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考えるだけで操作できる脳モニタリングデバイス「Cognixion One」、重度障がい者の円滑な意思疎通をアシスト

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重い運動障がいを持つ人たちは多くのフラストレーションを抱えているが、最も深刻な悩みの種はコミュニケーション障がいだろう。テック業界は、閉じ込め症候群、ALS、重度の脳卒中などの症状を抱えた患者たちにあまり多くの支援を提供してこなかった。スタートアップ企業Cognixionは、新しい形態の脳モニタリングと最新のインターフェイスを組み合わせて、会話とやり取りをより簡単かつ高速に行えるようにすることを目指している。

同社のCognixion Oneヘッドセットは、装着者の脳の活動をつぶさにモニタリングすることによって、装着者がカーソルをいろいろな方向に移動させることや(カーソルは、ヘッドアップ表示装置のようなバイザーに表示される)、さまざまなメニューとオプションから選択することを可能にするデバイスだ。実際に身体の一部を動かす必要はない。また、Alexaなどの最新の音声インターフェイスのおかげで、ユーザーは効率的にコミュニケーションできるだけでなく、大半の人が当たり前と考えているあらゆる情報とコンテンツに自由にアクセスできる。

しかし、このデバイスは、奇跡のマシンでもなければ、難題を簡単に解決する特効薬でもない。Cognixion Oneはどのようにして生まれたのか、その経緯をたどってみた。

数十年来の脳テクノロジーを徹底的に見直す

運動障がいを持つ人にはさまざまなニーズがあり、できることも人によって異なる。そうしたニーズの多くに応えるさまざまな補助テクノロジーがあるが、それらのテクノロジーとインターフェイスの多くは、数年あるいは数十年前に開発された、スマートフォンと高速モバイル接続の時代にはそぐわない時代遅れの医療機器だ。

最も時代遅れのインターフェイスのいくつかは、残念ながら、最も重度の障がい持つ人々が使うものだ。彼らが動かせる部分は、頭、顔、目に限定される。有名な「The Diving Bell and the Butterfly(潜水服は蝶の夢を見る)」の作者Jean-Dominique Baub(ジャン=ドミニク・ボビー)氏のように片方のまぶたしか動かせない人もいる。

ツールボックスに含まれているツールの1つは脳波図(EEG)だ。頭蓋骨に貼り付けられたパッチで脳の活動を検出し、電気信号を記録するものである。医療と研究にはいろいろと有用なEEGだが、作動時の音がうるさくて不正確だという難点がある。どちらかというと脳の活動領域を検出するためのもので、感覚皮質の小領域などを検出するものではない。もちろん(大抵は伝導ジェルでべたべたの)電極がつながれたシャワーキャップをかぶる必要がある。これをかぶり続けることができるのはせいぜい1時間が限度で、毎日、1日中装着するなどとても無理だ。

一方、重い身体障がいを持っていても認知能力は損なわれていない人も多い。このことはEEGを使った研究ですでに実証されている。そこで、Cognixionの共同創業者でCEOのAndreas Forsland(アンドレアス・フォースランド)氏は、この古参テクノロジーの今後の可能性について興味を持ち「EEGを使った脳コンピューター間インターフェイスはコミュニケーションシステムを作ることはできないだろうか」と考えるようになった。

同氏は5年ほど前に、研究調査を補助する目的で初めてEEGを使った。その研究では、画面上のカーソルを人が制御するための代替方法を探していた。その1つが頭の動きを検出する加速度計で、同氏はEEGの測定値を別の信号として統合しようと試みたのだ。しかし、ブレイクスルーには遠く及ばなかった。

EEGキャップをレシーバーとノートパソコンに接続して使っている最近のラボ。これがEEGの通常の使い方だ(画像クレジット:BSIP/Universal Images Group via Getty Images)

同氏は次のような問題点を挙げる。「読み取り専用システムといっしょにEEGを使う現在のやり方では駄目です。他のヘッドセットはサンプルレートが低く、リアルタイムインターフェイスとしては正確性に欠けます。最高のBCI(脳コンピューターインターフェイス)は研究室で使うウェット電極に接続されたものですが、取り扱いが面倒で、役に立ちません。乾いた不活性電極でEEGを再現するにはどうすればよいのか、という極めて難しい工学的問題を解決する必要があります」。

フォースランド氏と同氏の同僚は、問題はEEG自体ではなく、EEGの実行方法にあるのだという点に気づいた。この種の脳モニタリング装置は、診断や研究目的に設計されたもので、リアルタイムのフィードバックを取得できるように設計されていない。これでは、ドラッグレースにトラクターで出場するようなものだ。大抵の場合、EEGは脳の複数の領域を低速で詳細にチェックするため、1回のチェックが数秒間続くこともある。その上、生成された信号の分析には時代遅れの統計的手法が使われている。Cognixionは、この2つの側面を見直すところからスタートした。

スキャン速度を上げるのは、センサーなどをオーバークロックするよりも困難だ。脳の活動を推測するには、一定量のデータを収集する必要がある。だが、そのデータは受動的にしか収集されない。そこで、フォースランド氏は、能動的な要素を持ち込もうと考えた。それが、リズミカルな電気刺激である。脳の領域はこのような刺激に反応するのだが、その反応の仕方は脳の状態によって若干異なる。エコーロケーション(反響定位)のようなものだ。

Cognixion Oneヘッドセットに組み込まれているドライ電極。これでEEGを計測する(画像クレジット:Cognixion)

同氏のグループは、視覚野領域(後頭部の周り)に調整可能な6つのEEGチャンネルをセットしてこれらの信号を検出し、受信されるデータを、機械学習モデルを使って解釈する。畳み込みニューラルネットワークをiPhone上でローカルに実行することにより(こんなことは数年前は不可能だった)、システムは信号を迅速に引き出すだけでなく、正確に予測することもできるため、より高速でズムーズなやり取り(コミュニケーション)が可能となる。

その結果、携帯電話から給電したワイヤレスヘッドセットで、待ち時間1秒未満、95~100%の正確性が実現した。「速度、正確性、信頼性、いずれをとっても商用化できる段階に到達しています。現行のEEG機器としては最高の部類に入ると思います」とフォースランド氏はいう。

臨床神経外科医で、EEGおよびその他の脳コンピューター監視テクノロジーを数十年にわたり使用研究してきたWilliam Goldie(ウィリアム・ゴールディー)博士は、Cognixionのテクノロジーを肯定的に評価する(同博士はCognixionのヘッドセットの開発とテストに自主的に協力してきた)。

「脳波の活動が思考パターンに対して予測可能な形で反応することについては確実な証拠があります」と同氏はいう。このタイプの刺激と反応については、数年前に研究が行われた。「大変興味深い研究でしたが、当時はまだ、言ってみれば不思議な魔法の世界の話でした。今、最新の専門技術とコンピューター化によってこの研究が再び注目を集めています。個人的には、医療現場で多大な効果を発揮する可能性がある分野だと思います」。

BCIとUIの融合

フォースランド氏は開口一番「我々はUI企業です」と述べた。同氏が後述するように、神経インターフェイスは確かに大きな進歩を遂げてきたが、重度の運動障がいを持つ人たちが迅速かつ簡単に自分の意志を表現できるようにするという目の前の問題に適用できなければほとんど意味がない。

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残念ながら、息を吹き込むチューブとスイッチを四苦八苦しながら使って、右、もう少し右、上、もう少し上という具合にカーソルを動かしてクリックし、やっと1文字入力するといった類の「まるで戦っているかのうような器具」を改良すること想像に難くない。この点で凝視検出は大きな進歩だが、いつも使えるとは限らない(人の目は必ずしも思い通りに動いてはくれない)し、最高の視線追跡ソリューション(Tobii[トビー・テクノロジー]のDynavoxタブレットなど)は携帯できない。

こうしたインターフェイスを、他の機器と同じようにモダンでスムーズに使えるインターフェイスにできないものだろうか。フォースランド氏のチームは、こうした問題点と次世代のEEGの機能を念頭においてUIの設計に着手した。

画像クレジット:Cognixion

彼らのソリューションは、古いパラダイムから若干借用して、それらを最新のバーチャルアシスタントと組み合わせたもので、すばやいレスポンスと一般的なニーズを優先させた放射状のデザインを採用している。システムはすべてiPhone上のアプリとして実行され、iPhoneのディスプレイがバイザー(ヘッドアップディスプレイおよび外向きディスプレイとして機能する)に映し出される。

何かについてふと考えただけでインターフェイスが作動するわけではないが、少なくとも一瞬集中するか首をかしげるだけで「はい」「いいえ」「ありがとう」などの日常的な質問や応答は簡単にできる。また、事前に作成済みの言葉(名前やメニューの順序など)を入れるスロットも用意されている。さらには、キーボードは単語および文章単位での予測が可能で、よく使う単語はいちいちスペルアウトしなくても自動的に挿入される。

「スイッチに頼っていた人たちにこのシステムをテストしてもらいました。2つの選択をするのに30分かかっていたような人たちです。脳性まひの女性にヘッドセットを取り付けると、彼女はわずか2分で自分の名前を入力し再生ボタンを押しました。本当にあっけないくらいで、みんな感激のあまり泣いていました」とフォースランド氏は語る。

ゴールディー氏はいくらか学習が必要だと指摘する。「自分でヘッドセットを付けてみて気づいたことがあります。このシステムは、確かにパターンを認識して実行してくれますが、一方で、こちらにパターンを教えてくることもあります。つまり、システムをトレーニングすると同時に、システムからもトレーニングされるというフィードバックループが形成されます」。

「その場で声が一番大きい人になることがあります」

このシステムのメリットを痛感している人がいる。身体障がい者を擁護する活動をしているDJ兼講演者のChris Benedict(クリス・ベネディクト)氏だ。ベネディクト氏自身脳性まひを患っているため、身体の動きは制限され、自由に話すこともできない。それでも彼は、さまざまな仕事で(デジタル)レコードを回すことをやめない。またヘッドセットを付けた経験をメールで説明し続けている(上の動画で彼がヘッドセットを付けてデモしているところを見ることができる)。

画像クレジット:Cognixion

「このヘッドセットをいつも付ける必要があるとは思わないけれど、コミュニケーション支援ツールとしては本当に便利です」と彼はいう。「特にすぐに答える必要があるときや、DJをやっているとよくありますが、さわがしい場所にいるときには重宝します。Bluetoothスピーカー付きのヘッドセットを付けていると、その場で声が一番大きい人になることがあります」(彼はいつもスピーカーを持ち歩いている。「いつ音楽が必要になるかわからないから」というのがその理由だ)。

このヘッドセットによってもたらされる利点は、既存の支援テクノロジーに欠けているもの(および多くの人が当たり前と思っていること)がわかるようになることだ。

「コミュニケーションに使うことはもちろんですが、バイザーのおかげで話している相手と視線を合わせることができるんです。自分と相手の間にある画面を凝視する必要がない。これで本当に相手とのつながりを感じることができます」と彼は説明してくれた。

「ヘッドセットですから、さまざまな場所の出入りについて心配する必要もありません。椅子にかさばる装置が付いているわけでもないので、ドアを出入りするときに壊してしまう心配もない。重量のバランスも考えられていて、頭が前後に傾いたり、重さで首が曲がったりすることもありません」と彼は続ける。「最初のセットアップ時にはキャリブレーションを行う必要があります。システムが私の可動域を計測して、キーボードや画面のさまざまな選択項目を私に合わせて設定してくれます。これは重要です。可動域は毎日同じではないですから」。

Alexaは、手頃な価格と広範な互換デバイスのため、さまざまな障がいを抱える人たちには本当に便利なシステムだ。AlexaはCognixionのインターフェイスの一部にもなっている。ベネディクト氏はこの点を評価しており、スマートホームやその他の目的に合わせて自分でシステムをカスタマイズしている。「他のシステムでは、こうしたカスタマイズはできません。オプション機能として用意されていたとしも、本当に複雑です」と彼はいう。

今後の展望

ベネディクト氏のデモを見ればわかるように、Cognixionのようなデバイスが大きな意味を持つ人たちがいる。こうしたデバイスが、必然的に多様になる支援テクノロジーエコシステムの一部として受け入れられるよう願ってやまない。

フォースランド氏によると、Cognixionは、ユーザー、ゴールディー氏のような医療アドバイザー、その他の専門家(言語療法士など)のコミュニティと密接に連携して、Oneヘッドセットをできる限り良い製品にしようとしている。しかし、問題は、このクラスの多くのデバイスと同様、価格と物流の両面で、どのようにして実際にユーザーの手に届けるかだ。

Cognixionは、ヘッドセットの代価を保険の対象にするようにFDAの認可を求めている(ちなみに、このヘッドセットは画面とプロセッサが組み込まれているデバイスとしてはそれほど高価ではない)。しかし、しばらくの間は、神経学と心理学の研究を行っている病院や企業のラボ(つまり、従来の面倒なEEGセットアップが使われている場所)と連携して作業を進めていくつもりだという。

Cognixionはこれまでも資金を調達しているが、追加資金の調達を目指している(ハードウェアの開発と医療目的の研究には膨大な資金が必要だ)。また、多くの助成金の交付も受けている。

Cognixion Oneヘッドセットが広く利用されるようになるまでにはまだ数年かかるかもしれないが(FDAが認可を急ぐことは決してない)、そのおかげでデバイスを改良し、新しい機能を追加する時間的猶予が得られることにもなる。例えば、スイッチやジョイスティックなどの他の多くの支援デバイスと違って、このデバイスの制約は大部分がソフトウェアに関するものだ。つまり、アルゴリズムとUIが進化すれば、デバイスは大幅に改善されることになる。多くの人が、Neuralink(ニューラリンク)などの企業によって今の時代に合った近代的な脳コンピューターインターフェイスが開発されるのを待ちわびている状態だが、Cognixionは、脳コンピューターインターフェイスから得られるものが普通よりはるかに多い特定のグループの人たち向けに、そうしたインターフェイスをすでに実現したことになる。

同社のウェブサイトに登録すると、Cognixion Oneヘッドセットに関する最新の情報を入手できる。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:Cognixion障がいウェアラブルデバイスEEG

画像クレジット:Cognixion

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)