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肉体労働を支える、ロボティクススタートアップFJDynamicsが約79億円調達

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DJIの元チーフサイエンティストであるWu Di(ウー・ディ)氏が設立したFJDynamicsが、過酷な環境下で働く人々にロボティクステクノロジーを提供するという目標を推進すべく、シリーズBラウンドで7000万ドル(約79億円)を調達した。

同社の農業用ロボットの特徴を尋ねたところ、ウー氏は広報担当者が冷や汗をかきそうな答えを返してきた。「当社のテクノロジーはさほど特別なものではありません」。多大な労力のかかる産業のために、便利かつ安価なロボットを作ることが同社のビジョンだと同氏は話す。

「最先端のAIアルゴリズムを持っていても、業界での経験がないためにその技術が生産ラインや農場で活用できなければ、人々にとって何のメリットもありません」と同氏。

ウー氏がFJDynamicsを始める前に携わっていたテクノロジーは、あらゆる意味で最先端のものだった。ドローン大手のDJIではチーフサイエンティストを務め、そこで同氏は2017年にスウェーデンのフォーマットカメラメーカーであるVictor Hasselblad ABの買収を監督している。中国に戻る前の10年間をスウェーデンで過ごしており、その間にドメインスペシフィック・プロセッサーデザインの博士号を取得。また、ファブレス半導体メーカーのCoresonic ABで副社長、スウェーデンの高級スポーツカーメーカーKoenigsegg ABでディレクターを務めた経歴を持つ。

「これだけの一流技術を目の当たりにした後で、FJDynamicsをハイテク企業と呼ぶのはおこがましい」と語る創業者。色あせたチェックのシャツに細縁の眼鏡という姿で取材に応じてくれた。

私たちが座っていたのは数台のデスクが置かれた仮設のミーティングルームだ。オープンプランのオフィスが可動式の壁で仕切られている。テクノロジーの中心地である深圳にある同社は急速に事業を拡大しており、従業員も1000人に近づいている。

FJDynamicsの 創業者兼CEOのウー・ディ氏

2019年、ウー氏はDJIを離れ、FJDynamicsを創設した。同社は当初より農業用ロボットに焦点を当て、無人の芝刈り機や果樹園の噴霧器、飼料押し出し機などのツールを作っているが、徐々に建設業や製造業など、肉体労働に大きく依存するその他の分野にも進出している。

北京が国内の伝統産業のデジタル化を推進する中、FJDynamicsのような中国企業は投資家から熱い視線を浴びており、FJDynamicsにもTencentや国有自動車メーカーのDongfeng Asset Managementなどの有力な投資家が名を連ねている。DJIは初期の段階で同社に出資していたものの、その後株式を売却している。

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同社は今回のシリーズBラウンドにおける単独投資家名を明かしておらず、中国の大手インターネット企業であるとのみ伝えている。今回の資金調達により、同社は「農業、施設管理、建設、園芸などの分野で、ロボットによる自動化テクノロジーを成長させるとともに、60カ国以上で提供している同社のESG製品の需要拡大をサポートする」ことができると話している。

これまでに多くの技術系の人材が、自分の会社を立ち上げたり他のスタートアッププロジェクトに移籍したりするためにDJIを離れている。ポータブルバッテリーメーカーのEcoFlow、ヘアドライヤーのZuvi、電動歯ブラシブランドのEvoweraなどはその代表的な例である。ウー氏は世界最大のドローン企業であるDJIの名誉あるポジションを去った理由として「高級品」を作ることへの違和感を挙げている。

「ロボティクステクノロジーは、多くの企業によってドローンや自律走行車に活用されていますが、 地球上の大多数の人はその恩恵を受けていません」。

「農業、建設業、園芸業といった分野の労働条件は肉体的に厳しく、このような仕事をしている人はまだ大勢います。ロボティクステクノロジーを使って彼らの労働環境をいかに改善するかということが問題であり、また単にロボットに置き換えるということでは解決しません」と創業者は話している。

買収したスウェーデンの農業会社SveaverkenのロゴがプリントされたFJDynamicsの牛用フィードプッシャー

FJDynamicsの人気製品の1つに自動フィードプッシャーがある。高品質な牛乳を生産するためには1日に約10回の給餌が必要となり、そのためには24時間体制でスタッフを配置する必要がある。例えば500頭の牛を飼っている牧場なら牧草を与える人が交代制で3人ほど必要になるが、貧しい国ではそれほど多くのスタッフを配置することができず、寒い季節でも1日中牛の世話をすることになる。

FJDynamicsは農家の仕事を少しでも楽にしたいと考えている。1台約2万ユーロ(約255万円)のビジョンガイド式フィーダーは、1日に最大500頭の牛に餌を与えることができる。2019年、同社は110年の歴史を持つスウェーデンの農業会社Sveaverkenを買収しており、これがFJDynamicsの飼料押し出しロボットの実用化に貢献した。

「当社のお客様とは、テクノロジーについてお話ししたことがありません。農家の人々は、作物の収穫量を向上させるのに役立つかどうかという点により関心があるのです。農家さんは皆、経済家なんです」。

「テクノロジーを手の届きやすい価格で」というビジョンを掲げているため、利益率は「控えめ」で、そのため経営陣は運用コストに対して慎重だ。

現在、売上の約40%が中国以外の約60カ国で展開されている同社。海外に進出する中国企業の多くは「中国」と名の付くものへの反感を恐れてその出自に対して用心深くなっているのだが、ウー氏はより積極的なアプローチをとっている。

「10年間ヨーロッパに住んでいようと、自分のアイデンティティを変えることはできません。そんなことは重要ではなく、中国人でも米国人でもスウェーデン人でも、顧客の利益となる優れた製品を作り続けていれば、ユーザーは必ずい続けてくれるのです」。

特に企業のグローバル展開においては、データのコンプライアンスが重要な鍵となる。FJDynamicsはハードウェアとソフトウェアを提供し、現地のパートナーがデータを使った「システム」の展開を支援する。中国国外ではMicrosoft Azureが主なクラウドパートナーとなっており、それにより「GDPRなどのデータプライバシー要件を満たしながら、弾力的な展開が可能に」なっているという。

「データを欲しないというのが我々の企業文化です」とウー氏。

高度なプロセッサーを必要とするスマートフォンやドローンとは異なり、FJDynamicsの製品には中国で手に入る比較的シンプルなチップが使用されているため、昨今のサプライチェーンの混乱の影響を受けにくいと創業者は考えている。

現在は最先端のテクノロジーを開発しているわけではないが、自身の知識を伝える方法を模索しているウー氏。農業ロボットを開発する合間に、深圳の南方科技大学で講義を受け持つこともある。

「私は製品(FJDynamics)と教育という2つのことにフォーカスしながら、シンプルな生活を営んでいます。さまざまなことを目にしてきましたが、人はお金で変わることはできず、また幸せになることもできません。シンプルな目標を持つことが重要で、そういったシンプルな目標の達成が人を幸せにしてくれるのです」。

画像クレジット:FJDynamics

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)