ナイジェリアが中国の足跡を追ってデジタル通貨を試験的に導入

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中央銀行は世界中で通貨の流通と供給を統制しているが、暗号資産の驚異的な増加により、その権威、統制、権力が脅かされている。

そのため世界各国の中央銀行は現在、独自のデジタル通貨を生み出している。現地の活動や暗号資産への関心(米国に次いで2番目に大きな暗号取引市場)に支えられたアフリカ大陸の革新的な動きとして、ナイジェリアが2021年10月下旬、そのリストに名を連ねた。

ナイジェリアの中央銀行は過去3年間の開発段階を経て、現在アフリカ初のデジタル通貨の試験運用を行っているところだ。

これまでに中国、スウェーデン、韓国など14カ国が独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の試験段階に入っており、合計81カ国がその他の段階でCBDCを模索中である。

バハマ、グレナダ、セントクリストファー・ネイビス、アンティグア・バーブーダ、セントルシアの5カ国のみが正式にローンチしている。

eNaira(eナイラ)と呼ばれるこのデジタル通貨は、ナイジェリア中央銀行(CBN:Central Bank of Nigeria)が支援・発行する。ほとんどの政府と同様、ナイジェリアがデジタル通貨を導入する理由は、物理的な現金よりもコスト効率が高く、銀行口座を持たない人々の金銭へのアクセスを容易にし、違法行為をある程度制限できることにある。

しかし、中央銀行が発行するデジタル通貨には利点がある一方で、市民に対する監督を行ってきた、あるいは監督を試みてきた実績のある政府によってそれがどのように利用されるのかという懸念が存在する。

eNairaについてこれまでにわかっていること

この試験的なローンチに向けて、CBNは8月、デジタル通貨の開発と展開のための事業者としてバルバドスを拠点とするBitt Inc.(ビット・インク)を選定した。

同社は、東カリブ海諸国通貨同盟(ECCU:Eastern Caribbean Currency Union)に協力し、デジタル通貨DCash(Dキャッシュ)の設計とローンチを支援してきた実績を持つ。DCashは独自のCBDCを完全にローンチした5カ国のうちの4カ国、アンティグア・バーブーダ、グレナダ、セントクリストファー・ネイビス、セントルシアで使用されている。

9月27日、CBNはeNairaのウェブサイトを立ち上げ、ナイジェリア人がどのように同国のデジタル通貨にアクセスし、利用できるかについて必要な情報を提供した。

ナイジェリア人は最初にeNairaモバイルアプリをApple StoreかPlay Storeでダウンロードする必要がある。サイト上のQRコードをスキャンしてサービスにアクセスすることも可能だ。

ユーザー登録後、お金の保管や送受信を行うためのSpeed Walletと呼ばれるウォレットを登録・作成する。プラットフォーム上では、銀行口座を持つ、あるいは持たない、さまざまなIDレベルのユーザーに対応するために、複数層のウォレットが用意されている。

ウェブサイトには、eNairaの4つの主要機能が掲載されている。顧客がeNairaウォレットからお金を移動できる統一決済システム、ユーザーが残高や取引履歴を確認できる銀行口座管理機能、QRコードを読み取って店頭で支払いができる非接触型決済サービス、そしてユーザー同士がリンクされた銀行口座やカードを介して送金を行うP2P決済だ。

暗号資産がCBDCに移行

ビットコインのような暗号資産は、従来のグローバルな銀行システムの枠を超えて生み出されたにもかかわらず、お金のデジタルな未来についてのポテンシャルを際立たせている。そしてその普及率の急激な上昇は、お金の将来を決定づけることにおいて、伝統的な機関との衝突につながっている。

暗号資産に対する議論は、一般的には詐欺やボラティリティに関する懸念に焦点が当てられてきた。それでも、エルサルバドルのような一部の国では、ビットコインを法定通貨として使うことをやめていない。ビットコインや暗号資産を自国の銀行や金融システムへの脅威と考える他の国々にとって、CBDCは、法定通貨以外のものへの関心の高まりに直接代わるものとして機能する。

Blockchain Nigeria User Group(ブロックチェーン・ナイジェリア・ユーザー・グループ)の創設者でコーディネーターを務めるChimezie Chuta(チメジー・チュタ)氏は、TechCrunchの取材に対して次のように述べている。「CBDCの概念は、中央銀行にとって不可欠なものとなっています。お金は人々を統制するためのツールです。ビットコインやイーサリアムのような非公開で発行された暗号資産の流入は、世界中の中央銀行の権威に対する直接的な挑戦であり、中央銀行は主要な統制ツールが損なわれるのを許容することはできないと考えています。CBDCは、弱いながらもその対抗策として浮上してきたのです」。

暗号資産はかなり独立性がある一方、デジタル通貨は紙の通貨と同じ価値を有している。ナイジェリアの場合、eNairaはナイラに連動しており、ナイラと同様に米ドルに対して変動する。

CBDCと暗号資産のもう1つの重要な違いは、前者が規制と統制にさらされていることにある。これは中国とナイジェリアの政府の核心にある共通のテーマだ。

2014年以降、中国は中央銀行である中国人民銀行(PBOC:People’s Bank of China)が支援する国家デジタル通貨(デジタル人民元)の開発に取り組んできた。その前年に、中国政府は銀行や決済企業がビットコインなどの暗号資産関連サービスを提供することを禁止している。

2017年には、中国はマイニング、イニシャル・コイン・オファリング(ICO:Initial Coin Offering)、および暗号資産取引プラットフォームが法定通貨を暗号資産に変換することを禁止した。

しかしこの禁止にもかかわらず、ビットコインや他の暗号資産はそれ以降もこのアジアの国で大きな牽引力を得てきた。そのため、2021年5月には、フィンテック企業が暗号化プラットフォームに口座開設、登録、取引、清算、決済に関するサービスを提供することを禁止する、より厳格な法律を制定した。

これまで中国は、地元の暗号資産プラットフォームのみをターゲットにしており、個人がオフショア取引所で暗号資産を保有することは禁止していなかった。

しかし2021年9月、中国政府が暗号資産取引(マイニングを含む)に関するすべての取引を違法であると宣言したことで状況は変わった。同政府はまた、Binance(バイナンス)のような海外の暗号資産取引所が中国本土の人々にサービスを提供することも違法であるとしている。

「中国は過去に何度も暗号資産にまつわる『禁止』措置を取ってきましたので、驚くに値しませんが、今回は曖昧さがありません」とPwCの暗号資産リーダー、Henri Arslanian(ヘンリ・アルスラニアン)氏はツイートした。「中国では、あらゆる種類の暗号資産取引と暗号資産関連サービスが禁止されています。議論の余地はありません。グレーの領域は存在しません」。

一部のアナリストは、中国によるこれらの禁止や制限は、2022年にこのアジアの国が完全にデジタル人民元をリリースすることを目的としていると述べているが、その見方は妥当であろう。WeChat(ウィーチャット)とAlipay(アリペイ)が5回に4回のデジタル決済を行っているこの国で、流通している現金の一部を置き換えるためにデジタル人民元をローンチしたと中国政府は主張している。

暗号資産に対するさらなる取り締まりや監督の可能性

PBOCは政府の支援を受けて、上海、成都、北京で2020年4月から試験運用が開始されたデジタル人民元により、オンライン決済の市場シェアをAlipayとWeChatによる複占から取り戻そうとしているのかもしれない。

eNairaと同様に、ユーザーは中央銀行が開発・管理するモバイルアプリをダウンロードすることによってのみ、デジタル人民元にアクセスできる。これまでのところ、700万以上の個人のデジタルウォレットと100万以上の企業のウォレットがデジタル人民元を使用している。Business Insider(ビジネスインサイダー)によると、これらのトライアルから合計53億ドル(約6050億円)の取引が行われたという。

ナイジェリアは暗号資産マイニングの国ではないものの、国民は暗号資産のヘビーユーザーだ。Paxful(パックスフル)によると、多くのナイジェリア人がナイラの下落から自身の貯蓄を守るために暗号資産を利用しており、この西アフリカの国はビットコイン取引で米国に次ぐ2位に位置している。

Chainalysis(チェイナリシス)のデータに基づくと、ナイジェリア人は5月に24億ドル(約2700億円)相当の追跡可能な暗号資産を取引している。2月にナイジェリア政府がCBN経由で暗号資産取引の禁止やそのような取引への銀行の参加を制限し、暗号資産を使用するナイジェリア人の口座を閉鎖するよう銀行に命じたことを考えると、これは驚くべき数字である。

そして、中国と同様に、ナイジェリアのその後の行動は自国のデジタル通貨を試験導入する方向に傾いた。しかし中国とは異なり、ナイジェリアは現金中心の社会だ。バハマのような小国がデジタル通貨を導入した主な理由(金融包摂性の改善の可能性を含む)の1つがここにある。こうした目的に照らしてみると、ナイジェリアでのデジタル通貨の導入は紙面上では理に適っている。

しかし、それが暗号資産を使用したい人々へのインセンティブを減らすための政府の策略であることを理解する人がいる一方で、多くのナイジェリア人はその有用性に疑問を抱いている。だが、懸念すべき微妙な要素は他にもある。同国における暗号資産活動の監督や全面的な取り締まりに対するものだ。

典型的には、政府は金融取引を監視し、疑わしい、あるいは異常な金銭活動に関する情報を収集するために、金融インテリジェンスユニットを使用する。しかし、CBDCは事態を1段階引き上げるかもしれない。

複数の出版物が、中国政府はデジタル人民元を使って国民に対する監督を進める可能性があるとほのめかしている。中央銀行であるPBOCの説明では、デジタル人民元サービスを運営している機関は「非同期伝送によって中央銀行に取引データを適時に提出」することが期待され、それにより中央銀行は「データを追跡し、マネーロンダリングと犯罪の取り締まり」ができるようになるとされている。

CBNも同様の目的を持っており、eNairaは「各eNairaの追跡可能な固有ID」により詐欺行為やマネーロンダリングを最小化する、と以前に述べている。

「銀行や通信会社はすでに検証プロセスを通じて必要な情報を持っています」とチュタ氏はいう。「しかし、CBDCは監視と監督を強化するでしょう。なぜなら、デジタル環境で実際にお金の流れを追跡することができ、配備している台帳上で各ユーザーの取引に対するフォレンジック分析を行えるからです」。

6月に現地メディアが報じたところでは、ナイジェリアはインターネットファイアウォールを構築するために中国と協議中のようだ。同報道によると、中国の「グレート・ファイアウォール」は政府のオンライン検閲と監督の中枢になっているという。ナイジェリアにはこうした監督用のファイアーウォールを構築するリソースがないが、eNairaは規模こそ小さいものの、同じ目的のために設計されたのではないかと考える向きもある。

「CBDCは追跡可能であり、政府が不当な監督を行うことを決定した場合に有用になると思います」と匿名を希望する暗号資産ユーザーはTechCrunchに語った。

また、中国のケースと同様に、eNairaの採用が計画通りに進まない場合や、政府がeNairaを国内で取引される唯一のデジタル通貨として強制する場合には、暗号資産の取り締まりがさらに強化される可能性がある。

その典型的な例が、中国の新たな命令により、世界最大の暗号取引所であるHuobi(フォビ)とBinanceの2カ所でユーザーの新規登録が停止されたことだ。Huobiは年末までに現在のアカウントを廃止することを明らかにしている。

ナイジェリア政府がこのような権限を行使できるかどうかは定かではない。それでも、ナイジェリア人に対するサービス提供や雇用をオフショア暗号プラットフォームから禁止し、成功した場合、ピア・ツー・ピアの活動(ナイジェリアで暗号資産を繁栄させてきた)は深刻な打撃を受けるだろう。

「政府は概して、暗号資産に脅威を与えています。現実世界の権力をつ人がいるような状況では、暗号資産の取引で投獄される可能性があります」とナイジェリアの暗号資産交換プラットフォームで成長リードを務める人物は述べている。「政府が本当に自国内での暗号資産の使用を禁止することを決定した場合、暗号資産は抑圧され、ある時点でそれを使用する価値がなくなる恐れがあります」。

しかし現時点では、ナイジェリアと同国の頂点にある銀行は、eNairaに対して高潔な意図を持っているようだ。CBNのGodwin Emefiele(ゴッドウィン・エメフィーレ)総裁は、eNairaはより安価で迅速な送金流入と国境を越えた貿易の増加につながると述べている。

送金に関しては、eNairaは国外にいるナイジェリア人が故郷に送金するためのより良い代替手段を提供すると思われ、長期的にはナイジェリアへの送金が増加傾向にあり、2020年は170億ドル(約1兆9400億円)に達している。

中国の銀行がナイジェリアでの業務を拡大しているとのニュースが2021年9月に広まったが、この事実は、両国間のクロスボーダー貿易の有効性に対する極めて重要な要素を示しているのかもしれない。中国はナイジェリアの最大の貿易相手国で、両国間の2021年の貿易額は200億ドル(約2兆2800億円)を超え、2020年の192億ドル(約2兆1900億円)から増加している。3年前、両国はより良い貿易を目指して通貨スワップ協定を試みたが、何も具体化しなかった。しかしチュタ氏は、両国のデジタル通貨は完全な代替物として機能できると主張する。

「両国にとって有益な相互運用性があると思います。ナイジェリアから中国に送金したい場合、少なくとも4つの異なる手続きを踏まなければなりません。それには3、4日かかります」とチュタ氏。「ですが、中国とナイジェリアのCBDCが相互運用することを想定してみましょう。中国のサプライヤーに送金したい場合、アプリ上の簡単な操作でeNairaを中国人民元に交換してサプライヤーに送信すれば、サプライヤーは従来の送金機関で通常行う手続きに比べてごくわずかな時間で支払いを受けることができます」。

ナイジェリアの中央銀行は、eNairaは「支払い効率、歳入と税徴収、そして対象を絞った社会的介入」の改善にもつながるだろうと述べている。

ナイジェリアの頂点に立つ銀行は、これらすべてを達成できるだろうか?パイロットモードでも完全にローンチされたモードでも、大規模な成功を収めた国はまだ存在しないため、断言するには時期尚早である。eNairaはポートハーコート、アブジャ、カノ、ラゴスの4都市で段階的に展開される予定だ。しかし、政府主導の同様の取り組みが過去にどのように行われてきたかを考えると、本格的な展開が実現する見込みはほんのわずかしかない。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

原文へ

(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)