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【コラム】多様性、公平性、包括性の面から評価した現在米VC業界の進歩

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編集部注:Maryam Haque(マリアム・ハケ)氏はVenture Forwardのエグゼクティブディレクター。Bobby Franklin(ボビー・フランクリン)氏はNational Venture Capital Associationの社長兼CEOで、以前CTIA-The Wireless Associationのエグゼクティブバイスプレジデントを務めていた。

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これまでベンチャーキャピタル業界が多様性に欠けていたことは明らかだが、業界が改善に取り組んでいることは喜ばしい。

そもそもベンチャーキャピタルは業界として、筆者らが測定したものを改善することしかできない。2016年、筆者らは、ベンチャーキャピタルの多様性、公平性、包括性(DEI:Diversity, Equity and Inclusion)の進捗状況を追跡するための厳密な方法論を開発し、2年に1度開催されるVC Human Capital Surveyで、これらのデータを測定し、ベンチマークとすることに着手した。

この調査はNVCA(National Venture Capital Association:全米ベンチャーキャピタル協会)、Venture Forward(ベンチャ―フォワード)、Deloitte(デロイト)の協力を得て実施され、あらゆる種類、規模、ステージ、セクター、地域のベンチャーキャピタル従業員の人口統計データを収集すること、および企業のタレントマネジメントや採用活動の傾向を把握することを目的としている。これまでの調査では、進歩が遅く、落胆させられることもあったが、すべての分野ではないとはいえ、一部の分野では多様性(および多様性を促進するための会社の取り組み)が高まっている証拠を得ることができた。

筆者らは2016年、2018年、2020年に調査を実施し、2021年3月に2020年の成果を発表した。この調査では、2020年6月30日時点で378社の企業から収集したデータを掲載しており、203社だった2018年から大幅に増加している。さらに、145社以上の企業が#VCHumanCapital pledge(誓約)に署名し、DEIのデータを提出することを約束した。

ざっくりとまとめるとデータからは、投資パートナーにおける多様性の改善は、主に女性投資家の採用と昇進によってもたらされていて、黒人やヒスパニック系の投資パートナーの公平な代表性にはほとんど進展がなかったことがわかる。

しかしながら、若手投資家の人口構成が多様化し、多様性を重視したタレントマネジメントや採用手法の導入が進んでいることから、楽観的な見方もできるようになった。業界の前進にはまだ先が長いが、今回の調査で明らかになった重要なインサイトと変化をいくつか紹介する。

多様性の改善に向けた取り組み

多様性および包括性の推進を社内で明確にする企業が増加し、50%の企業がこの課題に責任を持つスタッフやチームを擁している(2018年は34%、2016年は16%)。同時に、多様性戦略と包括性戦略も普及し、43%の企業が多様性戦略を導入(2018年は32%、2016年は24%)、41%が包括性戦略を導入している(2018年は31%、2016年は17%)。

この取り組みは多様性の改善につながる。専任のスタッフ、戦略、プログラムを持つ企業では、投資チームや投資パートナーの性別や人種の多様性が向上している。DEIの重要性が増していることも、より広範なエコシステムにつながっている。過去12カ月の間に、リミテッドパートナー(有限責任パートナー)や投資先企業からDEIの詳細を求められたと報告する企業が増えている。

人材の採用と育成に明るい兆し

ベンチャー企業は比較的規模が小さく、離職率は一般的に低いが、2020年には21%の企業がシニアレベルの投資担当者ポジションが増えたと回答し、43%がジュニアレベルのポジションが拡大したと回答している。ジュニアレベルの投資担当者の人口構成は、性別や人種の多様性が高くなっており、将来の投資パートナーの多様性を示すポジティブな先行指標となっている。

全体的にEI戦略が普及するにつれ、より多くの企業がDEIに焦点を当てた採用・雇用プログラムを開発するようになった。正式なプログラムを持つ企業は33%、非公式なプログラムを持つ企業は74%で、いずれも2016年から着実に増加している。また、企業は2018年に比べて、空席が出た際の候補者を外部に求めることが多くなったと回答している。

しかし、企業は依然として、採用活動の大部分を社内ネットワークで行っていて、(人口構成上)同質な採用結果に結びつくことが多い。外部の候補者を採用するためのパイプは細く、2018年と2020年の調査でほとんど変化は見られない。VC業界の同業者を頼る(78%)、会社の内部で採用をかける(59%)が最も多く挙げられた戦略だった。例外的に、LinkedInなどのサードパーティのウェブサイトやニュースレターへの掲載は、2020年には54%の企業が回答しており(2018年の37%から大幅に増加)、既存のネットワーク以外のより幅広い候補者にアプローチするための手段の1つもなっている。

未だ困難な包括性の評価

人材の獲得後は、包括的な文化と定着率がDEIの進捗を測る重要な指標となる。リーダーシップ開発、メンターシップ、定着に特化したプログラムを実施する企業が増えており、約3分の2の企業が非公式のプログラムを提供し(2016年と比べて20ポイント増)、20%の企業が正式なプログラムを提供していると回答している。

VC Human Capital Surveyで包括性を評価することは困難である。なぜなら、この調査は1社につき1人を代表として行っていて、1人では他の人が感じている包括性の度合いを回答することができないからである。2020年の調査では、企業自体が包括性をどのように評価しているかを測るために、新たな質問を追加した。41%の企業が包括性戦略があると回答した一方で、包括性を評価するために従業員を対象とした調査を行っていると答えたのは26%に留まった。

依然主観的な要素が昇進における重要な考慮事項

多様な人材が業界の最高レベルの意思決定者になるためには、キャリアアップのための十分に構造化され、一貫して適用されるポリシーが欠かせない。昇進に焦点を当てた正式なDEIプログラムを提供していると回答した企業は約20%(2016年の5%から増加)、非公式なプログラムを提供している企業は65%(2016年の39%から増加)である。

昇格に焦点を当てたDEIプログラムは広まっているものの、主観的な要素は依然として昇格決定の重要な考慮事項であり、不平等で偏った結果につながる可能性がある。

ほぼすべての企業が、昇進を検討する上で「ファンドのパフォーマンスへの貢献」(90%)と「取引の組成」(82%)が「非常に重要」または「重要」な要素であると回答した。しかし、最も重要と回答されたのは「ソフトスキル」であり、94%の企業が「非常に重要」または「重要」と回答している。このような主観的な要素は、無意識のバイアスが入り込む可能性が高く、より明確にパフォーマンスに関連する客観的指標による重みづけを損なう可能性がある。

推進力の維持

2020年の調査結果は、社会正義と人種的公平性が国を挙げて注目され、政策立案者がサービスの行き届いていないコミュニティからの資本へのアクセスを向上させようとし、VC業界が新たにDEIに着目し始めた1年の直後という時宜を得たものとなった。今回の調査は、VC業界がどこに注力すべきかを示すとともに、DEIにフォーカスした取り組みの共通のニーズを思い出させる重要な指摘となった。

データは、疎外された複数のコミュニティを代表する人を見ると、1つの人口統計要素内の進歩がより小さくなる可能性があることを示している(例えば女性である投資パートナーの割合は着実に増加しているが、有色の女性である投資パートナーの割合は増加していない) 。

DEIの進歩のペースは遅く、不均一な部分もあるが、楽観できる根拠もある。4月6日、NVCA、Venture Forward、Deloitteは、最新の調査結果をさらに検討し、DEIの課題、機会、業界の戦略について議論するために、業界のリーダーとの討論会を開催した。社内での、また公の場における業界の同業者との建設的な会話を優先事項と考え、協調的な精神で行動し、熟考した具体的なDEI戦略を採用し、意欲的かつ緊急性を持って行動する企業が増えている。

業界がDEIの取り組みに対して勢いを持ち続け、結果を出すことができれば、有意義な進展につながる転換点に到達し、今後の調査に反映されることになるだろう。

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画像クレジット:Dimitri Otis / Getty Images

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(文:Maryam Haque、Bobby Franklin、翻訳:Dragonfly)