【コラム】テックコミュニティにおけるメンタルヘルスの偏見をなくすために

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【コラム】パンデミックによる米国の労働力不足はAIニーズを呼び起こす大きなチャンスとなるのか?

編集部注:本稿の著者Nigel Morris(ナイジェル・モリス)氏はQED Investorsの共同ファウンダーでマネージングパートナー。

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アントレプレナーシップ(起業家精神)への道のりは決して容易ではない。そのプロセスは、ストレスが多く、とてつもない規模の精力的行動、リスクテイク、そして不確実性の中で前進していくことが求められる。犠牲は計り知れないものがあり、時には精神面における健康を代償にすることもある。

創業者たちは、リソースが不足していて、過度にコミットしている状況に陥ることも多い。夢を追い求めることは心躍る魅力的な体験である一方、従業員、投資家、顧客に対する責任の重さに圧倒されることもあるだろう。

この問題をさらに複雑にしているのは、多くの創業者たちが「失敗者」と見なされたり、仕事をする能力がないと思われたりすることを恐れて、最も近しい人たちに自分がどのように感じているかを明らかにしたがらないことだ。会社経営にともなう要求事項や重圧のために、創業者が依存症や薬物乱用に苦しんでしまうことを少しの間想像してみて欲しい。そして、投資家にそうした状況を明らかにしなければならないことにより、その心配と不安が一層増してしまうことを考えてみよう。

精神科医で、カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部の教授を務め、CEO職の経験を持つMichael Freeman(マイケル・フリーマン)氏は、起業家の間の、心の健康状態に関する罹患率と特性について調査を行った。

創業者は、人口統計的に適合した比較対象と比べて、うつ病にかかる可能性が2倍、ADHD(注意欠陥多動性障害)を患う可能性が6倍、薬物乱用に陥る可能性が3倍、自殺念慮に至る可能性が2倍高くなっている。

創業者は、人口統計的に適合した比較対象と比べて、うつ病にかかる可能性が2倍、ADHD(注意欠陥多動性障害)を患う可能性が6倍、薬物乱用に陥る可能性が3倍、自殺念慮に至る可能性が2倍高くなっているとフリーマン氏は結論づけている。起業家はメンタルヘルスの問題を抱えている可能性が50%高くなっており、創業者の間で驚くほど蔓延している特定の状況があることが、同氏の調査で明らかになった。

この統計には目を見張るものがあるが、実際に目に見えるインパクトは、真に衝撃的なものになる可能性がある。

私は、腕や肩に痛みがあるときには、仕事に出向いてそのことについて弱音を漏らすこともある。しかし、昨晩眠れなかったり、外出を不安に感じたり、あるいは睡眠薬を飲みすぎたり、ワインを飲みすぎたりした場合には、その話題に触れることはないだろう。

かかりつけの医者に肩を治療してもらうつもりだと伝えることはあっても、セラピストに相談するつもりであることは口にしないと思う。

QED Investorsでは、この沈黙がもたらした悲惨な結果を目の当たりにしている。私たちは2018年、パートナーのGreg Mazanec(グレッグ・マザネック)氏を失った。薬物乱用との長い闘いの末のことだった。それ以来、私たちはグレッグの家族と協力して、VCやスタートアップの世界にいる人々が同じ運命をたどるのを防ぐために、どのように自分たちの役割を果たせるかを検討してきた。

個人的な友人としても、また同僚としても、グレッグについて十分に語り尽くすことはできない。彼は、自らを通してすばらしい人間を定義づけているような人物だった。直交性のある思想家で、粘り強く、聡明で、斬新さを兼ね備えていた。私たちは彼をあまりにも早く失った。今もなお、私たちは彼の存在を傍らに置いている。

その当時の当社のチーム構成は15人だったことから、お互いがどれだけ親密であったかを想像していただけると思う。私は、機会があればいつでも彼の話をしようと、自分自身、そして彼の家族に誓った。だから、LPやポートフォリオ企業の前に出るたびに、この問題を表に出して、この腐食性を帯びたスティグマと正面から向き合うことにしている。

心の健康に関する議論を影の外に持ち出すことで、結果の軌道を大きく変えることができる。ベンチャーキャピタルの世界には、新型コロナウイルスのパンデミックが人々の不安や心配を増幅させる前から、このような困難を経験している人がたくさん存在する。人々は孤立感、抑うつ、不安、無力感を募らせており、オピオイドやその他の形式の依存症、または薬物の乱用に向かってしまった人もいる。

友人、仲間、同僚からの支援は、心の病を克服する上で極めて重要だ。企業がオフィス勤務を再開、あるいは自宅とオフィスのハイブリッド勤務を導入し始める中、経営陣は、自社の文化に再び焦点を当て、依存症に対する偏見を取り除き、メンタルヘルスを優先事項にする真の機会を手中にしている。それは、この問題に重点を置くためのまたとない好機である。

マザネック家は、グレッグのような創業者や起業家のコミュニティにとって最も大切なエコシステムにおける、薬物乱用や依存症の問題に取り組む目的で、Operation Lighthouseを設立した。このすばらしいイニシアティブを強力に支援することは、当社QEDにとって極めて自然な決断だった。

2021年の初めに、QEDはポートフォリオ企業3社とともに、Just Fiveと呼ばれるプログラムを試験的に導入した。Just Fiveは、全国的なメンタルヘルス非営利団体であるShatterproofによって作成されたもので、依存症に関する重要な概念と事実について、1レッスンにつき5分程度で伝えている。

そして、QEDの米国拠点のポートフォリオ企業50社すべての1万6千人を超える従業員に、同じ自己学習型の匿名制教育プログラムを無料で提供するに至り、大変喜ばしく思っている。

このプログラムは、メンタルヘルス教育を提供し、情報に基づく議論を促進することで、最終的にスティグマを低減することを目的としている。

2021年中にこのプログラムの対象を、海外のポートフォリオ企業や、創業者を支援したいと考えているその他のVCにも拡大していく意向である。スペイン語版はすでに計画段階に入っている。

レッスンは6つあり、それぞれにテーマが設定されている。最初の2つのレッスンでは、依存症の科学について触れ、初めて使用した年齢や、遺伝学、環境などの特定の要因によって、なぜ一部の人が依存症になり、他の人はそうならないのかについて説明する。

中間のレッスンでは、オピオイドの有害性、および薬物乱用の徴候、症状、治療の選択肢について説明し、最後の方のトピックでは、人々がどのように手助けできるかについて触れていく。私たちがこれまでに受け取った圧倒的にポジティブなフィードバックの大部分は、最後の2つのレッスンに集中している。私たちは、逸話的にすでに把握していたことから、大切なことを学び取った。人々は助けを求めているが、最も助けを必要としている人々は、助けを求める方法を常に知っているわけではないということを。

私はここ数年、メンタルヘルスについてあらゆる機会をとらえて議論してきた。心の健康に対する偏見を取り除くことで、人々はそれに対処できると心から確信している。これは解決可能な問題である。肩の痛みと同じように、治すことができるのだ。人々が最初の一歩を踏み出し、それについてオープンに話すことができる文化を作ることにおいて、より良い仕事をしなければならないと、私たちは強く感じている。

変化を起こすことはできるし、そうしなければならない。あなたの発する声を、私の声につなげて欲しい。

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カテゴリー:その他
タグ:コラムメンタルヘルス健康アメリカ

画像クレジット:olaser / Getty Images

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(文:Nigel Morris、翻訳:Dragonfly)