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ユーチューバーがリアルで「イカゲーム」を再現、ハリウッド並予算で作られたYouTube動画がクリエイターに与える影響

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韓国のサイコスリラー「Squid Game(イカゲーム)」が話題になった。「イカゲーム」は1億4200万人の視聴者を獲得し、Netflix(ネットフリックス)のシリーズ史上最大のヒット作となった。そして今、ユーチューバーのMrBeast(ミスター・ビースト)が、ドラマのタイトルになった死闘を再現し、8日間で1億4200万回の再生回数を記録したことが話題になっている(誰も殺されていないのでご安心を)。

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先日、YouTubeの米国トップクリエイターに2年連続で選ばれた23歳のJimmy Donaldson(ジミー・ドナルドソン、MrBeast)氏は、セットを用意し、456人の参加者の衣装を作り、Netflixのドラマに限りなく近い動画を制作した。そして、Netflixの人気シリーズ同様、最後まで勝ち残ったプレイヤーは、人生を変えるような賞金を手にする。ドナルドソン氏の動画では、参加者は45万6000ドル(約5150万円)を獲得するチャンスが与えられた。

ドナルドソン氏の「イカゲーム」が、少なくとも再生回数では元祖「イカゲーム」と同じくらい人気を呼んだのには、いくつか理由がある。1つには、YouTubeは無料で、Netflixはそうではないからだ。

だが、動画がバイラルにする(拡散する)ためには、コストがかかる。同氏は、25分の動画に、なんと350万ドル(約4億円)もかかったとツイートした。ちなみに、Netflixの全9話のシリーズにかかったコストは、合計2140万ドル(約24億円)。シリーズ1時間あたり平均240万ドル(約2億7000万円)だ。

ドナルドソン氏のような人気ユーチューバーであっても、Netflixのような上場グローバル企業が持つ経営資源にはかなわない。そのため、ドナルドソン氏のように、衝撃的なスタント(人目を引くための馬鹿げた行為)を内容とする動画を作るクリエイターにとって「イカゲーム」の再現のような、前例のないことをするのは難しくなっている。

「イカゲーム」リリース後、9時間を割けなかった人のために、背景を説明しよう。「借金まみれから一生抜け出せないなら、途方も無い富を手に入れるために死闘を繰り広げてみてはどうか」。これが、韓国の債務危機に対するHwang Dong-hyuk(ファン・ドンヒョク)監督の答えだが、海外の視聴者にも共感してもらえるだろう。米国では学生の借金が1兆7300億ドル(約195兆円)に達し、過去10年間で91%以上増加した。もしあなたが、たった一度、歯医者に行っただけで、これまでの貯金を使い果たしてしまうのではないかと心配しているのであれば、登場人物たちが手っ取り早く金を手に入れようと必死になる姿に共感するのは難しくないだろう。

「イカゲーム」の中で、そのゲームは、裕福なエリートたちが自らの娯楽のために作ったものであることが明かされる。貧しい人々がゲームの条件に同意するなら、死闘を演じさせてはどうだろう、ということだ。

そこまで極端でなくても、MrBeastの動画が行っていることも同じだ。同氏は、普通の人々に大金を渡し、自らのブランドであるパフォーマンス的な慈善活動で、何百万人もの視聴者を楽しませ、注目を集めることで金銭的な利益を得ている。

予想どおり、MrBeastの「イカゲーム」動画には、Netflixのドラマをあれほど魅力的にした、感情的な共鳴やサスペンスが欠けていた。参加者は何のリスクも負わないため、昼間の「Wheel of Fortune(米国のゲーム番組)」の再放送と同じ程度に、懸けられたものが小さく感じられる。だがドナルドソン氏は、このスタイルのYouTubeコンテンツを開拓しただけでなく、完成させた。とんでもなく馬鹿げたことをすれば、みんながそれを見てくれる。YouTubeでは視聴時間が金になる。ただ、このモデルを追求していくと、ユーザーの注目を集めるための投資コストが時間を追うごとに膨らんでいく。

クリエイターエコノミーの拡大に伴い、一部のユーチューバーの予算も増えている。しかし、不安定な性質を持つこの仕事で、赤字に陥ることは危険だ。Netflixの「イカゲーム」は、これまでに少なくとも予算の約42倍の8億9110万ドル(約1007億円)を稼いだが、ドナルドソン氏は自身の「イカゲーム」への投資を回収できないかもしれない。

「これ以上できない」というところまでエスカレート

動画「How I Gave Away $1,000,000(僕が100万ドル[約1億1300万円]を誰かにあげるまで)」でドナルドソン氏は、こうしたコンテンツを作り始めたきっかけは、デジタルアイテム収集アプリのQuidd(クイッド)から、1万ドル(約113万円)の動画ブランド契約を持ちかけられたことだと説明している。同氏は、その1万ドルをホームレスの人に渡す動画を撮った。その後もQuiddからの資金で動画を作り続け、その数は雪だるま式に増えていった。

現在、最も人気のある動画の中には「I Ate A $70,000 Golden Pizza(7万ドル[約800万円]のゴールデンピザを食べてみた)」「Last To Leave Circle Wins $500,000(円の中に最後まで残ったら50万ドル[約5650万円]」「Donating $100,000 To Streamers With 0 Viewers(視聴者ゼロのストリーマーに10万ドル[約1130万円]を寄付してみる)」など、投資額がもっと大きなものもある。

MrBeastは9月、クリエイター向けのYouTubeチャンネル「Colin and Samir」で「動画制作に毎月400万ドル(約4億5200万円)を使っているが、自分の期待を上回る動画もあれば、そうでない動画もある」と語っていた。同氏によると「I Sold My House For $1(自宅を1ドル[約113円]で売ってみた)」という動画の制作費は100万ドル(約1億1300万円)を超えたが、広告収入で回収できたのは50万ドル(約5650万円)にも満たず、スポンサー料ではその差を埋められなかった。だが、いくつかの動画が予想以上に良い結果を出している限り、あまりバイラルではない(拡散しない)動画が多少あっても、痛くも痒くもない。

「動画をバイラルにする方法がわかれば、あとはいかに多くの動画を配信するかということになります」と同氏は2020年、Bloombergに語った。「稼ぐことができる金額は実質的に無限です」。

Forbes(フォーブス)は、ドナルドソン氏が2019年6月から2020年6月の間に、YouTubeで2400万ドル(約27億円)を稼いだと推定した(YouTubeだけが同氏の収入源ではなく、MrBeast Burgerというゴーストキッチンを経営したり、Twitch(ツイッチ)でストリーミングしたり、多くのブランドとコラボレーションしたりしている)。しかし同氏は、同じバイラルスターのLogan Paul(ローガン・ポール)氏とのインタビューで、収入のほとんどをそのまま動画に使っていると語っている。

「月に300万ドル(約3億3900万円)とか400万ドル(約4億5200万円)稼いだら、次の月には動画に使ってしまいます」とドナルドソン氏は話す。「私たちが得る、文字どおり『カミソリのように』薄い利益は、すべて単純に再投資しています」。

このようなクリックベイトモデルの問題点は、視聴者が高予算のYouTube動画に鈍感になってしまうことだ。クリエイターはさらにレベルアップする必要に迫られる。

コメディアンのDemi Adejuyigbe(デミ・アデジュイグベ)氏も、Earth, Wind, & Fire(アース・ウインド&ファイアー)の「September」に合わせて踊る動画を毎年公開するなかで、この問題に直面した。

2016年の最初のバイラル動画では、表に「SEPT 21(9月21日)」、裏に「THAT’S TODAY(それは今日だ)」と書かれた自作のシャツを着て、寝室で踊っただけだった。翌年は派手に風船を使い、2018年には子ども合唱団を登場させ、2019年にはマリアッチバンド(メキシコの大衆的な楽団)を雇った。その後の展開はおわかりだろう。2021年、同氏はもうビデオを作らないと決めた。毎年、より大きく、より良いものを作り続けるのは、時間がかかりすぎるし、困難だからだ。そこで、同氏は最後にもう一度、全力で取り組み、ファンから100万ドル(約1億1300万円)以上の寄付を集めた。だが、一連の「September」動画は、同氏の生業にはならなかった。動画が話題になったことで、ハリウッドで注目されるようにはなった。毎年の「September」動画の企画の合間に「The Good Place」や「The Late Late Show with James Corden」などの番組で脚本を担当した

美容・ファッションクリエイターのSafiya Nygaard(サフィヤ・ナイガード)氏も、クリックベイトモデルの問題に直面した1人だ。同氏は最初、BuzzFeed(バズフィード)のビデオプロデューサーとしてファンを獲得したが、退職して自身のチャンネルに投資し、独立することにした。同氏は、美容分野で差別化を図るために「Melting All My Nude Lipsticks Together(私が持っているヌードカラーの口紅を全部溶かしてみる)」「Mixing All My Foundations Together(私が持っているファンデーションを全部混ぜてみる)」など「悪いメイクの実験」をしてきた。1年後には「Melting Every Candle From Bath & Body Works Together(Bath & Body Worksのすべてのキャンドルを一緒に溶かしてみる)」「Melting Every Lipstick From Sephora Together(Sephoraのすべての口紅を一緒に溶かしてみる)」とエスカレートしていった。後者の動画では、600本以上の口紅を使用した。Sephoraの口紅の価格は約10〜50ドル(約1130〜5650円)。同氏の支払額があまりに高額だったため、Sephoraのレジ係が確認のために銀行に電話した。同氏はその様子を撮影した。

しかし、Sephoraであらゆる口紅を買ってしまったら、それ以上のことをするのは無理だろう。ナイガード氏は目下、約1000万人の登録者がいるYouTubeチャンネルを月に1~2回しか更新していないが、Instagram Reels(インスタグラム・リール)やTikTok(ティクトック)には数日に1度のペースで投稿するようになった。TikTokでも高価な買い物をすることがある。ある人気のTikTokで、同氏がBalenciaga(バレンシアガ)の1350ドル(約15万3000円)のピンヒールをデザインした。しかし、117本のBath and Body Worksのキャンドルや、600本のSephoraの口紅に比べれば、小さな買い物だ。

ナイガード氏やアデジュイグベ氏のようなクリエーターは、このように高額で、時に低報酬となるコンテンツから離れることができた。だが、ドナルドソン氏にとって、高予算の動画を作ることは活力の源となっている。自分のチャンネルがYouTubeの食物連鎖の頂点に立ち続けるために、より過激なコンテンツの制作をやめるわけにはいかないのだ。

クリエイター経済への資金供給

スタートアップは事業の成長のために資金を必要とするとき、ベンチャーキャピタルを利用する。動画制作コストが増大する昨今、バイラルクリエイターに投資機会を見出すベンチャーキャピタル企業が出てきている。ベンチャーキャピタルのSignalFireは、クリエイターは最も急成長している中小企業であると述べている。Sam Lessin(サム・レッシン)氏のSlow Venturesのように、その考えを次のレベルにまで高めている企業もある。Slow Venturesは最近、Silicon Valley Girlというチャンネルを持つユーチューバーのMarina Mogilko(マリアナ・モジルコ)氏の将来に170万ドル(約1億9200万円)を投資した。今後30年間、同氏のクリエイターとしての収益の5%を受け取る。

「人」に投資するというのは薄っぺらく聞こえるかもしれない。だが、関係者全員が善意であると仮定した場合、アーティストに金銭的な余裕を与えることは、本当に最悪なことなのだろうか。これは、すでにハリウッドで起こっていることだ。制作会社が脚本を購入し、人材を雇い、映画を売り込んでも、興行的には大失敗に終わることがある。

しかし、クリエイター、つまり「人」はスタートアップではない。そして、自分を超えようとし続けるとどうなるか。燃え尽きてしまうのだ。

ベンチャー企業からの資金調達という緩衝材が、クリエイターの経済的負担を軽減する可能性はある。だが、利害関係者へのアピールというプレッシャーが、さらなるストレスとなることも考えられる。

YouTubeのCEO、Susan Wojcicki(スーザン・ウォジスキ)氏は、2019年にクリエイターに宛てた手紙の中で、燃え尽き症候群の問題が大きくなっていることを認めている。

「自分のチャンネルが上手くいかなくなるのではと心配して、撮影を休めないという気持ちになる、というクリエイターの声を聞いたことがあります」とウォジスキ氏は述べた。「もし、あなたがしばらく休みたいと思っても、ファンは理解してくれるでしょう。結局のところ、あなたが作っているからこそ、ファンはそのチャンネルを選ぶのですから」。

YouTubeのプロダクトチームは、クリエイターが休みから戻ってくると、より多くの再生回数が得られることに気づいた。しかし、Drake McWhorter(ドレイク・マックウォーター)氏は、それは真実ではないと思う、と当時CNNに語った。

「YouTubeはトレッドミルのようなものです」と同氏はいう。「一瞬でも止まったら死んでしまいます」。

ネットでバイラルになるのはこれまでになく簡単になったが、だからといって長期的に視聴者の注目を集めるのが簡単だとは限らない。ネットで生計を立てるには、視聴者が必要となる。MrBeastがハリウッド級の予算でYouTube動画を制作し、なおかつ「カミソリのように薄い」利益しか上げていない今、私たちは「クリエイター経済で勝っているのは誰か」と問わなければならない。結局のところ「Real Life Squid Game」の成功は、ドナルドソン氏にとってよりも、YouTubeにとって、あるいはNetflixにとってさえも、朗報なのかもしれない。

画像クレジット:MrBeast/YouTube

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi