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誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことが最後の公民権運動

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本稿の著者Joseph Heller(ジョセフ・ヘラー)氏は小規模企業の専門家でSuppliedShop(サプライド・ショップ)のCEOである。SuppliedShopは、小規模企業とブランド企業向けの卸売プラットフォームで、ブティックのオーナーはこのプラットフォームから高品質で手頃な価格の商品を買いつけることができる。

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人間にとって環境と背景はいつでも重要だ。俯瞰的に見ると、私には次のような持って生まれた特権があった。男性であること、世界で最も力のある国にその歴史上最も繁栄している時代に生まれたこと、両親はどちらも大学を出ていること、中流階級の隣人に囲まれていることなどだ。

私が父親の世代に生まれていた可能性だってある。当時は、白人至上主義がまだ残っており、黒人がいたるところで門前払いされていた。今でさえ、私にはユダヤ人の血が半分流れているおかげでまったくの「黒人」には見えないことで恩恵を受けている。

そうした恩恵は受けているものの、黒人の家系であることでベンチャーキャピタル(VC)からの資金調達が難しくなっていることもまた間違いのない事実だ。この現実は「完璧を目指して力を尽くし、常に向上する」というシリコンバレーの典型的な価値観と相反する。

起業家を目指す人たちにできるかぎり平等な競争環境を用意することは国益になるはずだ。

この国では今、これはデータからも証明されていることだが、VCから資金調達する際に白人男性に不当な優位性がある。この所為で、巨大な企業を築き上げた白人男性企業家の地位が低下することはないが、同等の能力を持つ黒人創業者は存在しないも同然の扱いを受けてきた。

国が、個人の背景とは無関係に起業家精神を促進することには利点がある。起業家は仕事を生み出し、イノベーションを起こし、そのおかげでこの国は地球上で最も競争力のある国としての地位を維持できる。起業家を目指す人たちにできるかぎり平等な競争環境を用意することは国益になるはずだが、この国は人種と性別の両方においてその目標達成には程遠い状態だ。

UC Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)を卒業してすぐ、私は中国南部に引っ越した。当時の私は大半の意思決定をどちらかというと無意識に行っていたが、黒人男性として、大企業で働いても公平な扱いを受けることはないだろうと常に感じていた。私の成功への道は起業家として自分の会社を立ち上げることだといつも思っていた。米国ではなく中国でならそれができるように思えた。

私は中国の起業家精神が大変気に入った。驚いたことに、中国で暮らす外国人として、私は人種的な差別を受けていないと感じた。中国人は、自国にビジネスチャンスをもたらす1人の米国人という視点だけで私のことを見てくれた。私がもたらす価値のメリットに基づいて、米国内よりも高く私を評価してくれていると感じた。それは新鮮な感覚だった。私はビジネスチャンスに駆り立てられ、中国で輸出入事業を立ち上げ成功させた。2、3年後には30人を超える従業員を抱えるまでになった。工場相手の仕事もとてもおもしろかった。米国人が使ったり身につけたりする製品が製造されるのを見て惹きつけられた。

当時、私の会社の顧客は、米国拠点の比較的大規模な小売企業やブランド企業だった。Shopifyの成長を目の当たりにした。小規模企業は複雑そうに見えて実はシンプルなeコマース製品とInstagramなどのマーケティングツールによって、自社製品をオンラインで販売しマーケティングできるようになった。そのような販売とマーケティングの手法は、数年前まで私の会社の顧客のような大企業にしかできなかったことだ。しかしその一方で、小規模企業が、ShopifyやInstagramを使ってビジネスを展開できても、サプライチェーンと製造業の巨大なリソースを自らのビジネスに生かす方法がないという現実が頭から離れなかった。

私がThe/Studio(ザ・スタジオ)を創業した理由もそこにある。The/Studioは、カスタム製品を生産するための製造業プラットフォームだ。小規模企業はこのプラットフォームを通して工場に製品の生産を依頼できる。このプラットフォームの目的は、小規模企業が製造業に関するさまざまな面倒ごとやリスクに対処することなく自社製品を簡単に少量生産できるようにすることだ。

当時、私はVCから資金を調達するという方法があることさえ知らなかった。資金調達では、まさに、有色人種であることが障害となっていた。VCを中心とする同心円の中心に近い人間ほどVCという存在を知っており、その利用方法もわかっていた。

同心円の中心から遠く離れた位置にいる人たちは、VCがどのようにして会社を成長させることができるのかを理解していない。ましてやその利用方法など知る由もない。日用品のようでありながら、一部の特別待遇の人間しか利用できない閉鎖的な資本があるとするなら、それはエリート主義であり縁故主義だ。そうした資本はシリコンバレーの理念とは正反対のものであり、グローバルな企業家基準をリードする米国の能力を低下させるものだと思う。

2016年までには、私は資本を調達することなく、会社の収益を数千万ドル(数十億円)台にまで自力で成長させた。従業員数は100名を超え、事業は黒字経営だった。Shopifyが手にしたのと同じような、大きなチャンスがあることもわかっていたが、当時は、現実的な方法や責任が持てると思える方法でビジネスを成長させるための財源も知識もないと考えていた。

テック企業がこの規模になると会社をさらに飛躍させるために、VCが本当に必要になるということがわかってきたのもこの頃だった。資金を獲得することだけが目的ではない。もちろん資金は重要だが、資金と同時にアドバイスも必要だった。

そこで私はサンフランシスコに居を移した。私の会社ならVCから簡単に数百万ドル(数億円)くらい調達できるだろうと楽観的に考えていた。TechCrunchの記事で、具体的な製品はなく単に良いアイデアだけで(ときにはとても良いとは思えないようなアイデアでも)数百万ドル、ときには数千万ドルを調達した会社があることを知っていたからだ。私はすでにかなりの規模の会社を作り、TAM(獲得可能な最大市場規模)も相当に大きく、実際に販売している製品もあり、黒字経営で規模拡大の準備は整っていた。起業家としての能力は証明済みだった。

まず、大学時代の友人の1人が書いてくれた紹介状と、以前VCを運営していた人物が前の同僚宛に書いてくれた何通かの紹介状を使って、資金調達活動を始めてみた。従来のシリコンバレーのやり方に従い、1通の紹介状を受け取り、そこでまた別の紹介状を書いてもらった。そのうち、VCというのはソーシャルゲームみたいなものだとわかってきた。私は以降2年間、このソーシャルゲームを続けることになる。

ジョセフ・ヘラー氏はSuppliedのCEO兼創業者だ(画像クレジット:SuppliedShop)

資金調達の過程において、VCの世界であからさまな人種差別を受けたことはないことを明言しておく。みな丁寧で親切に対応してくれた。しかし、プレゼンミーティングやVCのイベントなどに参加すると、ビバリーヒルズのロデオドライブにある高級カントリークラブや高級ショッピングストアで感じるのと同じ気持ちを味わった。VCのコミュニティとVCのお眼鏡にかなった一部の起業家たちが、外部の人間とのつながりを拒否する、結束の強いエリート集団であることは明白だった。

傲慢で、エリート主義で、排他的な雰囲気が文字どおりあらゆるやり取りに浸透していた。彼らはみな同じ話し方をし、こちらが彼らの側のネットワークで他に誰を知っているのかを探ってきた。そして、彼らのネットワークに属する人間ではないことがわかった時点で、面接は基本的に終了である。この感覚は、私の考えるシリコンバレーの理念と相反する。私のイメージするシリコンバレーは、良いアイデアを持っており聡明でハードワークを惜しまず、なおかつ肝の据わっている起業家が、資金を調達して成功を見出すことができるという理想的な世界だ。

しかし実際には、シリコンバレーというのは人種、性別、出身大学(カリフォルニア大学バークレー校でさえあまり高く評価されない)によって入会できるかどうかが大きく左右される排他的なクラブのような場所だった。白人でもなく、男性でもなく、ハーバード、スタンフォード、およびアイビーリーグに属する大学の出身でもない人は、自らのビジョンを何年も執拗に追求して裏口から入り込むしかなかった。

関連記事:年間売上高11億円のスタートアップがVCからの資金調達に18カ月かかった理由

The/Studioは最終的に、シリーズAで1100万ドル(約11億4000万円)を調達した。18カ月間で150回の面接を受け、145回失敗した末の結果だ。私のプレゼンの相手はほとんど白人男性のVCだった。彼らの偏見とこちらが彼らのネットワークで知っている人がいないという事実だけで、面接が始まる前に結果は「失敗」となる。より広範なデータを調べてみると、これには人種的偏見があることがよくわかる。私の面接経験からざっと計算してみてもやはり同じだ。私は、白人が運営する120社のVCの面接を受けたが、そのうち条件概要書を提示してくれたVCは1社もない。これに対して、少数民族出身者が運営する30社のVCの面接では、5社のVCから条件概要書を受け取った。つまり成功率17%だ。

2年後、私は、大規模なVCラウンドで資金を調達した排他的起業家グループの仲間入りを果たした。そして今、シリコンバレーの裏側がどういうものかを理解している。シリコンバレーには本当に聡明な投資家と起業家がいることは、データが物語っている。シリコンバレーでVCの支援を受けて上場した企業の数はそれ以外の上場企業数を大幅に上回っているが、それも当然だ。

また、あまり有能と思えない投資家でも単純にネットワークだけで投資家として活動できている人たちも大勢いる。同様に、世界トップクラスではないが、ネットワークがあるというだけで資金調達に成功している起業家たちも大勢いる。さらに、すばらしい投資家になったであろうに、シリコンバレーにネットワークがなく白人でないという理由だけで投資家になる機会さえ与えられなかった優秀な人たちにも多く出会った。同じように、大企業を上場に導いた人物と同等の能力を持つ優れた起業家であるにもかかわらず、ネットワークがなく有色人種であるという理由でVCからの資金調達に失敗した人たちも大勢知っている。

私は、シリコンバレーには、人種と家系の条件を満たしている人が最高の起業家であるという根強い感覚があると確信している。そして、その条件に当てはまる人に対しては「10%の投資先から利益を稼げれば、残りの90%は失敗しても問題ない」という考え方で動くシリコンバレーのVC投資業界の仕組みと、そこから生まれる悪循環が、この感覚を助長している。

もし、内輪で知られていない人物に投資すると、その決定を下した理由についてパートナーに問い詰められるリスクを負うことになる。そのような危険を冒すことで発生する個人的リスクは大きい。シリコンバレーで絶大な社会的信用を誇る人物に投資すれば、それが失敗に終わったとしても、誰からも叱責されない。それは最初から組み込まれているプロセスだからだ。

VCもしょせん人間だ。数十億ドル(数千億円)の資金があって、その資金を調達したいと思っている数千人の起業家がいるが、年に数人しか選択できない場合、反発のない方法、つまり自分が知っている人たちに投資するのが簡単だ。それは大抵の場合、白人男性だ。そのような選択は自己達成的予言となる。というのは、圧倒的多数を占める白人男性に対する投資案件でさえ成功するのが数件だけだとしたら、それよりはるかに少ない有色人種や女性に投資しても、成功件数がさらに少なくなるのは統計学的に当然だ。こうした数学的に「客観的な」意思決定を下すことで、投資先に対する人種的バイアスを自分の中に取り込んでしまうことになる。

ただし、女性に関しては、この問題がここ10年で解決の方向に向かい始めている。10年前、VCから資金を調達した女性起業家はごくわずかだった。最近のForbes(フォーブス)の調査によると、資金調達に成功した女性経営企業はわずか823社だった。VCの支援を受けた女性経営企業の数は今でも非常に少ないが、同調査によると2019年現在で3450社以上と10年前に比べればかなり増えている。別に10年間で女性が賢くなったわけではない。VCにも現状是正の圧力がかかり、先を見据えた投資活動を行うようになったのだ。

彼らは、女性も優れた起業家そして投資家にもなれることに気づいた。この10年で、女性を雇用する(さらには女性によって創業される)VC企業が増えた。それでもまだ11%程度ではあるが

人種間格差の方はどうだろうか。私の知人に、米国で5本の指に入る工科大学で電気工学とコンピューターサイエンスの修士号を取った優秀な黒人男性がいる。彼は数億ドルの資金を調達した会社のエンジニアリングチームでトップを務めている。さらには、法人向けのハイテクスタートアップを創業して100万ドル(約1億300万円)以上の収益を上げていて、黒字経営で、しかも自己資金のみで運営している。もし彼が白人だったら、間違いなくVCからかなりの資金を調達していただろう。だが黒人であるという理由だけでそれもできなかった。

繰り返すが、私はこれをあからさまな人種差別の問題とは思っていない。おそらく彼はVC社会に受け入れられず、彼自身居心地も悪いのだろう。資金を調達できる自信もなかったのかもしれない。自分の周りの黒人で資金を調達した人を見たことがないのだろう。こうした問題に加え、いわゆる「起業家らしい外見」を備えていないため、VCから門前払いされるだろう。

こうした事実はあるものの、起業家の側にも変化が起こり始めている。例えば当社では最近、Supplied(サプライド)という新サービスをリリースした。これは小規模企業やブティックが中国の工場から直接製品を大量仕入れできるようにするもので、顧客の約95%が女性、60%が有色人種だ。

この市場向けにサービスを開発するつもりはなかったのだが、顧客がSuppliedを積極的に活用するようになると、こちらも顧客を受け入れるようになった。最初、当社の取締役会(すべて白人男性)はこの市場を理解せず、少し慎重になっていた。私は彼らを責めるつもりはない。彼らのそうした想定や初期反応は何ら悪意のあるものではない。ただ、当社の顧客を理解できるような経験をこれまでにしていなかっただけだ。

しかし、私には少なくとも顧客ベースが直面する人種問題という意味では、その経験がある。私にはこの市場はビジネスになるという確信があった。同じような経験と野心を持つ有色人種の女性を大勢知っていたからだ。顧客は当社のプラットフォームに引き寄せられていた。法外に高い料金のため他社の卸売プラットフォームに入ることもできずにいたのだ。

また、私自身、顧客ベースを十分に理解できていないこと、顧客ベースを本当に理解できるだけの十分な多様性が自社チームにはないという事実にも気づかされた。そこで、組織の女性の割合を意識的に増やす努力をした。現在当社の経営幹部は女性が33%、黒人が33%、有色人種が77%だ。これは誇っていい数字だと思う。Suppliedの運営チームは、その顧客ベースと同様、女性が圧倒的に多い。

The/StudioとSuppliedのマーケティング部門のトップはどちらも黒人女性で、1人はナイジェリア、もう1人はガーナ出身だ。当社の有色人種の数は私の知っているどのテック企業よりもはるかに多い。ダイバーシティは当社にとって単なるお題目ではない。ダイバーシティは私にとって身近なことであるため、社内にも当たり前のように存在する。

シリコンバレーは信じられない結果を生み出してきた。だから、少数民族や女性を故意に締め出すこの人種差別主義的状況はあるものの、それだけでシリコンバレーを悪く言いたくはない。だが、あからさまな人種差別、歴史的要因、人の本性などを含む多くの要因のため、シリコンバレーが米国の人種と性別の多様性を反映していないことは依然として事実のままだ。

米国の多様性は増しており、世界はより豊かになっている。シリコンバレーがイノベーションの旗手としての地位を保つには、多様性を高めて米国および新興市場を理解できるようにすることが重要だ。有色人種の社員が増えることで現職者が締め出されてしまうゼロサムゲームにする必要はない。実際、多様性によって競争力が向上し、世界に対してより多様性のある見方ができるようになり、結果として、すべての人たちが利益とチャンスを得られる可能性が高まる。

黒人創業者およびリプリゼンテーションの低いその他の少数民族グループに属する人たちにも、自助努力を惜しまず、たとえ困難でも、起業家になる目的、資金を調達する目的を追求していく義務がある。今の世代が次世代の人たちを鼓舞し、雇用するようになる。資金調達に成功する黒人が増えるほど、黒人の起業家精神が正常化され、VCによる黒人創業者への投資が正常化されて起業家への道を進む黒人も増えるというフライホイール効果が生まれる。

私は、誰もが資本を獲得し起業家精神を持てる社会を目指すことは、最後の公民権運動だと確信している。我々は、シリコンバレーそして世界で、金銭的にも社会的にも本当の平等を作り出し、未来を築き上げる機会を与えられている。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
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画像クレジット:Larry Washburn / Getty Images

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(文:ゲストライター、翻訳:Dragonfly)