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スペインのInternxtは「分散型ストレージのCoinbase」を目指して約1.1億円を調達する

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バレンシアを拠点とするスタートアップInternxt(インターネクスト)は、インターネットに接続している人なら誰でも大容量のアクセスが可能な分散型クラウドストレージを実現するという意欲的な計画を静かに続けている。

Internxtは、Juan Roig(フアン・ロイグ氏、スペインで最も賑わうスーパーマーケットチェーンの経営者であり2番目の億万長者)が所有するヨーロッパのVCファンドAngels Capital(エンジェルズキャピタル)と、マイアミに拠点を置くVenture City(ベンチャーシティ)を中心に、100万ドル(約1億1000万円)のシード資金を調達した。同社はこれまで、初期の開発資金として、トークンセールで約50万ドル(約5500万円)を調達していた。

このシード資金は、次の成長段階に向けて投入される。同社の前月比成長率は30%で、少なくともそれを維持できる自信があるとし、また、製品開発を加速させるために、大幅な人員の増強も計画している。

このスペインのスタートアップは、その短い歴史のほとんどを分散型インフラの開発に費やしてきたが、同社はそのインフラを、Google(グーグル)をはじめとする大手テック企業が提供する、主流のクラウドベースのアプリケーションよりも本質的に安全でプライベートなものだと主張している。

これは、データへの不正なアクセスを防ぐためにファイルが暗号化されているだけでなく、情報が高度に分散化されて保存されているためだ。小さなシャードに分割された情報は、複数のロケーションのストレージに分散されるが、そのストレージスペースはネットワーク上の他のユーザーから提供されるものだ(そして、そのスペースに対する報酬は、予想に違わず暗号資産で支払われる)。

創業者でもあるCEOのFran Villalba Segarra(フラン・ヴィラルバ・セガラ)氏は「これは分散型アーキテクチャであり、世界中にサーバーがある」という。そして「このアーキテクチャは、企業や個人が提供するストレージスペースを活用している。当社のインフラに接続したストレージ提供者は、データシャードをホストし、当社は提供者がホストするデータに対する報酬を支払う。これは、従来のアーキテクチャのようにデータセンターを借りて固定のストレージ料金を支払うという方法ではないため、より手頃な価格でサービスを提供できる」と語る。

そして「これは、Airbnb(エアビーアンドビー)やUber(ウーバー)と同じようなモデルであり、ストレージを大衆化したものだ」と付け加える。

Internxtは、2017年から3年間の研究開発を経て、1年前に最初のクラウドベースのファイルストレージアプリ「Drive(ドライブ)」を公開し、そして今回、Googleフォトのライバルとなる「Photos(フォト)」を発表した。

ヴィラルバ・セガラ氏によると、これまでのところ、マーケティングには重点を置いていないものの、約100万人のアクティブユーザーを集めているという。

Internxt Mailは、次にリリースを控える製品で、GoogleのフリーミアムウェブメールクライアントであるGメールや、そのGmailにプライバシー保護で勝ることを謳うProtonMail(プロトンメール)に対抗するためのものだ(同社に勝算がある理由については後述する)。

また、Internxt Send(ファイル転送アプリ)も近々発表される予定だ。

「Google Workspaceに置き換わる製品を開発しており、Googleとの競争ではGoogleと同じレベルになるように取り組んでいる」と同氏はいう。

1つの場所にしか保存されていないファイルは、他の人からアクセスされるという脆弱性がある。Internxtのアーキテクチャは、その問題を解決しようとしている。それがストレージプロバイダー自身であろうと(Googleのように、ユーザーのデータをデータマイニングすることでプライバシーを侵害するビジネスモデルかもしれない)、またはプロバイダーのセキュリティを突破しようとするハッカーや第三者であろうと、結果として、ユーザーのファイルを盗み見たり改ざんしたりするなど、不正なアクセスを許すことになる。

ネットワークが不正アクセスされた場合のセキュリティリスクには、ここ数年増加傾向にあるランサムウェア攻撃などがある。これは、ネットワークに侵入した攻撃者が、保存されているファイルの正当な所有者のアクセスを遮断し、情報を身代金として要求するものだ(通常、攻撃者独自の暗号化レイヤーを適用し、データを解除する代わりに支払いを要求する)。

Internxtは、サーバーやハードドライブにまとまって保存されているファイルは、格好の標的になるという考えに基づき、分散化を推進している。

この問題に対するInternxtの答えは、ゼロ知識暗号化と分散化を組み合わせた新しいファイルストレージインフラだ。つまり、ファイルを複数のセグメントに分割して複数のストレージに分散し、さらにミラーリングすることにより、ストレージの故障やハッキング攻撃、スヌープに対して高い耐性を実現する。

このアプローチは、クラウドサービスプロバイダーによるプライバシー侵害に対する懸念を低減する。というのも、Internxt自身さえもユーザーデータにアクセスできないからだ。

Internxtのビジネスモデルはシンプルで、段階的なサブスクリプションだ。既存および計画中のすべてのサービスをカバーする(現在は)1つのプランを提供し、必要なデータ量に応じていくつかのサブスクリプション料金を設定している(つまりこれも、無料の10GBから始まるフリーミアムだ)。

インターネットにおけるコアアーキテクチャを見直すことがユーザーにとって重要であると考えたのは、もちろんInternxtが初めてではない。

スコットランドのMaidSafe(メイドセーフ)は、10年以上も前から分散型インターネットの構築に取り組んでおり、10年間のテストを経て、2016年に初めてSafe Network(セーフネットワーク)と呼ばれる代替ネットワークのアルファテストを開始した。同社のインターネットを再発明するという長期的なミッションは今も続いている。

分散型クラウドストレージの分野におけるもう1つの(まだベテランとはいえない)競合企業は、企業ユーザーをターゲットにしているStorj(ストージ)だ。また、Filecoin(ファイルコイン)Sia(シア)も挙げられる。両社は、Bitcoin(ビットコイン)が暗号資産やブロックチェーン・分散化に対する起業家の関心に火をつけた後に生まれた、ブロックチェーン関連スタートアップの新しい波の一旦を担っている。

関連記事:クラウド上の余剰容量を活用する、分散ストレージサービス運営のStorjがエンタープライズに進出

では、Internxtのアプローチは、この複雑な最先端技術に長く取り組む、これらの分散型ストレージのライバル企業とはどのように違うのだろうか。

ヴィラルバ・セガラ氏は「欧州を拠点とするスタートアップで分散型ストレージに取り組んでいるのは当社だけだ(欧州連合ではない英国のメイドセーフを除いて)」とし「Storj、Sia、Filecoinなど……知る限りでは、他の企業はすべて米国を拠点としている」と、データ保護やプライバシーに関する欧州連合の法体系が米国の競合他社に対して優位に働いていると主張する。

同氏が挙げるもう1つの大きな差別化の要因は、ユーザビリティだ。前述の競合他社のサービスは「開発者が開発者のために作った」ものだと指摘する。一方、Internxtの目標は「分散型ストレージのCoinbase(コインベース)」に相当するものだという。つまり、非常に複雑なテクノロジーを、専門知識のないインターネットユーザーでも容易に使えるようにすることだ。

「ブロックチェーンの分野は、計り知れない可能性を秘めているにもかかわらず、非常に大規模なテクノロジーであるため、使用するのが非常に難しいという状況がよく見られる」と同氏はTechCrunchに語る。「本質的にコインベースがやろうとしていることは、より簡単に暗号資産に投資できるように、より使いやすいブロックチェーンをユーザーに提供することだ。だから、Internxtでも同じように、クラウドストレージのブロックチェーンを人々に届けようとしている。とてもわかりやすいインターフェイスで使いやすくすることなどだ」。

「分散型クラウドの分野では、事実上唯一の利用可能なサービスであり、それがStorjなど他社との大きな差別化要因となっている」。

「インフラの面では、SiaやStorjとよく似ている」と同氏は続ける。さらに、Proton Drive(プロトンドライブ。エンド・ツー・エンドの暗号化メールサービスであるプロトンメールのメーカーが提供するファイルストレージサービス)の「ゼロアクセス」暗号化アーキテクチャになぞらえ、Internxtの「ゼロ知識」暗号化も、クライアント側で暗号化されており、サービスプロバイダーがユーザーの情報を盗み見ることができないことを技術的に保証しているという(だから、プライバシーを侵害しないと会社を信じる以上の安心が得られるということだ)。

Internxtのゼロ知識暗号化は、既成のAES-256暗号を使用しているようだが、同社はスペインの大手サイバーセキュリティ企業S2 Grupo(エスツー・グルーポ)の監査を受けた「ミリタリーグレード」であり、クライアントサイドで暗号化を行い、オープンソース暗号を使用しているという。また、それに加え、暗号化されたデータを分散化するというステップも踏んでいる。そのため、セキュリティ面で付加的なメリットがあると、ヴィラルバ・セガラ氏はいう。

「暗号化に加え、データを断片化し、世界中に分散させている。つまり、基本的にサーバーがホストしているのは、暗号化されたデータシャードであり、たとえハッカーがそのようなサーバーにアクセスしても、そこにあるのは根本的に意味を成さない暗号化されたデータシャードであるため、さらに安全だ。当社でさえ、そのデータにはアクセスできない」。

「これにより、ハッカーや第三者によるデータアクセスに対するセキュリティが格段に向上した。そしてその上で、非常に優れたユーザーインターフェイスを構築している。これはユーザーが使い慣れたGoogleとほとんど同じインターフェイスであり、その点でもStorjやSiaとは大きな違いを生んでいる」と同氏は述べる。

Internxtのユーザーファイルを保存するストレージスペースは、ストレージスペースが余っているユーザーから提供されるものだ。ストレージスペースを提供しデータシャードをホストするユーザーには、暗号資産のマイクロペイメントでインセンティブが与えられる。つまり、単にノートパソコンでInternxtに接続している個人ユーザーからも、大量の未使用ストレージ容量を持つデータセンター企業からもストレージスペースが提供される可能性があるということだ(ヴィラルバ・セガラ氏によると、OVH[オー・ヴィ・エイチ]など、いくつかのデータセンター企業が同社のネットワークに接続しているという)。

「当社は(ストレージを確保するための)直接的な契約はしていない。誰でもInternxtのネットワークに接続することができる。つまり、提供可能なストレージ容量を持つデータセンターは、Internxtのネットワークに接続すれば、報酬を得られる。当社は、従来の方法でデータセンターにストレージ料金を支払うことに比べれば、それほど多くの料金を支払うことはない」と同氏はいい、このアプローチを、ホストとゲストの両方を持つAirbnbや、ドライバーとライダーを必要とするUberに例えている。

「当社はユーザーとデータセンターをつなぐプラットフォームだが、当社自体がデータをホストすることはない」。

Internxtでは、ネットワークのアップタイムとサービスの質を確保するために、レピュテーションシステムを使ってストレージプロバイダーを管理している。また、ブロックチェーンの「プルーフ・オブ・ワーク」チャレンジを適用して、ノードオペレーターがクレームするデータを実際に保存していることを確認している。

同氏は「分散型アーキテクチャの特性上、一定の信頼性を確保する必要がある」とし「そのため、ブロックチェーンテクノロジーを利用する。自社のデータセンターにデータを保管する場合は、信頼性を確保するという点では簡単だ。しかし、分散型アーキテクチャにデータを保存する場合は、プライバシーの保護や価格の安さなど多くのメリットがあるものの、データを実際に保存しているかどうかの確認が必要であるなど、デメリットもある」と述べる。

ストレージスペースの提供者への支払いもブロックチェーンテクノロジーによって行われる。ヴィラルバ・セガラ氏によると、世界中の約1万人に及ぶノードオペレーターに対して、大規模なマイクロペイメントを自動化するには、ブロックチェーン技術が唯一の方法だという。

ブロックチェーンの基盤となるテクノロジー「プルーフ・オブ・ワーク」は、計算にともなうエネルギー消費の問題を指摘されている。同氏は、エネルギーコストの問題について、Internxtの分散型アーキテクチャが、データセンターによる従来のアーキテクチャよりもエネルギー効率が高いことを示唆している。これは、データシャードがアクセスをリクエストしたユーザーの近くに配置される可能性が高いためであり、パケットを取得するために必要なエネルギーは、常に世界の数カ所に集中しているデータセンターから取得するのに比べて低減される。

「エネルギー消費の観点から見ると、Internxtは、従来のクラウドストレージサービスよりもはるかにエネルギー効率が高いことがわかった。なぜか?考えてみて欲しい。Internxtでは、ファイルをミラーリングし世界中に保存している。Dropboxなど特定の場所から送信されたファイルにアクセスすることは、実際には不可能だ。基本的に、DropboxやGoogleドライブにアクセスしてファイルをダウンロードする場合、テキサス州などにあるデータセンターから送信される。そのため、データ転送には膨大なエネルギーが消費されるが、人々はそれについて考えていない」と同氏は主張する。

「データセンターのエネルギー消費量は、記憶が正しければすでに全世界のエネルギー消費量の2%*に達している。そのため、レイテンシーが利用可能で、ユーザーの近くからファイルを送ることができれば、ファイル転送はより速くなり、その結果はすべて当社のレピュテーションシステムに反映される。したがって、Internxtのアルゴリズムは、ユーザーに近いファイルを送ることで、多くのエネルギーを節約することができる。これを数百万人のユーザーと数百万テラバイトの単位で計算すると、実際にはかなりのエネルギー消費と当社のコストを削減できることになる」。

では、ユーザーから見たレイテンシーはどうだろうか。Internxtへのファイルのアップロードや、保存されているファイルのダウンロードのため、ユーザーがアクセスする際、Googleドライブなどと比べて顕著な遅延はあるのだろうか。

ヴィラルバ・セガラ氏によると、断片化されたファイルをユーザーの近くに保存することで、遅延を補うことができるという。しかし、主流のクラウドストレージサービスと比較して、若干の速度差があることも認めている。

「アップロードとダウンロードのスピードについては、GoogleドライブやDropboxにほぼ匹敵する」と同氏はいい「また、そういった企業は10年以上の歴史があり、サービスは非常に最適化されている。加えて従来型のクラウドアーキテクチャを採用しており、比較的シンプルで構築しやすく、何千人もの従業員を抱えているため、スピードなどの面では明らかに当社のサービスよりもはるかに優れている。しかし、当社は主流のストレージサービスに追いつきつつあり、Internxtのスピードをそのレベルに引き上げるとともに、当社のアーキテクチャとサービスにできるだけ多くの機能を組み入れることを目指して、全力で取り組んでいる」と述べる。

「基本的には、使いやすさという点ではプロトンドライブやTresorit(トレソリット)のレベルにあると考えている」とし、遅延について「Googleドライブに非常に近づいている。しかし、平均的なユーザーにとってはそれほど大きな違いはないはずだ。そしてすでに述べたように、当社のサービスを文字通りGoogleと同じように利用できるようにするため、できる限りの努力をしている。しかし、InternxtがStorj、Sia、メイドセーフの何年も先を行っていることは確かだ」と述べる。

Internxtは現在、わずか20人のチームでこのような複雑なネットワークを構築している。しかし、新たなシード資金を手にしたことから、今後数カ月の間に雇用を拡大することで、製品開発を加速させ、成長を維持し、競争力を高めていくことを計画している。

「シリーズAを実施する頃には、Internxtの従業員は約100人になっているはずだ」とヴィラルバ・セガラ氏はいう。そして、次のように続ける。「シリーズAの準備はすでに進めている。シードラウンドを終了したばかりだが、成長の速さから、米国やロンドンの有力なVCファンドから声がかかっている」。

「かなり大きなシリーズAになるだろう。スペインで最大のシリーズAになるかもしれない。シリーズAまで、これまでの成長率である前月比30%以上の成長を計画している」。

同氏はまた、シリーズAでは5000万ドル(約55億円)の評価額での資金調達を目指すとTechCrunchに語る。

「まさにシードラウンドを終えたばかりのため1年後に行う予定だったが、多くのVCから声をかけてもらっているので、年内に実施することになるかもしれない」といい「しかし、時間は問題ではない。最も重要なことは、目標とする最低評価額を達成できるかどうかだ」と語った。

注記:IEA(イー・アイ・エー)によると、2019年の世界の電力消費量のうち、データセンターとデータ伝送ネットワークは、それぞれ約1%を占める。

画像クレジット:Internxt

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)