【インタビュー】競合他社に差をつけるには創業初日からストーリーの構築を始めよう

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【インタビュー】freee佐々木大輔CEO「こんなもの誰が欲しがるんだ」と自問した創業期を語る

かつては独自の製品を持つことで、競合相手よりも少なくとも数カ月のリードタイムを得ることができていたが、そうした優位性はますます少なくなっているように思える。例えばTwitter Spaces(ツイッター・スペース)がClubhouse(クラブハウス)よりも先にAndroid(アンドロイド)版をリリースした例を考えてみるだけでそれがわかる。

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このように、競合他社が自社の優れた機能をコピーするのは時間の問題であるとわかっている状況下では、どうすれば競合他社の先を行くことができるだろうか?

その解決策は「メッセージ」だと、コンバージョン最適化の専門家であるPeep Laja(ピープ・ラジャ)氏はいう。コピーしたりコモディティ化が可能な機能や特徴とは異なり、戦略的なナラティブ(物語、ストーリー)は長期的なアドバンテージとなり得る。以下のインタビューでは彼が、スタートアップ企業が初期の段階から、なぜそしてどのようにナラティブに取り組むべきかを説明している。

ラジャ氏は、CXLSpeero(スピーロ)、Wynter(ウィンター)といったマーケティングおよびその最適化を行うビジネスを起業した人物だ。彼は最近Twitter(ツイッター)に投稿したスレッドで「これまでのやり方に挑戦する」「偉そうな態度をとる」といった、スタートアップ企業が使うことのできる共通のストーリーやナラティブを取り上げ、そうした戦術を採用している企業の例を紹介した。今回私たちは、そうした彼の考えやスタートアップの創業者への提言を改めて聞いてみた。

編集部注:このインタビューは、長さとわかりやすさのために編集されている。

あなたのサイトのキャッチフレーズでは、スタートアップに対して「製品による差別化は消えつつある」と告げ「メッセージで引きつけるべき」と伝えています。その理由を説明していただけますか?

この有名な言葉は、2017年にDrift(ドリフト)のCEOであるDavid Cancel(デビッド・キャンセル)によって口にされたものです。

大まかに言えば、どんなスタートアップも、イノベーションかメッセージか、そして理想的にはその両方で勝負しています。通常は、新しいこと、より良いことをするイノベーションから始めたいと思うものです。しかし、機能での勝負は一過性の優位性に過ぎません。誰もやっていないことをやっていてもその優位性は長続きしません。遅かれ早かれ、大手企業や他のスタートアップ企業にコピーされてしまうので、イノベーションだけでは不十分なのです。機能は、せいぜい2年程度しか続かない一過性の優位性で、それ以上続くことはほとんどありません。一方、適切なナラティブとメッセージを持てば、長期的な優位性を保つことができます。

ストーリーで勝負するスタートアップは、もしそれば大胆なものであれば大きな優位性を得ることができます。なぜなら、大企業は安全であることに最適化し、それはしばしば非常に退屈なものになりますが、誰もそれをいちいち指摘しないからです。それに対して、スタートアップは、勇気を出してわざと極端な方向に走ることもできます。

理想的なのは、イノベーションから始めながらも、同時にブランドの構築も始めることです。そうすればたとえ競合他社が機能で追いついてきたとしても、ブランドで自社を選んでもらえるようにすることができるのです。他人よりも客観的に良く見られる状態を維持することは難しいのですが、客観的により悪い状態になることは絶対に避けなければなりません。

あなたは、スタートアップが戦略的なストーリーを見つけ、それを検証するためのリサーチを支援なさっています。このコンセプトを説明してもらえますか?

スタートアップは、規模が大きくなるにつれて、機能や特徴ではなくストーリーで伝える必要があることに気づきます。彼らのナラティブは、より大きなコンセプトにつながる戦略的なものである必要があるのです。「世界はかつてこうだったが、今は変わってしまった。私たちのスタートアップは、この新しいコンテクストであなたを助けます」ということです。

架空の例として、マーケター向けのAIのコースを販売することを考えてみましょう。理想的なのは、AIについて話すのではなく、AIや機械学習はすべてを変えてしまうような止められないものであることを、ストーリーでまず説明することです。未来はすでに到来しているものの、まだ均等には手に届いていません。この列車を止めることは不可能です。それに飛び乗るか、置き去りにされるかのどちらかです。AIを導入した企業は他を圧倒することになるので、マーケターはAIを学んで適応して行く必要があります。こうすれば「マーケターのためのAI講座、7時間のビデオ、最高の講師陣」といった特徴で売るよりもずっと魅力的な商品にすることができます。

これは、私の会社であるWynterでも行っていることです。SaaSの世界をみると、10年前に比べて53倍もの企業が存在し、どのカテゴリーでも何百ものツールが提供されています。たとえばEメール・マーケティングを考えてみてください。そして、各カテゴリーの競合他社の特徴は「同じ」ということです。ほとんどが同じ機能を提供しているのです。つまり、機能による差別化はもう通用しないのです。ほとんどの会社が同じように見えて、同じようなことを言っています。現在「同一性」が多くの企業のデフォルトとなっています。この「同一性」とは、企業が提供するサービスが似すぎていたり、ブランディングで差別化ができていなかったり、コミュニケーションが不明瞭であったりすることによって引き起こされる複合的な影響です。おそらくみなさんは、最近の企業は差別化を重視していると想像なさっているでしょう。しかし興味深いことに、実態はその反対なのです。

機能面での差別化が一時的なものであることを考えると、企業はブランドで勝負すべきなのです。これが私たちの生きる新しい世界です。そしてそこで勝つためには、観客が何を求めているのか、自分が伝えていることがどのように観客に届くのかを知る必要があるのです。【略】「私の会社はこういうことをしていて、こういう風に売り込んでいるんだ」という具合に。おわかりのように、これは先ほど説明した「世界がどのように変化したかを示し、これまでのやり方では、現れ始めた新しい現実に適応できないことを説明する」というナラティブに沿っています。

創業者が自身のスタートアップを成功に結びつけるには、どのようにしたらよいでしょうか?

世界が変わったことをデータも用いて証明し、そこで勝つためには新しい戦略が必要であることを訴えましょう。そして、これまで使ってきた戦略に基づいた勝者と敗者の姿を示し、新しい世界に最も適しているものが何かという新たな証拠として利用するのです。例えばPLG(Product-led Growth、製品主導の成長)をアピールする場合には、GTM(go-to-market)戦略として、実際に利用されている例を示すことができます、なぜならお客様がすぐにその製品を使い始めたいという新しい世界に生きているからです。上手くいっている例を挙げ、それをご自分のスタートアップに結びつけることができます。

他の例としては、HubSpot(ハブスポット)のCTOであるDharmesh Shah(ダーメッシュ・シャー)氏が行っているコミュニティ主導の成長も参考になります。

また、リモートワーカーにハードウェアを提供するスタートアップFirstbase(ファーストベース)もあります。同社のCEOであるChris Herd(クリス・ハード)氏のTwitterのタイムラインは、私の言っていることをよく表しています。彼が自分の会社ではなく、ナラティブを売りこんでいるところをよく見てください。

つまり、何よりもまず、ナラティブすなわち世界に対する視点を売るのです。そしてこの新しい戦略を使って、あなたの会社がお客様の勝利に貢献できることを説明するのは、もっと後になってからで良いのです。語られるナラティブは、機能などに対する文脈を与えます。

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スタートアップがそうした道を間違えないようにするにはどうすればいいのでしょうか?

ナラティブが的はずれなものになってしまうのは、たとえば外部の世界の変化ではなく、会社の内部だけの変化を語るものであったり、あるいは実際には起きていない変化に投資して、その信憑性を高めることができなかったりするときです。ブランドに引きつけるためには、ナラティブの効果を測定する必要があります。

それはどうやってテストすれば良いでしょうか?ダイレクトセールスの場合なら、フィードバックを得ることはとても簡単です。私のセールスデモでは、デモに入る前にストーリーをお話しします。もし聞いていた人たちが資料を欲しがったら、私の話がツボを突いたことがわかります。同時に、質問があるかどうかを尋ねたり、人びとがうなずいているかどうかなどを観察したりします。もしこのようなセールスプロセスに関わっていない場合、たとえばPLG(製品主導の成長)に注力している場合には、メッセージテストを行う必要があります。これは1対1の場合もあれば、定性的な調査の場合もありますが、いずれにしても、実際のターゲット層を対象にテストを行っていることを確実にしなければなりません。

それがWynterで行っていることです。ここではメッセージテストや顧客調査を行うことができ、発信しているメッセージだけでなく、世界に対する人びとの認識についても調査することができます。これによって、ウェブサイトに置かれたセールストークの何がヒットしているのか、何がうまくいっていないのか、競合とはどのように比較できるのかなどを知ることができるのです。

スタートアップがメッセージに取り組み始めるべき時期はいつでしょう?

イノベーションは一過性のものなので、企業は開業初日からナラティブを堅持していなければなりません。いつまでもイノベーションで競争に勝ち続けることは非常に稀な出来事です。ブランドで勝つほうが、より達成しやすいことです。つまり、プロダクトマーケットフィット(PMF)の前に、メッセージマーケットフィット(MMF)が必要なのです。潜在的な顧客はそれを見ています。それは防衛のための堀にもなり得ます。自分を日用品として位置づけるのではなく(革新的でない機能で売り込むと日用品になってしまいます)、人びとが感情移入できるストーリーを開発するのです。競合他社よりも高い価格での販売が可能になれば、それは堀であることがわかります。これは機能では生み出すことはできません。機能はやがてコモディティ化し、当然のものだと思われるようになるからです。この問題は、ブランドを堅持できている場合には、はるかに少なくなります。

時間の経過とともに、ナラティブはどのように進化していくべきでしょうか?

世界の変化に合わせてナラティブも変化させていく必要があります。常に何が起きているのか、どのような背景があるのかに目を向けておく必要があるのです。リモートの台頭はその一例です。たとえばHR企業であるLattice(ラティス)が、1つの機能からより広範なサービスへと拡大していく中で、リモートに対応するようになりました。

これは、マスマーケットからより小さなクラスターへという、より大きなポイントにつながっていいます。例えばかつては皆が同じ番組を見ていましたが、現在はニッチなコンテンツが増えてきています。多くの場合、スタートアップ企業は最初からマスマーケットに向けてアピールする余裕はありませんから、これはスタートアップにとっては良いことです。しかし成長するにともない、そのナラティブも進化しなければならないかもしれません。また、ブランドナラティブと戦略的ナラティブが同時に存在することもありますが、後者は時間とともに進化していくものです。

ストーリーという意味では、Twitterのスレッドで紹介したものの中には、時代を超えて通用するものもありますが、永遠には通用しないものもあるでしょう。例えば力の弱いものが力の強いものを打ち倒す「ダビデとゴリアテ」のストーリーは、スタートアップがある程度のステージに達すると現実味がなくなります。また別の例としては「人々のために立ち上がる」と言って銀行の手数料を破壊することに注力していたWise(ワイズ)は、自分自身の首を締めることとなりつつあり、そのナラティブを変えなければならないかもしれなくなっています。当初のナラティブから離れなくてもいい企業もあれば、離れなければならない企業もあるのです。

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カテゴリー:その他
タグ:インタビューマーケティング

画像クレジット:Peep Laja

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(文:Anna Heim、翻訳:sako)