【コラム】アクセシビリティを最初からスタートアップのプロダクトと文化の一部にする

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アクセシビリティの世界は転換点を迎えている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で、あらゆる能力・特性の人々がタスクやショッピングをオンラインでするようになったからだ。

この1年間、企業が顧客とつながることのできる場所はデジタルの世界だけだった。Forresterの調査によれば、8割の企業がデジタルのアクセシビリティへの第一歩を踏み出している。

こうした変化が進む背景には、デジタルでのやりとりが増えていること以外に何があるのだろうか。Fortune 500の企業は、障がいのある人が世界の市場に10億人いることをついに認識し始めている。調査会社Return on Disabilityの「The Global Economics of Disability」によると、障がいのある人とその家族の可処分所得は13兆ドル(約1427兆4000億円)を超えるという。

ただしForresterの調査対象の企業のうち、アクセシブルなデジタルエクスペリエンスを構築することに完全にコミットしているのはわずか36%だ。

デジタルのアクセシビリティは何十年も前からあるが、企業は最近までその利点をとらえていなかった。最新の調査では、WebAIM Millionが100万のホームページを分析したところ、評価したウェブサイトの97.4%にアクセシビリティのエラーが見つかった。

このことはスタートアップを手がけるあなたにとってどんな意味があるだろうか?なぜあなたはこのことに関心を持つべきなのだろうか?それは、あなたの会社が競合よりも先行しアーリーアダプターであることの報酬を得るチャンスだからだ。

デジタルのアクセシビリティにはどんな利点があるか

正しく行動することからさらに先へ進んでアクセシブルなプロダクトや資産を作ることの利点に、企業は気づきつつある。まず、人々の寿命が伸びている。世界保健機関(WHO)によると、60歳以上の人口は5歳未満の子どもの人口を上回っている。しかも世界の60歳以上の人口は、2015年の9億人から2050年には20億人に達すると予測されている。

W3C Web Accessibility Initiativeでは高齢者向けのウェブアクセシビリティについて概要を示し、以下のように紹介している。

  • 61〜80歳の47%に聴覚の問題が発生する
  • 65〜74歳の16%は視覚が低下する
  • 70歳以上の20%に軽度な認知機能障害が発生する
  • 65歳以上の50%以上に関節炎が発生する

つまり、アクセシブルなデジタルプロダクトを作れば、ずっと幅広い対象者にリーチできる。対象者にはあなた自身や同僚、家族もいずれ含まれるだろう。誰もが生活のある時点において、状況によって、あるいは一時的だったり散発的に、機能が低下する状態になる。暗いところやうるさい場所へ行けば見たり聞いたりしづらくなる。ケガや病気で一時的にインターネットの使い方が変わることもある。関節炎、偏頭痛、めまいで痛みや不快感を感じ、デジタルデバイスやアプリ、ツールを操作する能力に影響することもある。

しかも、より多くの人に適したアクセシブルなプロダクトやウェブサイトを作ることを否定する人はいない。それにもかかわらず、アクセシビリティを備えることが原則であるという比較的普遍性のある発言をしても、簡単にそのニーズを説明し組織の大きな変革に周囲を巻き込めるわけではない。こうした変革が必要な理由とその進め方について、周囲の人々の認識を高め教育をするためにすべきことはたくさんある。

あなたには変革する理由がある。あなたの会社を変え、アクセシビリティを事業の重要な部分として統合するのに役立つヒントを5つお伝えしよう。

1. アクセシブルなエクスペリエンスの構築に適した人に参加してもらう

毎年発行される「State of Accessibility Report」の2回目のレポートによると、Alexa Top 100のウェブサイトのうち完全にアクセシブルなのものはわずか40%だ。ウェブエクスペリエンスを構築する際に、障がいのある人のニーズはしばしば見過ごされている。

設計する際に、障がいのある人はあなたのプロダクトやウェブ資産をどう使うかを理解することが重要だ。障がいのある人が目的の結果を得るにはどういうツールがあればいいのかも知りたいはずだ。これらは、適任者に参加してもらうことから始まる。

アクセシビリティの専門家に依頼して開発チームに助言をしてもらうことで、早い段階で潜在的な問題を特定し、デザインのアクセシビリティを最初から考慮し、より良いプロダクトを作ることができる。さらに障がい者を雇用すればプロダクトについてより深く理解できる。

2. アクセシビリティに情熱を持つデザイナーを雇用する

チームに助言や指導をするアクセシビリティの専門家に依頼するのは、スタートとしては良い。しかしアクセシビリティに熱心でない人がチームにいると、それが妨げとなってしまう恐れがある。新しく雇うデザイナーと面接をする際に、アクセシビリティについて質問してみよう。そうすればアクセシビリティに関する候補者の知識と情熱を測ることができるだろう。同時に、あなたの会社ではアクセシビリティを重視していると期待値を設定する。

採用の段階で検討し、新たに雇用した人がアクセシビリティとインクルージョンの文化に貢献できるようにすれば、大きな頭痛の種を減らせる。アクセシビリティは設計とUXの段階から始まる。チームがその段階で導入していなければ後から修正する必要があり、どうしてもプロジェクトは遅れて企業としてはコストを要する。最初からアクセシブルに作るよりも、後から修正する方がコストがかかる。

3. すべての人のためのアクセシビリティであることを忘れない

アクセシビリティに投資するかどうかを決める人は、どれぐらいの人がこの機能を使うのだろうかと考えがちだ。こうした疑問が出てくるのは、ビジネスの観点からすれば理解できる。アクセシビリティにはお金がかかることがあり、お金の使い方に責任を持ちたいと考えるのは当然のことだ。

しかしこの疑問はアクセシビリティにおける最大の誤解に基づいている。その誤解とは、アクセシビリティは視覚や聴覚に障がいがある人にのみメリットがあるというものだ。このように思われていることには、本当にがっかりする。障がいのある人の数をあまりにも過小評価しているし、社会における障がい者のあり方を最小化しているからだ。しかもアクセシビリティ機能は障がいがない人にとっても大いにメリットがあることが見落とされている。

障がいの程度はさまざまで、私たち誰もが遅かれ早かれ何らかの障がいを自覚する。ケガをして一時的に動きが制限され、銀行の用事や買い物といった基本的なタスクがオンラインでしかできないこともあるだろう。年齢とともに視覚や聴覚も変化し、オンラインを使う能力に影響を及ぼす。

アクセシビリティとはできるだけ多くの人を対象とする設計だということを理解すれば、投資する価値があるかどうかに関する議論の枠組みを変えることができる。このアプローチは明確なメッセージの発信となる。急速に増える母集団を無視する余裕のある企業はない、というメッセージだ。

こんなふうに考えてみよう。エレベーターか階段のどちらかを使うとしたら、あなたはどちらを使うだろうか。多くの人がエレベーターを使う。交差点では歩道のへりから車道にかけてスロープになっていて「カーブカット」と呼ばれている。あのスロープはもともと、車椅子で交差点を横断できるように作られたものだ。

しかし多くの人がこのスロープを使っている。ベビーカーを押す保護者、スーツケースを転がす旅行者、スケートボーダー、台車で荷物を運ぶ人。もともとアクセシビリティのために設計されたものが、当初のターゲットよりもずっと幅広い人たちの役に立っている。これがカーブカット効果だ。

4. デフォルトでアクセシブルな開発をしているエージェンシーを選ぶ

小規模のチームだったり社内でアクセシビリティの実践を拡大したりしている場合でも、エージェンシーの協力を求めるとアクセシビリティの実践を効果的に取り入れられることがある。連携を成功させるための秘訣は、アクセシビリティの実践に向けてあなたのチームの成長を支援するエージェンシーを選ぶことだ。

適切なエージェンシーを見つけるには、デフォルトでアクセシブルな開発をしているところを選ぶことが重要だ。あなたの会社の価値観を共有するエージェンシーと連携すれば、アクセシビリティを向上させるミッションにおける信頼できるパートナーとなる。当てずっぽうで進めたり、やり直したりすることもなくなる。障がいのあるユーザーのエクスペリエンスの成否を左右する細部を見落としてしまうデザイナーが多いので、こうした連携には大きな意味がある。

アクセシブルなエクスペリエンスの提供を得意とするエージェンシーと連携すれば、気づかずに放置してしまうエラーの減少につながり、オーディエンス全体に対して優れたエクスペリエンスを提供していると自信を持てる。

5. サプライチェーンにアクセシビリティを統合する

大企業や大きな組織では多くのステークホルダーが関わることがよくある。ベンダーからエージェンシー、フリーランス、社内スタッフなど、現在のビジネスは広範囲にわたり共同作業が多いものだ。このことはアイデアを交換する上では有用だが、関係者が多いためアクセシビリティは見失われがちになってしまう。

見失われてしまうことを避けるには、ビジネスの全段階でアクセシビリティに注目するサプライチェーンとして関係者の意識を合わせることが重要だ。全員が十分に関与すれば、アクセシブルでなく将来的に問題を引き起こしてしまうコンポーネントのリスクを避けられる。

スタートアップの強み

繰り返し発生する大きな課題は、現状を変える難しさだ。アクセシブルでないプロセスやプロダクトがいったん発生して組織の文化に根づいてしまうと、意味のある変化を起こすのは難しい。変化させたいと全員が思っているとしても、それまでのビジネスのやり方を変えるのは決して簡単ではない。

スタートアップの強みはここだ。スタートアップはアクセシブルでない荷物を長年背負っているわけではない。スタートアップのプロダクトにアクセシブルでないコードは書かれていない。アクセシブルでないことは、企業の文化に織り込まれていない。いろいろな意味でスタートアップは白紙であり、既存の同業者が試行してきたことから学ぶ必要がある。

スタートアップの創業者には、アクセシブルな組織をゼロから作るチャンスがある。アクセシビリティへの情熱を持ち、プロダクトやウェブ資産のためにアクセシブルなコードを書き、アクセシビリティを取り入れている外部企業のみをパートナーとして選び、障がいのある人々の権利を支持する、そのような多様な人材を雇用することにより、今から10年、20年、30年後まで変える必要のないアクセシブルファーストの文化を作ることができる。

ここまで述べてきた考えには共通点がある。それは文化だ。テック業界にいる多くの人が、アクセシビリティは仕事の根拠として重要で価値があると同意するだろうが、認識に大きな問題がある。

アクセシビリティは、要件から始まりマーケティングやセールスといったテック以外のチームまで、ソフトウェア開発のどの部分においても必要だ。サイロ化されたチームが扱うニッチな事柄では決してない。もし業界や社会がアクセシビリティは「全員の」仕事であると認識すれば、我々は疑問の余地なくアクセシビリティを優先する文化を作っていくだろう。

こうした文化を作れば「これをアクセシブルにする必要があるだろうか?」とは考えなくなる。そうではなく「どうすればこれをアクセシブルにできるだろう?」と考えるはずだ。これは障がいのある10億人の人々、そして今後障がい者となったり、オンラインやデジタルプロダクトを使う能力に影響を及ぼすような一時的あるいは散発的、状況的に不便な場面に置かれる人々の生活を明らかに変える、考え方の大きな転換だ。

アクセシビリティの支持は困難な闘いのように思えることがあるかもしれないが、難しいことではない。最も必要なのは教育と認識だ。

アクセシブルなプロダクトを誰のために作るか、その人たちにはなぜそのプロダクトが必要かを理解すれば、あなたの会社のどの部署の人たちからも受け入れられやすくなる。このような文化を作ることが、アクセシビリティへの長い探究の旅の第一歩だ。そして幸いなことに、ここから先はもっと楽になる。

編集部注:本記事の筆者のJoe Devon(ジョー・デボン)氏は、アクセシブルなエクスペリエンスを構築するデジタルエージェンシー「Diamond」の共同創業者。GAAD(Global Accessibility Awareness Day)の創設者の1人で、GAAD Foundationの代表を務める。

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画像クレジット:Larry Washburn / Getty Images

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(文:Joe Devon、翻訳:Kaori Koyama)