解決策ではなく方向性を示すビル・ゲイツ、書評「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」

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Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏は、ビジネスでの人生において多くの問題を解決してきたが、ここ数十年は、世界の貧困層の窮状と特にその健康問題に献身的に取り組んできた。財団の活動や慈善事業を通じて、同氏はマラリアや対策が進まない熱帯病、妊産婦の健康などの問題を解決するために世界を巡っているが、常に斬新で、多くの場合安価な解決策に目を向けている。

その工学的な頭脳と思考法を気候変動に注いだ著書が「How to Avoid a Climate Disaster:The Solutions We Have and the Breakthroughs We Need(日本語版:地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる)」だ(原書表紙に斜体で書かれているように、本当に必要『We Need』なのだ)。ゲイツ氏はこの本で、ソフトウェアの巨星からグローバルヘルスの魔術師、そして気候変動に関心を持つ市民へと進化していく過程について触れている。対策が進まない熱帯病などの課題に注目すると、気候変動は蚊などの感染媒介生物の蔓延に大きく影響していることがわかる。発展途上国の食糧安全保障を考える上で、気候変動問題を無視することはできない。

画像クレジット:Alfred A. Knopf/Penguin Random House

ゲイツ氏は、このような書き出しで、気候変動の懐疑論者らとのつながりを持とうとしているのではないだろう(どちらにしても、気候のよい時に彼らとつながりを持つのは難しい)。しかし同氏は代わりに、懐疑的だが再考の可能性のある人たちとの橋渡しをしようとしている。ゲイツ氏は、気候変動の影響を目の当たりにするまでは、この問題についてあまり考えていなかったことを認めており、同様に知的な旅をする準備ができている幾人かの読者を迎え入れたいと考えている。

その上でゲイツ氏は、温室効果ガスの主な構成要素と、年間510億トンのCO2換算排出量を削減して実質ゼロを達成する方法について、極めて冷静な(ドライともいえる)分析を行っている。その内訳は、エネルギー生産(27%)、製造業(31%)、農業(19%)、輸送(16%)、空調(7%)の順になっている。

ゲイツ氏はエンジニアであり、それが表れているところがすばらしい。同氏はこの本の中で、規模を理解すること、そして報道で耳にする数字や単位を常に解きほぐし、あるイノベーションが何か変化を生み出せるかどうかを実際に理解することを非常に重視している。ゲイツ氏は、航空プログラムで「1700万トン」のCO2を削減するという例を挙げているが、同時にこの数字は世界の排出量の0.03%にすぎず、今以上に規模が拡大するとはいえないと指摘する。これは、生活の質において、最小のコストで最大の検証可能な向上をもたらすプロジェクトに慈善資金を投入すべきという効果的な利他主義の考え方を取り入れたものだ。

もちろん、ゲイツ氏は資本主義者であり、同氏の判断の枠組みは、考え得る各解決策の適用に要する「グリーンプレミアム」を計算することにある。例えば、カーボンフリーのセメント製造プロセスは、カーボンを排出する通常のプロセスの2倍のコストがかかるとしよう。これらの追加コストと、その代替策が実際に削減する温室効果ガスの排出量を比較すれば、気候変動を解決するための最も効率的な方法がすぐにわかるのだ。

同氏が導き出す答えは、最終的に非常に応用性の高いものになる傾向がある。すべてを電化し、発電を脱炭素化し、残留物から炭素回収し、より効率的にする。難しいと思うかもしれないが、実際その通りだ。ゲイツ氏は「This Will Be Hard(道は険しい)」という的を射た名の章でその課題を指摘し、その章は「この章のタイトルでがっかりしないでください」という一文で始まる。それを理解するためにこの本を買うまでもないだろう。

ゲイツ氏は結局、この本の中では終始、保守的な姿勢を通している。それは、単に現状を維持するという同氏の一般的なアプローチではない。それは、本質的に私たちの生活様式に対する代替可能な微調整であり解決策の中に明らかに潜んでいる。メッセンジャーであるとすれば驚くべきことではない。また、これらの問題を解決するためのテクノロジーの力に対する同氏の見解も、驚くほど保守的だ。クリーンエネルギーをはじめとする環境保全技術に文字通り何十億もの投資をしてきた人物にしては、ゲイツ氏が提案する魔法は驚くほど少ない。現実的ではあるだろうが、同氏の実績を考えると悲観的にも感じられる。

この気候変動に関する考察を記したいくつかの本と合わせて読むと、ゲイツ氏にはある種の計算されたナイーブさを感じずにはいられない。つまり、もう少しカードを出し続けて、ギリギリまでロイヤルフラッシュが出るかどうかを見るべきだという感覚だ。解決策の兆しはあるものの、その多くは実用的な規模には至っていない。すでに利用可能な技術もあるが、実際に排出量に対する効果を発揮するには、自動車や家庭、企業などを改修するために莫大な費用が必要になる。また、欧米以外の国々には、近代的な設備を利用する資格がある。簡単なことではあるが、手が届かないのだ。

この本の長所であり、同時に短所でもあるのは、政治色がなく、事実に基づいて書かれているため、熱狂的な気候変動懐疑論者を除くすべての人を対象としていることだ。しかし、この本は一種のゲートウェイドラッグのような役割も果たしている。問題の規模、解決策の範囲、グリーンプレミアムや政策実施の課題を理解すると「いずれにしても今後数年でできるはずがない。だから何がいいたいのか」という気持ちになる。

ゲイツ氏はこの本を「私たちは、2050年までに温室効果ガスをなくす道筋をつけるためのテクノロジー、政策、市場構造へ注力することに、今後10年間を費やすべきだ」と締めくくっている。同氏のいっていることは間違ってはいないが、これはエバーグリーンが長く続かないであろう世界で発したエバーグリーンなコメントでもある。

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画像クレジット:Michael Cohen / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)