水を使わないQidni Labsの携帯型透析装置、埋め込み可能な人工腎臓実現への一歩

次の記事

デリバリーサービスのGopuffがフリートマネジメントプラットフォームのrideOSを127億円で買収

この1年、カナダにいる3頭の羊は、自分の腎臓を袖につけていた。もっと正確にいうと、フワフワの毛で覆われた背中にジャケットを着ているのだ。

この3頭の羊は、水を使わない携帯型血液浄化システムを追求しているスタートアップ企業Qidni Labs(キドニー・ラボ)が実施している継続的な動物実験の一環だ。2014年にニューヨーク州バッファローで設立されたQidni Labsは、これまでに150万ドル(約1億6500万円)の資金を調達しており、現在は新たな投資ラウンドに向けて企業精査を行っている。同社が開発したウェアラブル腎疾患治療機器の空気除去システムは、2019年のKidneyX Summitで賞を獲得したこともある。

羊が身につけているジャケットは、Qidni Labsの携帯型血液透析装置「Qidni/D」の試作品だ。そのアイデアは、従来の血液透析装置よりも大幅に小型化し、使用する液体の量を少なくすることで、患者がより動き回りやすくなるというものだ。

「このデバイスと技術は、患者が動き回ることができる血液浄化技術への橋渡しになると我々は考えていますが、これがそのまま最初の製品になるとは思っていません」と、Qidni Labsの創業者でCEOを務めるMorteza Ahmadi(モルテザ・アフマディ)氏は語っている。

CDC(米国疾病管理予防センター)によると、米国では7人に1人が何らかの慢性腎臓病を患っていると言われている。時間の経過とともに腎不全が進行する可能性があり、その時点で透析や移植を受けることが推奨される。その基準となるのが、体重減少、息切れ、不整脈などの症状だ。

透析には大きく分けて、血液透析と腹膜透析の2種類がある。血液透析は、体外に導き出した多量の血液を、特殊なフィルターと透析液という液体に通してまた体内に戻す方法。腹膜透析は、体内に透析液を注入して血液中の老廃物を吸収させ、それを排出する。Qidni/Dは、羊サイズのジャケットに収まる大きさの血液透析装置で、独自のカートリッジとゲルをベースにしたシステムを使うことで、透析を行うために必要な液体の量を削減している(TechCrunchはこの装置の画像を確認している)。初期の動物実験(結果はまだ査読付きジャーナルで出版されていない)では、このデバイスは、従来の透析と同等の適切な値まで、羊の血液中の尿素のレベルを下げることができた。TechCrunchでは、この研究のデータをZoomで確認している。

この羊たちは機能する腎臓を持たず、4時間から8時間半ほどこの機器に繋がれていた。アフマディ氏によれば、これまでのデータから、羊の血液をきれいにするには4時間の治療で十分だと考えられるという。

今回の研究は小規模な動物実験であり、大きな結論を導くことはできない。例えば、この研究では能動的な対照群を設けておらず、羊の血液から除去された尿素と電解質の量を、他の透析研究で公表されている基準と比較している。

この技術を市場に投入できると判断するには、今回の研究だけでは十分ではないものの、Qidni Labsの携帯型透析装置の設計が、さらなる試験に耐えうるものであることを示していると、社内では考えている。

「今回の研究では、データに基づいて私たちは毎日の透析を置き換えることができたと言えるでしょう」と、アフマディ氏はいう。

チームは年内に、さらに羊を使った研究で技術の改良を続けていき、2022年には人による臨床試験を開始することを目指している。臨床試験で安全性と有効性が実証されれば、2023年後半にFDA(米国食品医薬品局)の承認を申請するというのが全体的な目標だ。

腎臓の治療は、負担の大きい治療である透析が主流となっている。多くの場合、腎臓移植によってその負担を軽減することができるにもかかわらずだ。

現時点では、腎臓移植を受ける人よりも、透析を受ける末期腎不全患者の方がはるかに多い。CDCの推計によると、米国には約78万6000人の末期腎不全患者がいるが、そのうち71%が透析を受けており、29%が腎臓移植を受けている。

人工透析事業では、特に業界の約70%を支配する2大企業であるFresenius(フレゼニウス)とDaVita(ダヴィタ)が複雑な歴史から業績不振に陥っており、そのリスクとコストは物議を醸している

腎臓治療の状況は、メディケア(高齢者および障害者向け公的医療保険制度)でカバーされているという点でも注目を集めているが、依然として費用が高額であることに変わりはない。透析と移植は、メディケアの予算の約7%を占めている。このように状況が複雑であるため、いくつかのスタートアップ企業が埋込み式人工腎臓のような代替手段を追求している。

Qidni Labsの現在の製品は、機能しなくなった腎臓の代わりに患者の体内に永久に埋め込まれるという意味での人工腎臓ではない。そうではなく、より移動やすく人工透析を行うためのものだ。Qidni/Dと呼ばれる血液浄化装置が、当面の間はQidni Labsの主力製品となる。

とはいえ、Qidni/Dには、アフマディ氏が期待するように「破壊的」な効果をもたらす可能性のある、いくつかのユニークな要素がある。それは、サイズが小さいことと、必要な水の量が少ないことだ。

CDCによると、平均的な患者は1週間の透析治療の間に、約300〜600リットルの水を必要とする。この水の一部は、血液中の毒素を排出するための透析液に使用される。アフマディ氏によると、Qidni/Dでは1回の治療で使用する水はわずかコップ1杯分で、そのほとんどが透析液に含まれるという。

「私たちが知る限り、水を使わない技術が、大型の動物モデルで血液浄化に長期にわたり有用であることが確認されたのは、おそらく世界でも初めてのことだと思います」と、アフマディ氏は語る。

透析から液体を取り除くことができれば、現状では非常に大変なプロセスを効率化できる可能性がある。それによって、自宅での透析が可能になり(水の安全性に関する要求が緩和される)、感染症のリスクが軽減される(透析中に水による感染症が発生することがある)ことを、アフマディ氏は期待している。

それはまた、埋め込み可能な腎臓の実現に向けた小さな一歩でもある。埋め込み可能な腎臓は、大量の液体を必要としないのが理想だからだ。とはいえ、現在Qidni Labsが重点を置いているのは、あくまでも移動可能な透析だ。同社がこれから行う資金調達ラウンドでは、小規模な臨床試験を行い、カートリッジ式の技術を人体で試すことに注力する予定だ。

「今度の投資ラウンドでは250万ドル(約2億7600万円)を調達し、この技術を少人数の患者でテストしたいと考えています。テストでは患者を既存の既存の透析装置に接続し、透析液の代わりに当社独自のカートリッジを使用します」と、アフマディ氏は述べている。

患者にとって究極の命題は透析を必要としないソリューションではあるとはいえ、Qidni Labsの取り組みは最終的により臓器に近い機能を持つ透析装置を実現するための一歩となるだろう。

関連記事
HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始
「のど」撮影画像の解析で診断、アイリスがインフルエンザを判定可能な感染症診断AI搭載医療機器を日本初承認申請
慶應発スタートアップOUIのiPhone装着型眼科診察機器「Smart Eye Camera」がEUで医療機器登録

カテゴリー:ヘルステック
タグ:Qidni Labs資金調達医療腎臓

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Hirokazu Kusakabe)