株式報酬(用語)

【コラム】スタートアップの株式報酬を透明化するために米証券取引委員会はもっと努力するべきだ

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編集注:本稿の著者Yifat Aran(イファット・アラン)博士はイスラエル工科大学の客員研究員で、ハイファ大学法学部の次期助教授。スタンフォード大学ロースクールでJSDを取得したが、そこではシリコンバレーのスタートアップにおける株式報酬に焦点を当てた論文を書いている。

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あなたが夢見ていた会社に就職が決まったとしよう。契約の交渉を始め、1つのことを除けばすべてが順調に進んでいる。その1つとは、その雇用主はあなたの給料が何の通貨で支払われるのかを明言しないことだ。米ドルかユーロか、あるいは日本円かもしれないが、あなたはとりあえず大丈夫だと信じ、正当な報酬が払われることを願うことになる。不条理に聞こえるかもしれないが、これが現在のスタートアップ企業の株式報酬市場の仕組みだ。

典型的なシナリオは、雇用主がオファーレターの一部としていくつかのストックオプションや譲渡制限付き株式ユニット(RSU)を提供するが、会社の総株式数については言及しないというものである。この情報がなければ、従業員は自分が付与された株式が0.1%なのか、0.01%なのか、あるいはその他の割合なのかを知ることができない。従業員はこの情報の提供を求めることができるが、雇用主には提供する義務がないため、多くのスタートアップ企業では提供していない。

しかし、それだけではない。適切な情報開示がなされていないため、従業員は、スタートアップ企業の評価情報の中でも最も重要な形式である、会社の資本政策表や残余財産分配優先権総額(会社が売却された場合に、従業員が支払いを受ける前に投資家に支払われる金額を決定するもの)をまったく知らないのだ。従業員はベンチャーキャピタルによる資金調達の負債性を考慮していないため、自分が付与された株式の価値を過大評価する傾向がある。これは、特にユニコーン企業の従業員に関係している。なぜなら、後期の資金調達でよく見られるタイプの条件は、会社の普通株式の価値に劇的な、そしてしばしば誤解を招くような影響を与えるからだ。

この問題を解決するために、規制当局は何をしてきたか?あまり多くのことはしていない。現行の規制では、大半のスタートアップ企業は、オプションプランのコピー以外の情報を従業員に提供することを免除されている。ただし、1年間に1000万ドル(約10億8885万円)以上の有価証券を従業員に発行するスタートアップ企業のごく一部は、最新の財務諸表(2年分の連結貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー、株主資本等変動計算書)を含む追加情報の提供が義務付けられている。これらの開示には、スタートアップ企業の機密情報が含まれている可能性が高いが、従業員が答えを求める評価の問題にはほとんど関係がない。会社の直近の公正な市場評価と、さまざまなエグジットシナリオにおける従業員の予想支払額の説明があれば、はるかに有益な情報を伝えることができるはずだ。

現行の規制の問題点は、単に従業員への情報提供が多すぎる、あるいは少なすぎるということではなく、その両方であり、それ以上の話なのだ。Johnny Mathis(ジョニー・マティス)とDeniece Williams(デニース・ウィリアムス)の歌の歌詞にあるように「多すぎ、少なすぎ、遅すぎ」なのである。この規制が義務づけるのは、あまりに多くの無関係で潜在的に有害な情報の開示と、あまりに少ない重要な情報の開示であり、情報は従業員が効率的に意思決定できない時期(従業員が会社に入社してから)に開示されている。

このような状況は、従業員自身にとってだけでなく、ハイテク産業の労働市場全体にとっても不健全である。人材は、あらゆる規模の企業が依存する希少資源だ。情報が不足していると、競争が妨げられ、従業員がより良い有望な機会を得るのが遅くなる。長い目で見れば、従業員の情報面での不利益は、エクイティインセンティブの価値を低下させ、スタートアップ企業にとっての人材獲得競争がますます厳しいものとなるのだ。

Columbia Business Law Review(コロンビアビジネス法レビュー)に掲載した記事「Making Disclosure Work for Startup Employees(スタートアップ企業の従業員のための情報開示)」で、私はこれらの問題は比較的簡単に解決できると主張した。100人以上の従業員に株式クラス(クラスは問わない)のうちの10%以上を発行するスタートアップ企業に対しては、エグジットのウォーターフォール分析に従って従業員の個別の支払いを開示することを義務付けるべきである。

ウォーターフォール分析は、キャッシュフロー分配の取り決めの内訳を説明するものだ。スタートアップ企業の資金調達の場合、この分析では、企業の株式が売却されたと仮定して、その収益を、普通株主が最終的に残余請求権(存在する場合)を受け取るまで、それぞれの清算優先順位に従って異なる持分クラスの株式に「滝」のように配分する。モデルに含まれる情報は非常に複雑だが、結果はそれほど複雑ではない。ウォーターフォールモデルでは、X軸に記入された各可能性のある「エグジット評価」に対して、従業員の個別の「支払い」がY軸に示されたグラフを作成することができる。この作成は資本政策表管理プラットフォームを使えば、マウスを数回クリックするだけで簡単にできる。

このように視覚的に表現することで、従業員は、背景にある数学や法律の専門用語がわからなくても、さまざまな範囲のエグジットの価値においてどれだけの利益を得ることができるかを理解することができる。このような情報があれば、従業員はルール701で義務づけられている従来の形式の開示を必要とせず、スタートアップ企業は財務諸表に含まれる情報が悪人の手に渡るリスクの心配をしなくて済む。重要なのは、従業員はエクイティ型報酬を含む仕事の機会を受け入れるかどうかを選択する前に、オファーレターの一部としてこの情報を受け取るべきだということだ。

2021年の初め、SEC(米証券取引委員会)はルール701の改訂案を発表した。この提案には多くの進歩が見られ、財務諸表の開示に代わるものも導入されている。従業員に1000万ドル(約10億8885万円)以上の有価証券を発行するスタートアップ企業に対しては、財務諸表の開示か、有価証券の公正な市場価値に関する独立した評価報告書の提供のどちらかを選択できるようにしている。本案によると、後者は、内国歳入法第409A条に基づく規則や規定に従っている独立した評価によって決定される必要がある。

これは正しい方向へ進む第一歩だ。公正な市場評価は、会社の財務諸表よりも従業員にとってはるかに有用なのだ。しかし、409A評価の開示はそれだけでは十分ではない。409A評価が非常に不正確であることは、シリコンバレーではよく知られていることだ。鑑定企業は依頼者である企業との長期的なビジネス関係を維持したいと考えており、また、評価は経営陣から提供された情報に基づくものであり、取締役会の承認が必要であることから、スタートアップ企業は評価結果をほぼ完全にコントロールすることができる。したがって、企業の409A評価は、結果を出すために使用されたウォーターフォール分析が含まれている場合にのみ、情報的な価値を持つ。さらに、SECの提案では、大多数のスタートアップ企業は(1000万ドル、約10億8885万円という基準を回避しさえすれば)意味のある情報開示を行わずに株式交付を行うことが可能だ。

30年以上にわたり、SECはスタートアップ企業の株式報酬の規制をほぼ完全に緩和し、人材獲得競争において株式に依存するスタートアップ企業のニーズの高まりに対応してきた。しかしSECは、雇用の仕組みの相手側、つまり株式報酬の価値に関する情報を求める従業員のニーズには、これまでも、そして今も、ほとんど注意を払っていない。今こそ、投資家としての立場にある従業員の保護を、証券規制体制の下で再検討する時期に来ているのではないだろうか。

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カテゴリー:その他
タグ:SEC株式報酬コラム透明性エグジット

画像クレジット:BreakingTheWalls / Getty Images

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(文:Yifat Aran、翻訳:Dragonfly)