三井物産グループ社員のひらめきやアイデアをビジネスへと昇華するベンチャースタジオ「Moon Creative Lab」

変化の時代に新たな活路を見出すべく、日本の大手企業で副業解禁や社内起業の動きが広がっている。総合商社として長い歴史を持つ三井物産では、2018年に新規事業開発・ビジネスインキュベーションを目的とした「Moon Creative Lab」を設立。世界中の45,000人を超えるグループ社員から新規事業のアイデアを募り、ゼロからビジネスを創造する。これまで〝つなぐ〟役割を担ってきた三井物産が、新たなステージとなる〝つくる〟存在へと進化しようとしているのだ。今回は、そんなベンチャースタジオ、「Moon Creative Lab」の実態に迫る。

「つなぐ」から「つくる」への挑戦

これまでさまざまな業界の企業や技術、製品を「つなぐ」ことで新しい価値を生み出してきた三井物産は、次のステージとして、自ら主体的にビジネスを「つくる」会社へと進化しようとしている。そこで生まれたのが「Moon Creative Lab(以下Moon)」だ。三井物産から独立した組織で、本社を世界的なイノベーションの中心地、米国シリコンバレーのパロアルトに置く。

Moonでは三井物産グループ約4万5,000人を超える世界中の社員や組織からアイデアを募り、さまざまな視点から検証、事業化する案件を決定する。アイデアを発案した社員は「アントレプレナー・イン・レジデンス(社内起業家)」としてMoonに出向し、Moonに所属するエンジニアやデザイナーなど専門人材とともにビジネスを具現化していく。

Moonから生まれた4つのサービス

ここからは、そんな「Moon」から生まれた4つの新しいベンチャーサービスを紹介する。

●テニスの空きコートを簡単に探せ、プレー仲間をつくれる「テニスベア」

まずは、日本全国のテニスの空きコートや練習イベント、大会、レッスンなどを検索し、予約できる「テニスベア」だ。現在、ユーザー数は10万人を超え、検索できる施設は約3000ある。コロナ禍で、今までジムに通っていた人が屋外スポーツを楽しむようになったこともあり、需要の伸びを感じているという。

「社会人になると、学生時代に楽しんでいたテニスなどの球技と縁が遠くなってしまう人も多いと思います。それはプレーする場所や仲間が身近に存在しないから。そこを解決したいと考えたのがきっかけです」。そう語る江嵜慶さんは、チームで前身となるWEBサイトを立ち上げニーズを確認して、ビジネスを練り上げ、アプリの開発に乗り出した。

「テニスベア」の強みは、第一にテニス好きなユーザーをしっかり抑えていること、そして事業者側への送客までもが可能なことだ。「ユーザーからはアプリが使いやすい、事業者側からは予約が入ってありがたいと喜ばれています」(江嵜さん)

「ベア友」というテニス仲間を作ることができるのもこのアプリの魅力の一つ。「ここで仲間を作り、プレーしたい相手と好きな時に対戦でき、またその対戦データを活用できるような仕組みづくりを進めています」
今後はテニス分野で培ったノウハウや技術をフットサルや野球などにも横展開したいと考えている。「最終的にはスポーツ総合サービスの提供を目指したいですね」

●短時間高品質の学びを提供する音声メディア「VOOX」

ポッドキャストやクラブハウスの登場で音声メディアが注目されるなか、2021年2月にβ版をリリースした「VOOX(ブックス)」。1話10分という短時間でアカデミアからビジネスまで役立つ知識をインプットできる新たな音声メディアだ。
「私自身が音声サービスのヘビーユーザーだったのですが、従来のコンテンツは視聴時間が長いものが多く、忙しい毎日のなかでもっとコンパクトで良質なコンテンツを届けてくれるサービスがあればいいのに……と思っていたんです」と、発案者の洪貴花(ko kika)さんは語る。また、今のプラットフォーム型サービスにはコンテンツがあふれており、自分にあったものを選びにくいということも、課題だと感じていた。
「自分が求めるサービスがないなら、自分で立ち上げようとMoonへの応募を決めました」

厳選した良質なコンテンツを作るため協力を仰いだのが、ハーバードビジネスレビュー元編集長・岩佐文夫氏だ。「生煮えの構想段階だったにもかかわらず、「VOOX」のビジョンに賛同して参画してくださいました。岩佐さんの、ビジネス書をプロデュースした際の知見を生かしながらコンテンツ制作に取り組んでいます」(洪さん)

ダウンロード数は予想以上に多く、5月末までの目標を3月の時点で達成した。

「VOOX」の事業化プロジェクトは、洪さんを含む女性3人のチームで推進してきた。その過程を通じて、洪さんは女性のパワーを改めて痛感したという。「VOOXのヘビーユーザーも、自由に使える時間が少ないワーママが多いんです。何かを学びたいと思ったときにすぐ利用できるサービスに成長させ、社会で活躍する女性たちを増やしたい。VOOXを通じて日本全体の活性化に貢献したいと思っています」

●飲食店をテレワークスペースとして活用する「Suup」

コロナ禍でテレワークが急速に普及したものの、自宅にはそのためのスペースがない。家族がいて集中できない。そんな人が近隣の飲食店やカフェの充電席をスマホで検索・予約し、ワークスペースとして時間単位で利用できるのが「Suup(スープ)」だ。このサービスの発案者である堀口翔平さんは、以前から都会のカフェはいつも混雑していて、すぐに電源のある席が見つからないことに不満を感じていた。

そこでMoonに応募。「空席のある飲食店をワークスペースとして活用するこのサービスは、緊急事態宣言下で経営が厳しいなかで費用をかけずに集客できると、大変喜ばれています」と堀口さんは言う。

現在、個人利用だけでなくベンチャーや中小企業を中心に50社程度が利用しており、従業員のリピート率は70%を超えている。「当面はユーザー数を増やすより、ユーザー体験の改善を重視する予定です。そのうえでホテルやカラオケ、コワーキングスペースの会議室なども提供スポットとして確保したいと考えています」。ウェブ会議に使いやすい個室なども増やし、大手企業へ顧客を広げていく予定だ。また、東京近郊に150カ所ほどあるスポットは、年内に1000カ所への拡大を目指している。
「今後は従業員が自主的に働く場所を選ぶようになることで、生産性やクリエイティビティーにどのような影響が出たかを可視化するなど、ワークスペースを便利に利用できる以上に付加価値を高めていきたいと考えています」

●夜泣きで寝不足になりがちなママを支援する「Lullaby」

最後に紹介する「Lullaby(ララバイ)」は、赤ちゃんの「ねんね習慣・夜泣き」をアプリで改善するサービスだ。このアイデアは、発案者の田子友加里さんの実体験から生まれたもの。田子さんは夫の仕事の都合上アメリカで出産し、異国の地で育児と向き合うことになった。息子の夜泣きに精神的にも肉体的にも追い詰められたとき、医師から紹介されたのが「Sleep Training(ねんねトレーニング)」。それによって、子どもの寝つきが劇的に改善したという。
「ねんねトレーニングは日本ではあまり知られていませんが、欧米ではよく知られた寝かしつけ方法で、その効果は科学的にも証明されています」(田子さん)
日本では、子どもの夜泣きは病気では無いため、具体的な解決策・サポートは少なく、我慢するものといった認識があり、そのために悩み、苦しんでいる母親たちも多いことを知った田子さんは、力になりたいと「Lullaby」の開発をスタートした。

今年公開したアプリでは、ユーザーが入力した月齢・生活習慣等のデータに基づき、一人ひとりにあった昼寝や就寝などのねんねスケジュールを提案してくれる。さらに記録された実際の睡眠時間に合わせて自動的に次の最適なねんね時間を再設定してくれるアダプティブ機能もついている。CtoCプラットフォームを活用し、自分にあった「小児スリープコンサルタント」に相談できる仕組みも用意した。また、家事に仕事に忙しく、時間のないなかでもすぐに理解できるよう、画面や機能のシンプル化は正にいま一番力をいれて取り組んでいる。「UXや機能は今も試行錯誤を重ねていますが、これまでの実験では約95%から夜泣きが改善した、満足したとの声をいただいています」

今後は専用デバイスを開発・提供し、自動的に赤ちゃんのバイタルデータが記憶されていくようにする予定だ。また、蓄積されたデータを病気の予防や未病にも活用するなど、寝ること以外のママの悩みも減らしていきたいと考えている。
「正解のない育児では、多くの母親たちが自信を失います。でもママがねんねトレーニングに取り組んだことで良い結果が出れば、自信につながるはず。日本のママにより自信を持って育児に取り組んでもらえるようになることが私の一番の願いです」

最初から完璧な絵を描く必要はない。ビジネスをつくる責任と喜びを

4人はMoonに出向し、ベンチャーや起業の経験をもつプロフェッショナルと協業することで、マインドセットが大きく変わったという。
「Moonに所属する起業経験者からよく言われたのが、〝最初から完璧な絵を描く必要はない。まずは試して失敗から学んでいこう〟ということです」(Suup: 堀口さん)
人材面でのサポートや、新規事業開発に100%専念できる環境をMoonの魅力としてあげる声も多かった。
「プロジェクトを進めるうえではどんな人物とどんなチームを作るかが重要です。Moon は優秀な人材とのコネクションが豊富で、人的財産をサポートしてもらえるのがありがたかったですね」(テニスベア: 江嵜さん)
「一人でゼロから創業すると守りの部分に時間を割かれまずが、Moonでは事業のコアな部分に自分の時間を注入できる。だからママでも起業にチャレンジできると思います」(Lullaby: 田子さん)

社内起業は権限が増え、やりがいが増す一方で、厳しい面もあるとの声も。
「Moonでは3か月ごとのKPIが達成できないとプロジェクトの継続が承認されないこともあるんです。そうなればプロジェクトに関わってくださってきた外部の方へ大きな迷惑をかけてしまう。正直、胃の痛い日々ですが、それ以上に新しいものを生み出すことに大きなやりがいを感じています」(テニスベア: 江嵜さん)
「上司もいないのに24時間ビジネスのことばかり考えていますね」(Suup: 堀口さん)

最後に、新規事業や起業を考えている会社員へのアドバイスを聞いた。
「大事なことはまず夢やビジョンを語ること。それによって周囲の人を巻き込み、仲間を増やすことだと思います」(VOOX: 洪さん)
「まずは自分が日頃から不満や不便に感じていることについて、誰かにヒアリングする。そんな小さな一歩から始めることがビジネスチャンスにつながるのでは」(Suup:堀口さん)
「社内起業の場合、市場分析や流行りのビジネスモデルに走りがちな面があります。また消費者の行動は決してロジカルなものではありません。だからこそ真摯に、そのビジネスが本当に困っている人を助けるものなのかどうかを考え抜き、ブレないことが大事だと思います」(Lullaby: 田子さん)

Moonでは、今回紹介した4つのサービス以外にも、個人や組織から提案された20を超えるプロジェクトが進行中だという。ビジネス創造を目指す上で、Moonでは以下のような問いを掲げている。
「世の中に新しい価値をつくる仕事か?」「多くの人が困っていることを助け、幸せづくりに貢献する仕事か?」「将来の夢が謳われ、実現に向けたシナリオが描かれている仕事か?」「やり切る能力、覚悟と熱量あるプロジェクトリーダーがいるか?」。
4人の話からは、これらの問いに応えるための想いがひしひしと伝わってきた。そしてそれは、草創期に数々のビジネスを開拓してきた三井物産のDNAでもあるのだろう。

この記事はスポンサーとの企画によって制作された特集記事であり、編集部の意見が反映されたものではありません。