「RETISSA メディカル」

視力障害向け医療機器(管理医療機器)として「RETISSA メディカル」

RETISSA Display IIは、強度近視(屈折力-11D)から中強度の遠視(+6D)の度数の範囲で、メガネを使わなくとも0.8の視力を得られるとしている。またRETISSA メディカルについては、メガネやコンタクトレンズを用いても十分な視力が得られないなど、不正乱視によって視力が障害された患者に対し、視力補正をする目的で使用される。

またRETISSA メディカルは、レーザー網膜投影による視力補正機器として国内医療機器製造販売承認を2020年1月に取得済みだ。EUおよびアメリカにおいても、各種申請への対応を進めているそうだ。

市場規模(屈折異常、角膜混濁)としては、日米欧合わせて最大9000億円規模と見込まれており、別途中国などへの市場展開も想定しているという。

民生福祉機器については、累計販売台数実績510台(2020年11月時点)としており、今回のIPOによる資金調達によりファブレス体制の稼働と原価低減を実現させるとした。

菅原氏は、数千台を製造することで原価を低減させ、最終価格を10万円以下を目指していると明かした。22年度には発売したいという。

メディア露出についてすでに開始しており、新プロジェクト「With My Eyes」を6社とともに発足。ロービジョン者向けのプロダクト開発を行っている。

ロービジョン者の生活を豊かにすることを目的に、「見えづらい」を「見える」に変えるというもので、その第1弾は、レーザー網膜投影技術を⽤いたカメラ型デバイス 「RETISSA SUPER CAPTURE」により、ロービジョン者が⾃らの⽬で写真撮影を行う。

また、メガネブランド「Zoff」(ゾフ)を運営するインターメスティックと業務提携を実施。半導体レーザー技術を援用した眼鏡処方プロセス刷新への取り組み、レーザー網膜投影による眼鏡型弱視支援器具および、次世代の眼鏡であるスマートグラスの共同開発・商用化に取り組んでいる。

富士通エレクトロニクスとは「RETISSA」シリーズの販売代理契約を結んでおり、視覚支援機器市場およびxR関連機器市場で世界展開を企図したものとしていた。

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