市川市のプロジェクト「ICHIKAWA COMPANY」。市民・民間パートナー・行政が協力しあう仮想会社とは?

地方都市が抱えるさまざまな課題は、自治体による取り組みだけでは解決が難しくなってきた。今後は、自治体と専門性を有する民間パートナーとが一体となった、先進的な取り組みが求められるだろう。

千葉県市川市では、そのような取り組みを具体的に進めるプロジェクトとして「ICHIKAWA COMPANY」を立ち上げた。
市が抱える課題解決に取り組む全ての人たちを「ICHIKAWA COMPANY」の社員と見立て、様々な先進的な取り組みを実施することで、生活満足度とシビックプライドの醸成を図る。
これを世界に向けて発信することで、「ICHIKAWA COMPANY」は都市課題解決のリーディングカンパニーを目指す。

・「ICHIKAWA COMPANY」市民目線で都市の課題解決を図る仮想会社

「健康なまちづくり」をテーマに実証実験を実施した「ICHIKAWA COMPANY」

千葉県北西部に位置し、文教・住宅都市として発展してきた市川市では2019年4月、先進的な技術や斬新な発想に基づく既存技術を組み合わせ、便利で暮らしやすいまちの実現を目指すため、産学官の連携コンソーシアム「いちかわ未来創造会議」を設置した。
併せて、「ICHIKAWA COMPANY」を立ち上げ、「健康なまちづくり」をテーマに、「ICHIKAWA COMPANY」が掲げる8つの目標、「①都市生活をスマートにしよう」「②シェアリングで発想しよう」「③健康な毎日を送ろう」「④子どもの想像力を豊かにしよう」「⑤これからの働き方を実践しよう」「⑥自然を暮らしに取り入れよう」「⑦多様性ある文化をつくろう」「⑧市川への愛と誇りを育てよう」に挑むスタートアップ・研究者からアイデアを募集。
24件の応募の中から市川市をフィールドとした13の社会実証実験を実施した。
社会実証実験を通じて多様な技術や知見を集め、いちかわ発のイノベーションを起こすことで、便利で暮らしやすいまちの実現を目指している。
以下では、そのうちの3つの社会実証実験の様子を紹介する。

実証実験事例①:株式会社Rockin’Pool 「プールVRで最高のヘルスケアを!」

まず紹介するのは、株式会社Rockin’Pool。運動がしやすい水中環境を活かし、関節や筋肉などに痛みのある人や障がい者、高齢者が浮遊感の中で安心して運動を続けられる、「プールVRゲーム(ヴァーチャルリアリティ)」という自社開発のプロダクトを活用してヘルスケアの実証実験を行った。

実験では深さ1.2mの市民プールを貸し切り、比較的健康な人や関節の疾患、痛みを抱えている人など、11人(42~57歳)のさまざまな参加者がプールVRを体験。手にセンサー付きのコントローラーを装着して、プールに入りながらシューティングゲームを行う水中VRゲームなどが行われた。

VRのゴーグルを頭にかぶり、ゲーム画面上にはキューブ状のオブジェクトが飛んできて、タイミングを合わせて腕を動かして打つと弾け、得点が加算。Rockin’ Poolの代表取締役CEOの西川隼矢氏は「ゲームの中に入ると、水中であることを忘れるほどの没入感がある」と語る。

実証実験では「VRなし」「VRあり」に分け、体や心の変化についてアンケート集計した。その結果、「VRあり」の方が「楽しくできた」「時間の経過が短く感じた」「またやりたい」「より集中してできた」「運動のモチベーションにつながる」などの感想が得られるなど、明らかな有意差(統計上、偶然ではない差)があったという。

西川氏がこの実証実験でもっともこだわった点は、「体の変化よりも心の変化」だという。筋肉や関節にとっては有意義な運動でも、数回で飽きて、心がしんどいと感じてしまうようでは意味がない。「楽しんでいたらいつの間にか運動になっているなど、いかに継続できる楽しさを引き出せるか工夫が必要」(西川氏)。

また、西川氏は「体が不自由でも、脳や心が活性化されていれば認知症になることを防げるのではないか」との仮説を立てている。「環境次第で人間は良くも悪くも変わってしまう。水中でのVR体験がより心を豊かにすると信じている」(西川氏)。

実証実験事例②:株式会社ジャパンヘルスケア「歩き方をきれいにする世界をつくる」

続いて、株式会社ジャパンヘルスケア。代表取締役であり現役医師の岡部大地氏によると、さまざまな研究や自身の現場での診断経験から「きれいな歩き方を身につけることで、将来起こり得る足腰の障がいを軽減できる」ことが見えてきたという。岡部氏はまだエビデンス(医学的根拠)は取れていないとしながらも、歩き方によって予防可能な病気もあるのに、対症療法しかなされていない現状に課題を感じていた。

とはいえ、自分の歩き方は自分では見えない。そこで、ジャパンヘルスケアでは自分の歩き方を画面で確認できる「MIRROR WALK(ミラーウォーク)」というシステムを開発し事業化している。

実証実験では、和洋国府台女子中学校・高等学校の学生約600人を対象に、登下校で必ず通る玄関に3Dセンサーを常設。そしてMIRROR WALKを使ってマットの上を3、4歩歩くだけで自分の歩くシルエットがディスプレイ上に表示される環境を作り上げた。そのシルエットから、足の運びや姿勢を画像診断AIがチェックし、達成度によって「エクセレント」「Good」などの評価を受けることができる。AIが見ているのは歩く姿勢と腕の振り方、足の運びの3点。岡部氏は、「これらの改善点をAIがアドバイスしてくれるので、自主的にキレイな歩き方を身につけられる」と語る。

実際に体験した生徒たちからのアンケートでは、「歩き方がよくなった」(約30%)、「歩き方に興味を持つようになった」(約60%)、「今回の施策で歩き方は健康に大事だと理解した」(約85%)、「これまで歩き方を意識したことはなかったが見た目の印象がいいとキレイになれると理解した」(約85%)といった声が聞かれ、「実証実験の学習効果が高く、今後につながる結果を得られたと思う」と岡部氏は手応えを語った。

岡部氏は、子どもたちこそ姿勢を良くし、正しい歩き方を覚えるべきだと考えている。「この動きが、やがて市川市から全国まで広がってほしい」(岡部氏)。

実証実験事例③:株式会社Aikomi 「認知症者のQOL向上の実現へ」

最後は、株式会社Aikomiのプロジェクト。認知症者に対して、薬物療法ではなくデジタル機器を使って視覚・聴覚などの感覚刺激を提供することで、行動心理症状 (不安・不眠・幻覚・徘徊など)を緩和させる独自の技術プラットフォームの開発に取り組んでいる。

Aikomiが行っている認知症ケアは、認知症者に馴染みのある写真や動画を、独自に開発した専用アプリを使って約3 0分間タブレットに表示させるというもの。Aikomiの共同創業者(COO)の加藤潤一氏によると、自分が好きな歌が流れた瞬間に歌いだしたり、過去の写真が表示されると当時の状況について説明し始めるなど、さまざまな効果が現れるという。また、現在の家族の顔や名前を思い出せない認知症者でも、「家族の昔の写真を見ることで名前を思い出し、口にする方もいました」(加藤氏)。

実証実験では、認知症者の家族に対してインタビューを行い、夫婦で行った旅行の時の写真や自身の昔の姿などの写真を借りるとともに、市川市の文化ミュージアムから借りた昭和時代の市川市の写真を用意して、3日間ケアを行った。

加藤氏が特に大事だと感じているのが認知症者の自発性である。実証実験では以前コーラス隊で歌を歌っていたが、認知症が進行して数年前から参加できなくなっていた認知症者にコーラス隊の写真や動画を見せると、歌っていた頃の風景が呼び覚まされて「もう一度歌いたい」と口にした事例もあったという。

認知症ケアの現場では、ボランティアが知らない認知症者の所に行く際にこうしたシステムがあれば、容易に話題が生まれ、話も広がる。「それだけでも、地域の助け合いの上で非常に大きいと思う」(加藤氏)。

将来的には「だれもが幅広く使用できるように、医療機器として提供していきたい」と加藤氏は展望を述べる。「医療機器にするには、なにか具体的な効果などのエビデンスを用意する必要がある。それらを見える化していくためにも、今後も大学の先生や介護施設などに協力を仰いでいきたい」(加藤氏)。

スタートアップが利用できる実証フィールドの提供にも期待

市川市長の村越祐⺠氏は、「都市課題の解決を市川市で実践することで、世界の都市へ拡げていき、世界中に市川の存在を知っていただきたい」と述べ、さらに取り組みを拡大させていく姿勢を示している。今後も多様な技術や知見を取り入れたオープンイノベーションを⾏っていくという。

一方、スタートアップにとってもこうした実証実験のフィールドが増えれば、技術検証や事業拡大のチャンスにもつなげられる。

専門性を有する民間パートナーと行政が一体となることで、どのような形でスピーディに社会課題が解決されていくのか。全国の自治体からだけでなく、独自の先進技術を世の中に広めようとするスタートアップからも注目が集まっている。

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この記事はスポンサーとの企画によって制作された特集記事であり、編集部の意見が反映されたものではありません。