AIによって習熟期間を超短縮、日本の受験環境を一変させるatama plusの想いと狙い

教育・学習を環境を進化させるEdTechスタートアップまとめ

atama plusは、2017年4月に設立されたスタートアップ。代表取締役を務める稲田大輔氏が、大学時代の友人だった中下真氏(同社取締役)と川原尊徳氏(同社取締役)を誘って起業したEdTech企業だ。中下氏は東京大学教育学部を卒業後にリクルートに入社、川原氏は東京大学工学部卒業・東京大学大学院情報理工学系研究科修了後にマイクロソフトに入社、そのあとにatama plusの創業メンバーとなった。

大学院修了後は芸人を目指す考えもあったという、atama plus代表取締役の稲田大輔氏

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稲田氏は東京大学工学部卒業・東京大学大学院情報理工学系研究科修了後に三井物産に入社。社内で教育関連の事業を立ち上げたあと、ブラジルでベネッセとの共同事業を進め、ベネッセ・ブラジルの執行役員や海外EdTech投資責任者などを歴任したあと、atama plusの創業に至ったそうだ。

稲田氏によると「日本人の多くは新興国であるブラジルの教育は日本に比べて遅れていると思っている人が多いかもしれません。しかし、実はテクノロジーの活用においてはまったく逆です。日本のほうが相当遅れています」とのこと。日本では、義務教育や高校で学ぶ科目や学習内容に変化はあるものの「学校での授業形態は150年ぐらい前からほとんど変わっていない」と稲田氏。日本では、教室の前に立つ教師の話と、黒板に書かれた情報を基にクラス全体で学習を進めていくというスタイルが長らく続いている。

一方、稲田氏がブラジルで目の当たりにした授業風景は、「教室には黒板はなく、生徒は各々の習熟度に合わせて学習を進めるというスタイル」だったそうだ。教師は教室の中を歩き回って、生徒たちそれぞれの進捗状況を見ながら、助け船を出したり、励ましたり、一緒に喜んだりといった、ファシリテーター的な役割を担うという。

稲田氏によると「日本では、必修科目を習得するための学習時間が海外に比べて非常に長く、自己表現力やコミュニケーション能力、グループで協力して作業するといった『社会でいきる力』の教育・習得に時間が取れていない」と語る。「もちろん、英語を含む基礎学力は非常に大事で、日本の生徒が受験に向けて勉強をすることは間違いではありません」と続ける。こういった問題を解決するために「まずは、必須科目を効率的に最短で習得できる方法を開発して学習時間を減らす」ことを目指したとのこと。

現在、国内でも大手の学習塾や予備校がネットを駆使した映像教材やアプリを多数リリースしている。これらもEdTechと言えないことはないが、その多くは教室での授業を映像コンテンツに、紙の教材をアプリに置き換えたものが多い。スマホでどこでも学習できるというこれまでにないメリットはあるものの、結局は従来の授業形態を継承した学習方法だ。

「現在の日本の受験勉強は、解けない問題があるとその解き方を習い、類似した問題をたくさん解いて頭に叩き込むという手法が一般的でした」と稲田氏。「atama+では、生徒がつまづいた問題の原因をAIが特定し、その問題を解くために必要な前提知識を再度学習させることで短期間での習得が可能になる」と続ける。

具体例としては「高校の数1で出てくる正弦定理の問題を解けない場合には、平方根や三平方の定理、三角形の内角、三角形の相似といった、正弦定理を解くための前提知識を中学の数学の範囲までさかのぼり、例題や映像コンテンツを使って演習させる」とのこと。

生徒が問題を1問解く度にatama+のAIが作るカリキュラムは更新され、習熟度や解答時間、学習履歴、忘却度などさまざまな要素を組み合わせて、生徒それぞれに適したレッスン内容を作成するというのが、atama+のざっくりした仕組みだ。

稲田氏によると「この手法を取り入れることにより習得にかかる時間を大幅に短縮できる」という。「例えば、高校1年生で習う数学1や数学Aは学校では1年間で約146時間(175コマ×50分)をかけて学びますが、atama+を使えばそれぞれ16時間、15時間ほどで習得できます」とのこと。実際の調査でも多くの生徒の成績が上昇し、2018年のセンター試験では受講生の得点伸び率が模試試験時の得点と比べて50.4%ほど上昇したという。これは2週間で平均14時間45分(1日あたり63分)をatama+での学習にあてた結果だそうだ。

実際の塾の現場では、atama+アプリが生徒に数学などを教え、塾講師はそれをコーチングするをスタイルになるという。「塾講師のみなさんは、『atama+ COACH』というアプリを使うことで、いままさに問題を解けた生徒、問題が解けずに思い悩んでいる生徒、集中力を欠いている生徒などの状況を知ることができ、褒めたり、励ましたり、注意したりといった対応がとれます」とのこと。

そして「atama+の導入により学習時間を減らすことで、余った時間をほかの教育に使えるようになる」という。このシステムは現在、Z会、学研、駿台などの大手学習塾の2割強の計500教室に導入されており、駿台(駿台教育センター)とZ会グループ、城南進学研究社では2019年からatama+を使ったAI学習コースも新設している。

一方で、現在150教室近くで導入待ちの状態だという。導入待ちが発生している理由について聞くと「atama+のアルゴリズムは生徒からのフィードバックなどで日々更新しているので、導入後のサポートがとても重要です。現在は導入予定の教室に人員を割く余裕がないため、大変申し訳ないですが待ってもらっている状態」とのこと。

稲田氏は「2021年春までには社員数を150人規模に拡大したい」と語る。「導入した教室のサポート強化はもちろんですが、現在は高校の数学、英文法、物理、化学。そして中学の数学に対応しているatama+を、さらに多くの科目に使えるようにするためにも人員増強は必須」とのこと。「将来的には海外進出も果たしたい」とも語る。

三井物産戦略研究所の「世界の教育産業の全体像」と私塾会の「学習塾白書」のデータによると、グローバルの教育市場の規模は427兆円、日本の教育市場の規模は27兆円、そして日本の学習塾・予備校市場の規模は9650億円ほど。中でも、日本の学習塾・予備校市場の規模は米国と中国に続いて世界第3位とのこと。

「教育ビジネスは各国の教育方針が異なるため海外進出が難しい産業だと言われていますが、現在日本で取り組んでいるように、その国の教育方針をきちんと理解して将来的にはatama+の各国版を作っていきたい」と稲田氏を意気込みを語る。

後編は、atama+ではどのようにメンバーを採用し、どのように育成しているのかについて引き続き稲田氏に話を聞く。さらに、大手企業からatama plusに転職したエンジニアに、転職した理由や大手企業のスタートアップ企業の違いなども取材する予定だ。

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