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【コラム】社員を逃さないよう壁で取り囲むことはできない ──離職率を下げる方法を考えてみた

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【コラム】政策立案者や法学者は「ユニコーン恐怖症」を払拭する必要がある

私は15年間テック企業のCEOをしてきたのだが、人々がさまざまな理由で当社に入社したり退職したりするのを見てきた。しかしこの4カ月の退職者数が過去2年間の退職者数の合計を上回る事態となり、我社は50人の社員のうち20%近くを失ってしまった。このため残った社員たちには大きな負担がかかっている。

こうした事態を引き起こしている原因はなにか?昨今の労働力不足で、今多くの優秀な労働者に前例のないチャンスが到来している。彼らは他社へ移ることでより高い給料を得ることができるのだ。全国的に見て労働力が3500万人目減りしたのだが、これは1970年代以来初めてのことだ。雇用される側は、近年の中で一番と言ってよいほど強気の交渉をすることができる。

大手企業は全国規模で在宅勤務の社員を探している。彼らは、小規模な市場を主戦場とする小規模企業が従来支払ってきた給与の20~30%増しの給料をオファーすることもある。

我社では、テック業界では常である人材の引き抜きを避けるため、社風の醸成に力をいれ社員に手厚い投資をしてきた。パンデミック前でさえ、2016年に立ち上げられた社員持ち株制度を通して社員たちは会社の40%を所有していた。しかしパンデミックの期間中、私たちは給与や福利厚生が適切なものになるよう継続的にこれを調整してきた。

我社の主だった取り組みの1つは、従来社員育成のために取り置いてあった資金を、社員の学生ローンの返済に当てられるようにしたことだ。社員は今までほどには人材育成講座を取らなくなっており、多額の人材育成費が未使用のままになっていた。パンデミックが続くなか、人々は専門的な会議などに行く時間も意欲もなくし、またそもそもそういった会議も開催されていなかった。

この資金を別の用途に回すことができのは、あまり知られていない、新型コロナウイルス経済救済法 (CARES)の条項のおかげである。私たちは社員があるツイートを見たことがきっかけでこれを知ったのだが、雇用者は2020年から2025年までの間、社員の収入とはみなさない形で、一年に5,250ドル(約58万円)まで社員のために学生ローンの返済をすることができるのだ。

これが我社にとって適切なものであるかを確認するため、実施する前に社員調査を行ったところ、40~45人の社員のうち、20人がこの払い戻しプログラムで恩恵を受けることがわかった。これに自信を得て、私たちはプログラムの立ち上げに踏み切った。

まずは試験プログラムを開始し、毎年各社員に1200ドル(約13万円)を払い戻すことにした。これがうまくいったので、今度は1年間の支給額を2倍の2400ドル(約26万円)に引き上げた。このようにすることで、私たちは他の雇用者との差別化を図っている。米国人材管理協会によると、2019年時点でこうした学生ローン返済プランを実施している雇用主は全体の8%に過ぎないとのことである。

このようなプログラムを実施するにはある程度の準備が必要だ。内国歳入法の第127条に則った教育支援プログラム(EAP)を実施しなければならない。しかも、このプログラムは一握りの社員ではなく、社員全員を平等に利するものではければならない。学生ローンの無い社員が資金を利用できるようにするため、私たちは引き続き人材開発プログラムも同時に実施している。どの社員も同じ資金プールから人材開発にかかった費用の払い戻しを受けることができる。

幸いなことに、プログラムの立ち上げにはそれほど時間がかからなかった。調査を終えてから1カ月たたないうちに学生ローンに関する規則の草稿を作成し、公開して、社員に告知した。

プログラムを実施にあたっては、社員とのウィークリービデオ会議でそれを発表した。申請手続きもシンプルなものにし、社員は申請用紙1枚に記入すればよい。払い戻しを受けるには、ローンの支払い内容がわかる過去12カ月の学生ローンの請求書のコピーを提出する必要がある。その後、会社側で払い戻しの小切手を切る。

現在までのところ、このプログラムは大変好評である。私たちの業界の社員は多くが若手で、多額の学生ローンの支払いに苦労している。学生ローンの支払い免除は当社の社員が必要としているものなのだ。

このプログラムには他にも節税というメリットがある。社員は自らの連邦税と給与税の支払い分を節税でき、雇用者も給与税を節税し、提供した払い戻し額に等しい補償控除を受けることができる。

私たちは学生ローン払い戻しプログラムに大きな手応えを得ているが、これだけでは人材獲得競争に打ち勝つことはできないと思っている。社員が何を必要としているかを知るにはただ彼らの発言に耳を傾けるしかない。そこで、私たちはニーズの聞き取りに多大な時間を費やしている。

社員の生活費への懸念に応えるため、私たちは現在残留特別ボーナスと勤続10年ボーナスの支給を検討している。問題は、私たちのような小さな企業がこうしたボーナスを支払うための資金をどこから捻出するかである。当社の顧客のほとんどは1年または2年契約を結ぶので、このようなプログラムを追加するには、料金の値上げをしなければならない可能性がある。料金の値上げをしたとしても、私たちの予算にその値上げの効果が現れるまでにはしばし時間がかかるだろう。

そうではあっても、私たちはクリエイティブな解決法を模索したいと思っている。社員には、私たちが手厚い配慮をしていることを知ってもらいたい。そうした配慮をするのは、それが正しい行いだから、というだけでない。社員が出勤する際ガゾリン代が払えるだろうかと心を煩わすことなく、最大限我社のために能力を発揮できるようにするためでもある。

社員が我社に腰を落ち着けてくれたら、今度はお金や福利厚生とは関係ないもの、つまりパンデミックの間に多くの人にとってより重要になった帰属意識や目的意識といったもので最高の人材を惹きつけられるようになりたいと願っている。

ここでは仕事は、単なる仕事以上のものだ。当社のように小さな会社では、全社員が大切な役割を担う。そして当社がいるような小さな街では、すべての雇用者が地域にとって重要な存在である。優れた人材が集いアイディアを交換し、人間関係を楽しみ、きついプレッシャーのかかるシリコンバレーの外で違いを生み出せるような場所を提供することで、こうしたことを求めている人々を持続的に惹きつけられたら、と考えている。

当社の社員は他社にまさる福利厚生や給与を得るだろう。しかし最終的には、こうしたものは、私たちが会社の繁栄と成長を維持を目指してたくさんの知恵を注ぎ込んで作り上げようとしている総合的な環境の一部にすぎないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Delcie Bean(デルシー・ビーン)氏はParagus IT.の創業者兼CEO。

画像クレジット:Tetiana5 / Getty Images

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(文:Delcie Bean、翻訳:Dragonfly)